浦島太郎の後裔

劇場公開日:

解説

「勝利の日まで」に次ぐ成瀬巳喜男演出の東宝第三撮影所第一回作品。

1946年製作/82分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1946年3月28日

ストーリー

HA・A……O、HA・A……O……ラジオが不思議なさけび声を放送していた。これは最近南方から復員したヒゲもじゃの男浦島五郎の放送である。彼は言う、これは歌ではない「私は不幸だ」という言葉だ、日本の現実は僕にこう叫ばせずに置かない、HA・AO……と。そしてその声は全国津々浦々に放送されて行った。新聞「大権威」の婦人記者龍田阿加子はトッサに浦島の叫び声をものにしたらビックニュースになると思い彼に議事堂の頂上から叫ぶことをすすめる。浦島はビックリするがすすめられるままに議事堂の塔上に上がりHO・A……O……をさけびつづける。そして「大権威」は浦島の記事を写真入りで大々的に報道して彼の人気をあおった。「大権威」の社長唐根は今や人気の絶頂にある浦島をニセ民主主義政党日本幸福党に五十万円で売りつける。かくて浦島はニセ政党のロボットと化し去った。日本幸福党のパトロン豪田の娘乙子は浦島に憧れて彼の秘書となる。浦島を賛美する乙子は彼の英雄化を助長していった。もはや浦島は日本の不幸を叫ぶ純な青年ではなく、ニセ政党に踊らされる傀儡となってしまった。一方阿加子は浦島の歩む道の間違いを悲しみ忠告する。浦島はほんとに自分に力があるかないかを試してみようと日本幸福党大会に特徴的なヒゲを剃り落として演壇に上がりHA・A……O……を絶叫する。しかし聴衆はヒゲのない浦島を信ぜず「真物の浦島を出せ」とどなる。狂気の如くさけぶ浦島は遂にヒゲのない自分には何の力もない事を知って失意の底に落ちた。彼は始めてニセ政党の手から離れて覚醒した--。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

4.0戦後民主主義と声の政治

2023年1月13日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

1946年。成瀬巳喜男監督。若い女性記者である主人公は婦人雑誌の編集長である叔母から「頭はからっぽ」と指摘されている。そんなとき、ラジオで孤島から帰還した元日本兵の叫び(文字通りの叫び声)を聞き、叔母から記事にするようにそそのかされる。元日本兵を探し当てた主人公は、戦後の民衆の苦しみを代表する叫びとして、男を国会議事堂に上らせ、一躍時の人に仕立てるが、という話。
民衆の苦しみの叫びを表面化するために、文字通り単調な叫び声として集約して「代表」すること、しかし、代表者が権力構造に取り込まれ利用されることで本来の民衆の苦しみは見逃されること。英雄願望は一方に従順な大衆を生みだすだけだという衆愚観。戯画的なまでに「代表=表象」問題が集約されている。一人の英雄は実は朴訥とした浮浪者であり、一つの声は繰り返される単調な叫び声になっていることで、「一つであること」がいかにして力を持つかが徹底的にコケにされている。風刺映画というよりほとんどギャグ映画。
静かに流れる成瀬節の片鱗は見えず、これが成瀬映画とはにわかに信じたがいが、瓦礫と化した東京の街は印象的。

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