カミハテ商店
劇場公開日 2012年11月10日
解説
京都造形芸術大学の学生とプロのスタッフ・キャストがタッグを組む北白川派映画の第3弾作品で、自殺の名所となった崖の近くで商店を営む初老女性の目を通し、死生観への真意をなげかける人間ドラマ。山陰の小さな港町・上終(カミハテ)で、母の残した店を引き継ぎ、パンを焼いては細々とそれを売って生活している初老の女性・千代。いつの頃からか、店のそばにある断崖絶壁が自殺の名所となり、店に見知らぬ訪問客が現れるようになる。彼らは人生の最後に千代が焼いたパンを食べ、千代も彼らが自殺するであろうと気づいても止めることはせず、ただ見送った人々が崖に残していった靴を持ちかえる日々を送っていた。千代役は「花物語」(1986)以来23年ぶりの映画主演となる高橋惠子。千代の弟役に寺島進。
2011年製作/104分/G/日本
配給:マジックアワー、北白川派
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2013年8月26日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館
ラストが、絶妙。
ここで終わってほしい、という瞬間に、画面が暗転した。よしっ、と心でひそかに膝を打ち、思いきり余韻に浸った。
自殺の名所とされる断崖のそばで、小さな店を営むヒロイン、千代。彼女は淡々と自殺志願者に牛乳とコッペパンを売り、帰って来ない者の靴を持ち帰る。
ここで終わるのかな、というくだりは中盤にあった。でも、そこで終わるのは「自殺はいけないこと、否定すべきこと」という正しすぎるメッセージにならないか。はてさて…とはらはらしていたら、すっと物語は続いてくれた。うれしい裏切りに安堵する。では、どのように幕切れへ向かい、決着するのか? 新たなはらはらを抱きながら、ひたすらスクリーンを見つめた。
つくられた物語には起承転結がある。例えば、ハッピーエンドはすわりがいい。けれども、実際の人生はその先も続く。小さなエピソードが幾重にも繋がり重なり、後々で思いもよらぬ意味を持つ。矛盾しているかもしれないけれど、本作は、そんな実生活に、より近いフィクション。ドキュメンタリーをこつこつと丁寧に作り上げてきた、山本起也監督ならではだと思う。
加えて印象的なのは、舞台となる山陰の小さな港町を照らす光だ。千代の心境の変化を表すかのように、前半と後半で光のトーンが一変し、さらには物語の起伏に合わせて細やかに変化する。特に、ラストで彼女を照らす光の力! 自然光が、ここまで物語るとは驚いた。
光と音、そして人々の佇まい。細部まで作り手の想いが伺える。けれども、それらをすべてを見逃すまい、聞き逃すまいと気を張ったり、暗喩を読み解いたりすることにこだわる必要はないだろう。むしろ、その時の自分にふっと引っかかるもの、すっとしみ込むものを大切にしたい。そして、共に観た人と分かち合いたい。そう思った。
2012年12月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
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人生に疲れ、最後の場所として皆が訪れる上終(カミハテ)駅。そこで女店主の千代は、何の変哲もないコッペパンを焼き牛乳を売っていました。カミハテ商店でパンを買い最後の食事を取った人達は、帰りのバスに乗る事も無く、断崖の上に靴を残すだけ。店主は、もう履かれる事の無い靴を、そっと断崖から持ち帰って来るのでした。
映画では、多くの会話はありません。しかし、人と人との繋がりには、言葉以上に大事なものがあるようです。
一つのコッペパンや、一本の牛乳。置き去りにされた靴。
どうでもいい様な日常の繋がりが、本当は大切な繋がりになっているようです。
一度止めてしまったパン作りを、千代は又再開します。でも、もうただ見送る事だけでは無く、人と人との繋がりを探して行くのでしょう。
地味なストーリーと穏やかなセリフです。盛り上がりには少し欠けますが、生と死との狭間で言葉以上に繋がっている、人と人との関係性を考えさせられる映画となりました。
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