ワン・デイ 23年のラブストーリー : 映画評論・批評
2012年6月12日更新
2012年6月23日よりTOHOシネマズ有楽座ほかにてロードショー
理性では悪態をつきつつも感性は引き込まれるエモーショナルな物語
時間というものが人生にどんな意味をもたらすか、あらためて考えさせる物語だ。人間が成熟するためにも、恋愛が初期の衝動的なものから互いに築き上げる関係に変化するためにも時間は必要で、だが悲しいかな、我々はそれを永遠に手にできるわけじゃない。
本作は大学卒業の日からの23年間の男女の絆を、7月15日という限られた1日で描写したスタイルがまずユニークだ。卒業式の日、飲み明かした拍子についベッドを共にしてしまう同級生のエマ(アン・ハサウェイ)とデクスター(ジム・スタージェス)。女性にもてるぼんぼんのデクスターと、ガリ勉タイプで密かに彼に憧れていたエマとのあいだには明らかに温度差があった。だが親友になることを決めたふたりは以後、たとえ住む世界や国が違っても連絡を取り合い、それは徐々にかけがえのない絆となる。
「幸せになるためのイタリア語講座」や「17歳の肖像」で知られるロネ・シェルフィグ監督の手に掛かると、一見ベタなメロドラマも人生の真理を突いたエモーショナルな物語に昇華される。観ているこちらは、こんな運命的な出会いなどあるものかと理性で悪態を吐きつつも感性は引き込まれ、その緻密なキャラクター描写と情動に流されないストーリーテリングにいつの間にか絡み捕られている。23年間の変化を繊細に演じきったふたりの俳優の熱演と相まって、やがて主題歌を書いたエルビス・コステロのなめらかな歌声が流れて来る頃には、完全に降伏させられているのだ。ついでに言えば、この物語の原作者(デビッド・ニコルズ)が男性だということも注目に値する。ロマンチストなのはもちろん女性ばかりではないということだろう。
(佐藤久理子)