逢いびき(1974)
劇場公開日:1976年2月11日
解説
平凡な家庭の主婦と開業医の悲痛な恋を描いたノエル・カワードの戯曲「静物画」の再映画化作品。製作はセシル・クラーク、監督はTV出身のアラン・ブリッジス、脚本はジョン・ボウエン、撮影はアーサー・イベットソン、音楽はシリル・オーナデンが各々担当。出演はソフィア・ローレン、リチャード・バートン、ジャック・ヘドレー、ローズマリー・リーチ、ジョン・ル・メズリヤーなど。
1974年製作/イギリス
原題または英題:Brief Encounter
配給:東宝東和
劇場公開日:1976年2月11日
ストーリー
アンナ(ソフィア・ローレン)は、郊外の家から週一回、社会相談所の相談員として奉仕するために、ウィンチェスター駅の乗降客となる。ある日の午後、夫と子どもの待つ家路につこうとしたときだった。アンナの眼にゴミが入り、偶然にも駅の喫茶店に居合わせた中年の紳士の手当てをうけた。紳士は礼をのべるアンナの声をうしろに、すでに雑踏の中に消えていた。静かな黄昏が訪れると、灯のともったアンナの家庭に平和な団欒のひとときが流れる。弁護士である夫グレアム(ジャック・ヘドレー)はこどもたちの良き父であり、彼女にとっては十七年間連れそった申し分のない夫だ。数日後、アンナが公園のベンチに座って故郷イタリアに想いをはせていたとき、一人の男が声をかけた。例の眼の手当てをしてくれた紳士だった。彼はバシングストークの開業医でアレック・ハーベイ(リチャード・バートン)といった。それはまったく偶然な邂逅だった。その日は、コーヒーを飲んで別れたが、その後、突然相談所にハーベイが訪ねてきた。そして、彼はアンナを食事に誘った。一杯のワインに頬を染めるアンナをハーベイは美しいと思った。二人はその夜、野外宗教劇を観劇した。「ドリーが君を宗教劇の会場で見たそうだ」。夫の何げない一言に、アンナの背筋に冷たいものが走った。もう決してあの人には逢うまいと、彼女は決心した。相談所も一週間休むことにした。しかし、もう逢わないと思えば思うほど、情熱がうずき、その決心は崩れ去った。つらい恋だった。その日、二人は肩を寄せ合い、手をとり合って海岸を散歩した。ハーベイとて妻のある身、一週間に一度だけの逢瀬でもアンナは幸福だった。しかしそんな幸福も長くは続かなかった。彼女の支えをたよって相談所に来ていたゲインズ夫人(ローズマリー・リーチ)が、アンナの留守中自殺を計ったのだ。夫に棄てられ、貧困と不幸に絶望したゲインズ夫人は唯一の理解者アンナにも見棄てられたと思ったことからの出来事だった。アンナは悔恨にさいなまれた。やがて再会したアンナを前にして、ハーベイの激情がほとばしった。二人はハーベイの友人スティーブ(ジョン・ル・メズリヤー)のアパートで初めて接吻した。しかし二人の気持ちが高まったとき、突然スティーブが帰ってきた。恥づかしさと悔いで、アンナはみじめだった。ざわめく夕暮れの駅の喫茶室で、二人はいつものように列車を待った。オーストラリアに学究のために赴任するというハーベイに、もう永久に会えないかもしれない。二人は万感を胸に秘め、おし黙ったまま見つめあった。そのとき、友人のドリーが二人の間に割り込んできた。ハーベイの乗る列車のベルが鳴り、彼はホームに姿を消した。やがて静寂が家をつつみ込む頃、アンナはグレアムのために夕食の用意をする。「君はどこか遠くにいっていたね」。グレアムの言葉がアンナの胸にしみじみと広がっていった。