ル・アーヴルの靴みがき
劇場公開日 2012年4月28日
解説
「浮き雲」「過去のない男」のアキ・カウリスマキ監督が、フランスの港町ル・アーブルに生きる人々の姿を描いた人情劇。北フランスの港町ル・アーブルの駅前で靴磨きをして暮らしているマルセルは、妻アルレッティと愛犬ライカとともにつつましい生活を送っていた。そんなある日、港にアフリカからの不法移民が乗ったコンテナが漂着し、マルセルは警察に追われていた1人の移民の少年イングリッサと出会う。そしてその頃、アルレッティは医師から余命宣告を受けており……。妻のアルレッティ役にカウリスマキ作品常連のカティ・オウティネン。
2011年製作/93分/フィンランド・フランス・ドイツ合作
原題:Le Havre
配給:ユーロスペース
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鍛え抜かれた優しさは、ときにユーモラスに、ときに頑固に隣近所に伝染していく。
凹凸のない平凡な画像ですが、静かに心に伝わってくる。
とても大切にしたい作品。
愛がある。希望がある。優しさがある。眼が未来に向いている。
ああ、映画だなあ、と実感できる作品。
そうそう、やっぱり小津安二郎の世界観が見て取れるとね、ってところで、日本人である自分にも共感しやすい。
他方、西欧の移民問題については共感というと厳しい。
西欧とアフリカとの歴史的関係を考えると、思いやりのない世界がそこに存在しているように感じる。ボタンを掛け違えていませんか、西欧さん? と言いたくなる。
1つのヨーロッパ共同体などと悦に入っていらっしゃるが、アフリカや中東は違うのかい? と問いたくなる。
2018年1月22日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館
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難民三部作の第1作目。
次作「希望のかなた」に比べると、難民問題についての掘り下げが浅く感じますが、とても素敵なファンタジー作品でした。
主人公マルセルが靴磨き屋と言うのがインパクトがあります。それだけでカウリスマキの世界に持って行かれる。古い街並み、ボロい個人商店、救急車を呼ぶのに近所の人に電話を借りるなどなど、カウリスマキのグッド・オールド・ワールドが全開。さしずめ日本に置き換えると三丁目の夕日と言ったところでしょうか。カウリスマキの方がオフビートで距離感がありますが。
そして人々は優しく、助け合っている。ベタベタといかにも優しい、って感じではまったくないが、必要な時はスッと力になってくれる。
不法移民イングリッサも、マルセルをはじめとした、無愛想だが優しい人々に助けられていく。そしてそれがとても自然なのでグッときます。
本作でも、まったく押し付けることなく、人は互いに思いやれるという人間の素晴らしさを高らかに謳っており、カウリスマキってほんとシビれるなぁ、としみじみします。
対比して描かれるのが、公共システムの冷酷さです。この構図は「希望のかなた」とまったく一緒で、カウリスマキはしっかり怒っているんだなぁと推察します。単に彼がアナーキストなだけかもしれませんが、ヨーロッパで生きていると、多様性を否定する価値観の台頭が、為政者サイドに根深く浸透し始めているのかな、なんて想像できます。
あと、リトル・ボブがいいですね!唐突に登場してくるのも妙に笑える。お前誰だよ、みたいな。それで1曲まるまる演奏するから最高としか言いようがないです。
またステージがまたなんとも言えない説得力に満ちていて、強く印象に残りました。赤い革ジャンがクールだった。微妙にダサいロックンロール、リトル・ボブだからか逆にすげーカッコいいわ。面構えもコクがありまくっててイカす。
一方、イングリッサの背景がやや曖昧な印象も受けました。本作は2012年日本公開の作品なので、現在ほど生々しいリアルさを必要としなかったのかもしれません。
現在は当時に比べて明らかに切迫しており、2017年末日本公開の「希望のかなた」や、2018年日本公開のドイツの難民を描いた映画「はじめてのおもてなし」では、難民となった登場人物の背景をより綿密に描いています。
問題意識を訴えるには、個人的にはここがポイントかな、と感じているので、難民映画としては習作といった印象でした。
カウリスマキは引退などせず、きちっと三部作を完成させて欲しいものです。
監督の評価と名作との評判で鑑賞したのですが。先入観なく鑑賞しましょう。後日見なおしたいと思います。重い内容を感じさせないマジック?
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