わが母の記 : 特集
国民的作家・井上靖の自伝的小説を「クライマーズ・ハイ」の原田眞人が映画化した「わが母の記」が、4月28日に公開を迎える。役所広司と樹木希林が織り成す濃厚な親子のドラマが世界を魅了し、第35回モントリオール世界映画祭で審査員特別グランプリを受賞した話題作の魅力を、試写会ユーザーのコメントも交えてお伝えしよう。
原田眞人監督が世界を魅了!
笑って、泣ける──誰の胸にも響く“親子の絆”
■監督:原田眞人(「クライマーズ・ハイ」)×原作:井上靖(「敦煌」)
社会を問い続けてきた男が初めて描く、日本の“伝統的家族愛”
国民的作家、井上靖の自伝的な同名小説3部作(講談社文芸文庫刊)を原作に、10年間にわたる母と息子、そして家族の愛を描く「わが母の記」。古くは小津安二郎、そして近年は山田洋次が描き出してきた、いわば“日本映画の伝統”ともいうべきこのモチーフに、今回は原田眞人監督が取り組んだ。
少し映画に詳しいユーザーなら、この原田監督の名前を見て「おや?」と思うに違いない。なぜなら、原田監督はこれまで、日航機ジャンボ事故を描いた「クライマーズ・ハイ」や連合赤軍の「突入せよ!『あさま山荘』事件」、銀行の不正融資に迫る「金融腐蝕列島・呪縛」など、鋭く社会を問う“問題作”で知られてきた映画監督だからだ(しかも、「ラスト・サムライ」では俳優デビューまで飾っている)。
社会派監督と国民的作家、一見違和感のあるこの組み合わせだが、実は同郷・静岡県沼津の高校の先輩後輩という間柄。「年齢を重ねてから、故郷について、また同郷の井上靖に惹かれるようになった」と語る原田が、少年と育ての母、そして実の母の奇妙な三角関係が描かれる「しろばんば」の映画化構想を経て、同じ登場人物のその後を描く「わが母の記」に至った、ということになる。偶然ではない、まさに原田監督の念願企画なのだ。
幼いころに母と離れて暮らしたことが“母に捨てられた”というキズとなった小説家・伊上洪作(役所広司)と、認知症で徐々に記憶を失っていく母・八重(樹木希林)との絆を軸に、洪作と3人の娘たち(宮崎あおい、ミムラ、菊池亜希子)の家族愛、心の交流が描かれていく。
原田監督の代名詞でもある、素早いカット割りで対象に肉迫していく持ち味は、本作でも健在。ときに軽快でコミカルに、そして重厚でシリアスに──たくさん笑って、最後はたっぷり泣ける、誰もが共感する素晴らしい家族のドラマが誕生した。
■試写会から感動の声が続々!
家族、絆、愛、高齢化社会──観客は何を受け止め、そして感じたのか?
公開前に開催された映画.com独占試写会で、いち早く「わが母の記」に触れたユーザーにアンケートを実施。家族、親子、絆、高齢化社会など、生きていく中で、否が応でも誰もが思い当たるテーマを持ち合わせた本作だけに、試写会に訪れた観客層は性別も年代も本当にバラバラ、映画ファンはもちろん普段あまり映画を観ない層の参加も目立ち、関心の高さをうかがわせた。そして上映終了後には、あちこちからすすり泣く声が……。そのままチケットを買い求めに来たり、「すごく良かった」とスタッフに感想を漏らす年配の方も見られた。
社会派で知られる原田監督が、初めて向き合った“家族の絆”という普遍的なテーマ──果たして、観る者の目にはそれがどう映ったのか!? 感動を伝えるコメントをピックアップ!
■役所広司、樹木希林、宮崎あおい
誰の胸をも打つ、実力派俳優が織り成す親子の姿
観る者をたっぷりと笑わせつつも、美しく切ない家族の愛が胸を打つのは、原田監督の下に集結した実力派俳優陣の演技のたまもの。主人公・伊上洪作には、「KAMIKAZE TAXI」「金融腐蝕列島・呪縛」「突入せよ!『あさま山荘』事件」と、もはや原田監督とは揺るぎない盟友関係を築いている役所広司が扮し、娘たちには強引な父権を行使しながらも、幼い日の“母に捨てられた”という想いを引きずる複雑な心境を表現する。そんな洪作の母・八重には、樹木希林。初恋の話を何度も繰り返し、はたまた洪作の育ての母に対する嫉妬をコミカルに演じながら、認知症により徐々に記憶を失っていく様子をもの悲しさたっぷりに体現する。
そして、洪作の三女・琴子役の宮崎あおいも見逃せない。勝ち気な少女が自立した女性として成長していく姿はもちろん、父・洪作、祖母・八重と織り成す人間模様も注目だ。
言いたかったのに言い出せなかった、親として、子としての想い。愛憎入り交じる親子の姿が10年にわたって描かれ、ラストでは50年間伝えることができなかった八重の想いが洪作へと伝えられる。世界の観客を泣かせた、静かで優しい、役所と樹木の豊潤な演技を堪能できる必見シーンだ。