ジャンゴ 繋がれざる者のレビュー・感想・評価
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西部には行かない西部劇
タランティーノがウエスタンを撮る、
と聞かされれば期待するなというほうが無理。
大抵のクエンティンファンはそう思うだろう。
で、初日の初回上映で観た今作。
はっきり言って評価は分かれそう。
自分は手放しでは絶賛できないというのが正直な感想。
しかしタランティーノ映画らしい素晴らしいショットも多数ある。
・クリストフ・ヴァルツはオスカーにふさわしい存在感。
この映画はドクターシュルツの価値観で成立したと言える。主人公よりずっと魅力的なのが問題だ。
・ディカプリオのキャラクターも実に立ってた。
ディカプはまともじゃない人物をやらせるに限る。
この二人の会話シーンがタランティーノ脚本の最たる物なんだが
一番面白いのが室内での会話ってのはアクション映画としてどうなのか(笑)
奴隷問題や差別に対する激しい怒りがそこかしこに込められていて
アメリカでの大ヒットはそこが評価されたものだろう。
日本ではどうだろうか。
165分といつものように長いし、会話シーンを楽しめる観客じゃないとキツイかも。
(実際、上映前スポーツ新聞を読んでいたオッサンは途中で出てった)
ラストまでが長いし、アクション的なカタルシスも物足りなかった。
少し期待しすぎていたかもしれない。
映画の申し子、タランティーノ。
まず、感想としては大変面白かった。
それにしても、タランティーノは凄い。
様々な、異色の作品を作り出す。
そのヒットメーカとしての役割、
プレッシャーをも、ものともせず、
極めて、カルト要素の強い、マニアックな
作品を次々に世に送り出す。
私もその信奉者なんですが、この監督
愛着が有りすぎるのか、のめり込みすぎ
と言うか、大体、尺が長い。
脚本から自分でやっちゃうと、バサバサとカット出来ないのかな。
マニアックなファンは楽しみ方知ってる
からいいけど、ビギナーは長いって
飽きるかもしれません。
この作品で良かったのは、サミュエル!
あくの強い憎まれ役で、まあ、濃いーわ。
それだけでもみる価値あり。
まるでディカプリオを新人のように、
あしらうか如き、なりきりよう。
元ジェダイとは思えない悪人です(笑)
さて、もう一度、じっくり見ましょう。
それが、
タランティーノ作品の楽しみ方です。
タランティーノ版「許されざる者」の趣き・・・
ジェイミー・フォックスがかっこよすぎると思うけど、興味深い内容だった。西部劇なのに、ネイティブ・アメリカンを一切出さないところが、いかにもタランティーノらしい。こんな西部劇もあっていいのかな。黒人への差別を真正面から描いている。差別するものは断じて許さない感じ。題名から、マカロニ・ウエスタンへのオマージュだということはわかるし、あの主題歌が流れてきたところで、わくわくしてきた。でも、タランティーノ史上最高傑作とかいうふれこみには期待しただけにいまいち。いつものことながら、長すぎる。ジャンゴが欠点とかほとんどなくて、奴隷だったけどスーパーマンなので、感情移入がしにくい。敵役のレオはヒステリックなワンパターン演技で、観飽きた感じ。その点がマイナス要因だと思う。アカデミー助演男優賞二度目のクリストフ・ヴォルツと、かなり化けて楽しそうに演じていたサミュエル・L・ジャクソンはよかったけど・・・ うれしかったのは、元祖ジャンゴ、フランコ・ネロがカメオ出演していたこと。粋なことしてくれるね、タランティーノ!
もはやタランティーノに敵ナシ!
タランティーノが西部劇を撮る。しかも、マカロニ・ウエスタン風に。
そう聞いた時、胸踊った。ご存知の通り、タランティーノは熱狂的なマカロニ・ウエスタン・マニア。
本当は劇場で見たかったのだが、近くの映画で公開されず(泣)、レンタルになるのを待っていた。見たくても見れなかった欲求は充分に満たされた!
「イングロリアス・バスターズ」に続き、本作も大当たり!
まず、最高の娯楽映画。シンプルな物語だけどメリハリがあって、起承転結、非常に胸のすく活劇。
“ジャンゴ”というタイトルや主人公の名前やテーマ曲、コテコテとした感じ…マカロニ・ウエスタンへのオマージュにニヤリ。初代ジャンゴも特別出演。
男二人のバディ・ムービー、賞金稼ぎの旅、愛妻を取り戻す復讐劇、黒人奴隷問題を扱った社会派の一面、そこにタランティーノらしいバイオレンス、ユーモア、映画愛をたっぷり織り交ぜ、その巧みな手腕は賞賛モノ!
タランティーノは役者の魅力を引き出すのも巧い。今回も役者たちが光っている。
ジャンゴ役ジェイミー・フォックスは、一奴隷からいっぱしのガンマンへの変貌ぶり、愛妻を取り戻そうとする男の格好良さを見事に演じきっていて、「Ray」以来の当たり役。
ディカプリオの悪役もイイが、特筆すべきはクリストフ・ヴァルツとサミュエル・L・ジャクソン。
ヴァルツはドイツから来た歯科医兼賞金稼ぎのシュルツ。紳士的な物腰でユーモラスな一面を見せる傍ら、腕は一流。黒人に偏見を持っておらず、ジャンゴと絆を育み賞金稼ぎのイロハを叩き込み、情にも厚く、レオ演じる非道な農園主に静かに怒りが沸く。う〜ん、何て美味しい役!
サミュエルはレオに仕える奴隷頭。口は悪いが、陰で主人を操るほど狡猾で、ジャンゴとシュルツの目的を一早く見抜く。悪役としてレオより場をさらう。
この映画、黒人奴隷の描写に、映画で描かれる黒人描写に物申す某黒人監督がいつもながら噛み付いた。
だけど、批判される覚えは全く無いと感じた。
確かに“ニガー”を連発、黒人奴隷の描写は目に余るが、それがかえって問題を提起している。偽善など微塵も無い、ストレートな訴え。
奴隷からガンマンへ、妻と自由を取り戻すジャンゴの姿はこれ以上ないメッセージではないか!
(KKKを徹底的におちょくったシーンも最高)
受けにくいジャンルやテーマを扱いながらも、映画はヒット、オスカーも受賞。
もはやタランティーノに敵ナシ!
堪能!
ジェイミー・フォックスがイイ!!
『ジャッキー・ブラウン』パム・グリアが万人受けしなかった仇を、J・フォックスが返してくれたような気がして、個人的にはとっても良かった。
ヴァルツ、サミュエル、ディカプリオと「攻め」の俳優陣の中、「受け」にまわったのも良かったのかも。
タランティーノ登場シーンもイイ!!
言い合い、撃合い、大爆発で、これぞタラ映画の真骨頂。
サミュエル・L・ジャクソンもイイ!!
うっとうしいまでの大熱演。若い者に花を持たせる気遣いなんて一切無し。それでこそ我らのサミュエルだ!!
フランコ・ネロ、ドン・ジョンソン、ゾーイ・ベルをチョロっと観れたのもイイ!!
いやー、イイこと尽くめだったんですが…。
ちょっとディカプリオが可哀相だったなー。
手練のヴァルツ、サミュエルのおっさんに囲まれて、かすんでしまった感が。
頭蓋骨がどうのっていう長台詞シーンもイマイチ。
タラ映画の長台詞シーンといえば、C・ウォーケン(パルプフィクション)の金時計話が秀逸ですが、その狂気・破壊力に遠く及ばず。
全体的には大満足の2時間半でした!!
Dr.シュルツ&C.キャンディを観る映画
クリストフ・ヴァルツを楽しむ
コンビの魅力にすっかりやられました
バディ物は大好き、賞金稼ぎコンビの魅力にすっかりやられました。
暗闇からDr.シュルツが人を食ったような馬車で現れ急展開。乾いた、テンポの良い活劇でした。
ジャンゴとDr.シュルツのコンビが凄く良かった。出会いからの、けっこうベタな進行がいいんです、こういうの観たかったんだよって感じです。二人で馬を駆るシーンはカッコよくて。
クリストフ・ワルツ演じるDr.シュルツが、一瞬だけ見せる親密な笑顔なんか、もう、花マル!です。
世の中の経験に乏しくちょっと可愛げだったジャンゴの印象が、妻を救い出すため乗りこんだキャンディ農場では一転しハッとさせられました。シュルツほどの男もたじろぐ地獄は、彼のホームグラウンドなのだ、と。
衣装がキャラクターの個性を引き立てていてとても良かったです。
残酷な農場主をねちっこく冷酷に演じたレオナルド・ディカプリオ、凄みがありました。
最っっっ高!!!
最終的に2回観ました。
とにかく一番言いたいのは「クリストフ・ヴァルツ最高!!」!!
冒頭から話の分からない奴隷商人を突然ブッ殺すDr.シュルツに初っ端からシビれまくりでした。
紳士なルックスと気取らないのに何だか華がある話し方で、目にも止まらない機敏な動作で銃を取り出し容赦無く撃ち殺し、
銃をくるくるっと回して華麗に腰にしまうあのガンスピン。格好良すぎて鳥肌立ちまくり。この時点でDr.シュルツの虜。
ちょっとした手の動き、目線の動かし方まで細部に渡り素敵すぎます。
テキサスの酒場で保安官をブッ殺し駆けつけた連邦保安官に「こいつは実はお尋ね者の賞金首ですよ。」と巧みな話術でキメるシュルツ、
「マジかよ」と言わんばかりに目を丸くし驚くジャンゴ、もう最高です。
農場で当初の目的の三兄弟をブッ殺した夜、農場の主が仲間をたくさん連れて復讐(?)しに来る。
その時にみんな白い布袋に穴を開けたものを被っているけど、どう見ても穴の位置がめちゃくちゃ。
「クソッ前が見えねえ!!」、「動かなければ見えるけど馬に乗ったら何にも見えねえ!」、
からの「袋無くてもいいんじゃない?」→農場主「袋をかぶんなきゃ何の意味もねえだろ!これは襲撃だぞ!!?」
この辺のやり取りにニヤニヤ。タランティーノ独特の何とも言えない笑い、好きです。
ストーリーもガンアクションもキャスティングも全部最高でした。
最後に監督自らダイナマイトで吹っ飛んだところは吹き出しました。
バンバン人をブッ殺す場面がたくさん出てくるけど、ところどころ、というよりは割といっぱい、馬だったり壁だったり綿の花だったり服だったり雪だったり、
真っ白いものに鮮血がびゃっと飛び散るシーンがあって、色のコントラストや大量の血にゾクゾク。
実際人を撃ったらあんなにドバドバびしゃびしゃ血が出るのかな?
あと個人的にはDr.シュルツのファッションもツボでした。
グレーのジャケットとパンツに、中のベストは暗い緑色のチェックのスリーピースのスーツ(燕尾服かな?)に、お洒落で紳士なシルクハット、
雪山で着ていたもふもふ毛皮のロングコート、ジャンゴのド真っ青な衣装も何だかんだ素敵。
最後に二丁拳銃でバンバン撃ちまくるジャンゴはめちゃくちゃ格好良かったし、バタバタ人が死ぬのもスカッとする。
Dr.シュルツに入れ込みすぎていたからか、あそこで死んでしまって本当に悲しかった。
出来るならバディとして二人でずっとバウンティハンターでやっていって欲しかったです。
ラスト、屋敷が爆発してそれを背に不敵にニヤリとするジャンゴ、そして馬に乗って妻にゆっくりと一歩ずつ近づいていく姿は本当に物語の中の王子様のようでした。
BGMのチョイスや入れるタイミング、カメラワーク等いろんなところが何となくアニメーション的だと感じたのは私だけかな?
3時間近くと長めですが、こういういい映画を観たあとは何とも言い難い幸福感に包まれます。
もう一度観たい!DVD買うぞっ
ヴァルツさんがいいですね
スカッとする、クセになる!
自由人を繋ぎ止めてはおけないのだ
東京の封切から一カ月遅れでやっとこさ我が県にもやってきましたよ、ジャンゴ。
一体何がどういった事情で僻地の公開遅らせたのかって話ですよ、こんな傑作を!
早く観せろっつーの!
待った甲斐はあったけども!あったのだけども!
タランティーノが今回も最高なの撮ってくれたものですから!
待った甲斐はあったのだけども!釈然としない!
いっやあ本当ね、最高でしたわ!タランティーノ流ジャンルミックス!今回のもキレ味鋭し!西部劇meetsブラックスプロイテーション(どっちにもそんな明るくなくてこんな表現使うのもアレですが)とでも言えばよいのか!
もうね、イチイチ殺される奴らが派手に破壊されるからグロさより奇妙な気持ちのよさ!
イチイチ微妙にズレたノリが笑いを誘ってくるし!
イチイチ登場するキャラクターのアクが強いからそのキャラの説得力だけで以って物語を牽引する力強さというか!
スクリーンから漲る圧倒的パワーに心がワシ掴まれまくり!この吸引力!
そしてそして!ラストで迎えるめっちゃ気持ちのよい爽快感!カタルシス!
スカッと終わるし!こっちもスカッと退館!
まあ、あの、アメリカの暗部というか、黒人奴隷制度や奴隷商人の黒歴史については全く詳しくないのでそちらについての下手クソな言及はしません。
しませんが、娯楽作品という一点に置いてももう一級品でしたよ。
まいやね、それでもタランティーノですからね。人を選ぶ映画って部分はありますが。
レオナルド・ディカプリオのキレ芸だけでも一見の価値ありますからw
映画好きを自称するなら外せない
見ようによっては残虐三昧
こんな歴史映画があってもいいじゃないか!
昨年の夏から待ち焦がれていたジャンゴをようやく鑑賞することができた。
あえて平日のレイトショーを選び、私とあと二組しかいない、ほぼ貸し切り状態で臨んだ。
結論としては、私の中ではここ5年の最高傑作といえる。
もちろんタランティーノの大ファンだから、点数はかなり甘いんだろうと思う。
しかし、前作のイングロリアスバスターズをあまり好きになれなかった私としては、ひさびさに気持ちよくタランティーノ作品を見せていただいたので評価アップしまくりだったんですよ。
イングロリアスバスターズでのクリストフ・ヴァルツは最高だった、もっと彼の演技を見せてくれ!ブラピいらんから!と、渇望したくなるほどだったが、ジャンゴでは彼の名演技をたっぷりと見させてもらって大満足。
最後のシーンで男のプライドを貫き通した時など、ストーリー的には(アチャー)な行動だったんだろうが、私はこれぞ男!とばかりに心の中で拍手喝采。
どちらかというと本来のエンディングシーンよりもあのシーンにグッときてしまった。
そしてディカプリオの素晴らしさときたら!
今まで軽蔑してました、ごめんなさい。
イングロリアスバスターズでのあのブラピのドヤ顔演技が鼻について仕方なかった私は、最新作にはディカプリオが出ると聞いてガッカリしたもんだった。
それがどうよ?ものすごくナチュラルに、南部のアホボンを演じ切れているではないか!
ホント、ブラピみたいなエラ張りダイコンなんかと同一視した私が申しわけなかった。
そしていつものタランティーノ組の人たち。ファンとしては、彼らをスクリーン上で認める度に嬉しくなってしまう。
超芸達者のマイケル・パークスにスタントマンの姉ちゃん、サミュエル・L・ジャクソン。。。
しかし、今回のサミュエル・ジャクソンの役柄は衝撃的だった。今まで彼が演じた役柄の中で一番黒かったんじゃないですかね?
てか、あんまり映画見ないので、サミュエル・ジャクソンが悪役した記憶がないんですけど、あった?
だいたい責任感があって、正義感があって、主人公に的確なアドバイスを与えるような良い役ばかりの印象があるんだが、今回ばかりは真っ黒。
アンクル・トムを大げさにディフォルメしたようなベタな奴隷頭キャラなのに、3代目ご主人様であるアホのディカプリオと二人っきりになったらふんぞり返って酒飲みながら指示を出す影の支配者。
あれはあれでかっこよかったけどね。
そしてタランティーノご本人、ホント彼は自分の作品中で一瞬で死ぬ役が好きだねえ。今回も気持ちいいくらいアッサリした死にっぷり。お約束大好き。
さて、ストーリーだが、やはりモチーフをホロコーストから奴隷制度に変えただけで、ベースはイングロリアスバスターズと同じ。
歴史を独自に解釈し、エンターテインメントを混ぜ込んで、ヒーローが悪者をぶっつぶして気持ちの良い作品にしたもの。
イングロリアスバスターズではヒーローは女性(しかしヒロインという語感に違和感)で、最後に死んでしまうという後味の悪さが残ったが本作品は非常にサワヤカで痛快な物語だった。
グロシーンが結構出るのでR15だけど、お子様もお年寄りも楽しめる勧善懲悪ストーリー。
私が戦国自衛隊が大好きな理由が、この映画で少しわかったかもしれない。
歴史上起こりえなかったことを、痛快なヒーローものとして起こしてしまう物語。
日本だと「歴史を歪めるのはダメだ」なんて識者が反対するだろうけど、同じ物語を、今度は沖縄戦、もしくはアメリカの日本兵捕虜収容所あたりをモチーフにして作ってもらいたい。
きっとスッゲエ気持ちいいだろうなあ。
またタランティーノがやってくれた
タランティーノが西部劇を撮ると聞いただけでワクワクするのだが、予想を色んな意味で上回る出来であった。
オープニングからしてタランティーノらしいB級感溢れる演出だ。「続・荒野の用心棒」で用いられたテーマを“Django”繋がりで使用。ロゴの雰囲気も明らかにマカロニ・ウェスタンを意識していて、ファンならば早速引き込まれるはずだ。
そこからはお約束の展開が待っている。ジャンゴを買うために、キング・シュルツは速攻で奴隷商人を撃ち殺し、2人の旅路が始まるのだ。
ここからカルヴィンの屋敷に向かうまでの前半のくだりは文句なしの出来栄えである。タランティーノはお得意の「コミカルなバイオレンス」を披露しつつ、お目当ての賞金首を始末していく2人の姿を最高にクールに描く。私が思うにタランティーノは「かっこよさ」を完璧に近い形で理解している。本当にかっこいい奴はどこかしら変なのだ。
例えば主演のジェイミー・フォックス演じるジャンゴが一番かっこいいのはいつなのか。それは自分の妻に暴力を振るってきた悪人三兄弟に、突飛な服を着たまま復讐をするときだ。袖に隠した銃で相手の胸に穴を空け、決め台詞を言う。ダサいはずなのに、最高にキマっている。
さらにこの前半部分では殺害シーンが非常に軽い。もちろん良い意味でだ。ここにはタランティーノが偏愛する「殺しの美学」がふんだんに詰め込まれている。綿花畑でキング・シュルツが三兄弟の最後の1人を撃ち殺す場面では、真っ白な綿花に大量の血がほとばしる。残酷だが、この演出はタランティーノと彼が敬愛するバイオレンスアクションの先人たちにしかできない、見事なセンスで飾られた映像だ。
問題はここからだ。カルヴィンと出会ってからのストーリーは、軽快、というより陰惨なジョークに満ちてくる。
顕著なのは、カルヴィンが趣味で行う「マンディンゴ・ファイト」である。これは金持ちが自分の奴隷を剣闘士に見立てて、他の奴隷とどちらかが死ぬまで戦わせるという非常に悪趣味なものだ。もちろん史実にはこういった見せ物が行われた記録は無い。つまりタランティーノの創作であるのだが、彼らしくない生臭い演出だ。相手の目をつぶし、金槌で頭蓋骨を叩き割る。これだけ聞くといつもと同じに聞こえるが、爽快感の欠片もなく不快感に満ちている。
この他にも、脱走した奴隷を生きたまま犬に食わせたりとやりたい放題だ。確かにタランティーノは奴隷制度の生々しさを本気で観客に伝えようとしていた。ある意味でその意図は理解できたが、彼が得意とするのは「罪悪感を伴わない殺人」だ。奴隷制の悲惨さについて、過剰な演出で説教されても逆効果だ。第一、彼の持ち味のスピード感がこれらの場面でかなり失われる。
さらにタランティーノはこの悲惨な実態を暴くために、好都合なキャラクターを用意した。それがクリストフ・ヴァルツ演じるドクター・キング・シュルツである。彼はドイツ出身の賞金稼ぎだが、「奴隷制度の無い国から来た」というだけで奴隷制度を忌み嫌う。実際はそれが正しいことだろう。おそらく私たちもあの現状を目の当たりにしたら不快感を催すに違いない。だがそれでは彼が命を賭けて、ジャンゴの手助けをする理由にはならない。逆に、得体の知れないドイツ人をジャンゴがあっさり信用する理由にもならない。
しかしさすがはクリストフ・ヴァルツ。バックグラウンドに欠ける人物でも、彼が演じることで不思議と説得力のあるガンマンに変貌する。そもそも最も「かっこいい」人物を選ぶなら間違いなく彼だ。独特の皮肉ぶった笑い、賞金首となれば(たまに賞金首でなくても)あっさりと殺すそのスタンス。その割には虐げられる奴隷を見たら、何が何でも救おうとする。こういった矛盾した要素を持ち合わせるのに、そのすべてを完璧に統合し、見ている間は一切の疑問を抱かせない。とてつもなく魅力的で素晴らしい役者だ。この映画の空気は全部彼が作っていると言っても過言ではない。
ジェイミー・フォックスのジャンゴも悪くない。劇中ほとんど笑わないが、彼とヴァルツのコンビそのものはかなり笑える。タランティーノ的には至ってまじめな人間だから、締める所はきちんと締めてくれるし、終盤の乱戦もかなり見応えがある。なにかと披露する決め台詞もダサかっこいい。
しかしこの映画の重苦しい部分も彼が同時に作り出している。妻に行われた拷問シーンを回想し、怒りに燃えるジャンゴ。その気持ちは大いに分かるが、タランティーノには道徳を述べる力は無い。「キル・ビル」も同じタイプの話だが、あちらは道徳観念をかなぐり捨てていたので、彼の持ち味を存分に生かしたアクションとして成立していた。こちらのストーリーの骨子はしっかりしているのだから、もう少しくだけたキャラクターが主人公でも良かったのでは。
この2人の正義の味方も良かったが、ベストはディカプリオ演じる残忍なカルヴィン・キャンディだ。彼が放つ残忍なオーラは見る者も黙らせる。こちらを見て、ニタリと笑うだけでどんな人物なのかが一目瞭然だ。金に目がくらみ、偽の商談に騙されている間も、一切の気の弛みを許さない。そんな彼が騙されたと分かったらどうなるか。ディカプリオ渾身の怒り狂う演技は見応え抜群だ。カルヴィン・キャンディが狂気をはらんだブラック・ジョークそのものであることを全身で表現していて、彼が出ている間はクリストフ・ヴァルツでさえ食われている。
ただアカデミー助演男優賞にはノミネートすらされなかった。これは明らかにモラル的な問題だろう。素晴らしい演技だったが、その役柄は奴隷制度を茶化したものだ。奴隷制度に我慢できなくなり銃を引き抜くクリストフ・ヴァルツを選ぶ方がずっと感じが良い(もちろんヴァルツが素晴らしいのも確かだが)。
バックに流れる選曲も完璧で、安っぽさをあえて出したカメラワーク(人物の顔に急に寄るカメラなど)もスタイリッシュなシーンとのメリハリが利いていて楽しませてくれる。だが先ほど指摘した重苦しい雰囲気のせいで長丁場に感じることもあるだろう。当然見終わった後はドッと疲れが出てくる。だがタランティーノの今までの映画と同じく、「ジャンゴ」は見たことがあるのに、今までに無い形の新しい映画として成立している。びっくりするほど良くできた娯楽映画の傑作だ。
(13年3月22日鑑賞)
全171件中、121~140件目を表示