破戒(1948 木下恵介)

劇場公開日:

解説

原作は島崎藤村の小説である。この映画化は一昨年東宝で企画され、阿部豊演出、高峰秀子、池部良主演でロケーションまで行われたが、争議のため製作を中止した。今回当時の製作者筈見恒夫のあっせんにより、松竹京都が同企画をとりあげることになった。「武装警官隊」「一寸法師(1948)」の小倉浩一郎が製作を担当「大曽根家の朝」「女優(1947)」「夜の女たち」等の久板栄二郎の脚本をそのまま使用、監督は「大曽根家の朝」「女」「肖像」の木下恵介が、松竹の東西一元化による演出家交流の第一陣として、とくに大船から京都へ出張する。カメラは同様大船の楠田浩之。主演は前回の池部良(東宝)と松竹少女歌劇出身で「肖像」にデビューした桂木洋子。その他民芸より「安城家の舞踏会」「わが生涯のかがやける日」の滝沢修、清水将夫、永田靖、宇野重吉それに「白い野獣」の北林谷栄、俳優座より「肖像」の小沢栄太郎「颱風圏の女」の東野英治郎「肖像」の東山千栄子、村瀬幸子、それに「女性の勝利」の松本克平が賛助出演、薄田研二も出演する。

1948年製作/99分/日本
配給:松竹・京都
劇場公開日:1948年12月6日

ストーリー

巷はあげて自由と平等が叫ばれている文明開花の世の中であった。しかし因習と偏見は、なお多くの人の心をとらえて放さなかった。水清い千曲川のほとり、ここ飯山町に、夢多い青春を何故か悲しみ、ひと知れず秘密をいだいて陰多い日を送る一青年がいた。彼の名は瀬川丑松、当年二十四歳、新しい教育理念に目覚めて教ベンをとる身であった。だがその秘密--それは彼が被差別部落の出であるという事であった。同僚の土屋銀之助は師範時代からの心を許し合った友で当時の階級差別感を説く被差別部落出の論客猪子蓮太郎に心酔している一青年であったが、その友にすら彼は真実を語れなかった。遠い山奥に一人、息子の出世を夢見てさびしく明暮を送っている父の「隠せ!」「身分を打明けるな」というしったは幾度のおう脳の果てにも、がんとして彼にこの秘密のきずなをとかなかった。丑松と一緒に蓮華寺に下宿していたお志保は、彼と同じ教べんをとる風間老の先妻の娘であった。風間は退職を言渡された今となっても「おれは士族だ」と誇示し、明日の糧を求めようとしない。こいした父の様を見るにつけお志保はかえって身分に対する言い様のない反感に憎悪を催すのであった。心の友、そして相引かれる人の進歩的な気持ちに丑松はますます悩まなければならなかった。こうした時父のふ報がもたらされた。取るものもとりあえずわが家に辿りついた丑松に、親族郷党は父の遺言を守って、出世してくれと励ますのであった。かくて飯山の町へ帰った丑松は温かいお志保の思慕にふれ、よみがえるように思われたが幸福は永くは続かなかった。代議士高柳が金策につきて、もらった妻は丑松と同じ被差別部落の出で互いに秘密を守ろうと懇願する高柳に「私は全然そんな女を知りません」と突っぱねる。高柳の復しゅうは恐ろしかった。丑松の身分を、かねて犬猿の仲の同僚勝野にもらしたのである。町は怒とうの如くに騒ぎ立った「不浄者を街から追い出せ」そうしたけん騒の声の中にも決然と丑松を擁護する二人の尊い姿があった。「丑松が苦しむなら私も苦しもう、闘うのなら私も闘おう」千曲川を上る屋形船の中に丑松により添う、けなげなお志保の姿が見えた。

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