人間模様
劇場公開日:1949年6月14日
解説
「結婚三銃士」に次ぐ児井英生の製作で、丹羽文雄が毎日新聞に連載した小説を「誰がために金はある」の山下與志一と市川崑(和田夏十はペンネーム)が協同で脚本にして、市川崑が「三百六十五夜(1948)」についで監督するメロドラマ作品である。主演は「結婚三銃士」「美貌の顔役」の上原謙「流星」の山口淑子で、助演級には「今日われ恋愛す」「深夜の告白」の月丘千秋、「望みなきに非ず」の江見渉の外、上原の義弟になる三原純が青山五郎と改名してカンバックしている。
1949年製作/89分/日本
配給:新東宝
劇場公開日:1949年6月14日
ストーリー
禁制のキャバレーに女秘書の吉野吟子を連れて行った七曜デパートの青年社長、小松原厚は警官につかまって警察に連行された。彼は一番確実な身許引受人として、学友だった大輪高等女学校長の息子大輪絹彦を夜中に呼び出した。善良そのものの絹彦のおかげで二人は直ぐ釈放されたが、小松原は別に礼も言わない。だが絹彦も何んでもないような顔をしている。吉野吟子にはそんな絹彦が何となく好ましく思えた。ある日、吟子のアパートに絹彦が訪れた。彼は吟子が好きだったと言ったので、レンブラントの額を持ってきたのである。吟子は絹彦の純情にホロリとした。彼女は上海からの引揚者だった。そして悪い情夫の狩野につけ回されている境遇の女だった。小松原は吟子を愛している。狩野には金をやり手を切らせて、彼は求婚したが、吟子は承服せず肉体を求める小松原の腕を脱れた。彼女は絹彦を懐しく思うようになっていた。一方絹彦と許婚の関係にある新井砂丘子は生ぬるく生活力の強くない絹彦が心から好きになり切れない。砂丘子は小松原の話を聞くと、新興成金で活動力のある彼のような男こそ理想的な男性だと思って、自分から小松原の秘書を志願した。だが、吟子がいる限り小松原は秘書を替えない。砂丘子はヤミ会社の木下の秘書になってしまった。絹彦は幼馴染みの砂丘子のそんな態度をさびしく思ったが、どうしようもない感じなのだ。吟子は小松原の申出を拒った翌日から盲腸で寝込んでしまった。絹彦は早速吟子を見舞い、徹夜して看護した。報酬も何も考えない無我の献身である。吟子はまくらを涙でぬらし彼への慕情を胸に秘めていた。小松原から手術代を借りるのがいやだと吟子がいうので絹彦は持物を売り病院の交渉を始めている。折も折、大輪高女校長である絹彦の母が脳いっ血で死んでしまった。絹彦が校長になることが決定した。こんな騒ぎになったので、彼は小松原に吟子のことを託した。小松原は早速、吟子を訪れ、病後の保養に彼女を熱海につれて行った。小松原は再び求婚した気の弱くなっている吟子は、ドン・ファンだと思っていた彼にも信実のあること、本当に自分を愛していることを知りその抱擁に浸った。小松原と吟子の結婚式の日、招かれた絹彦は花嫁姿の吟子を心から美しいと賛美した。それと同時に何かさびしさを感じたが、人の善い彼は二人を祝福しその多幸を祈るのだった。ふと、絹彦は砂丘子のことを思い出した。近代的な娘、自由を求める女性、その砂丘子は人生の階段をふみはずそうとしている。絹彦は急に心配になった。木下のかん策にひっかかっている砂丘子を救おう、彼女が何処にいるにせよ、必ず見つけ出して新らしき生活を切り拓かせよう。絹彦はそう思って胸を張った。