劇場公開日 2011年3月26日

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わたしを離さないで : インタビュー

2010年10月30日更新

「日の名残り」で英文学界最高峰のブッカー賞を受賞した日系人作家カズオ・イシグロの傑作長編小説を、キャリー・マリガンキーラ・ナイトレイアンドリュー・ガーフィールドという英若手実力派俳優たちを結集させて映画化した「わたしを離さないで」。第23回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品された本作のプロモーションため、メガホンをとった新鋭マーク・ロマネク監督が来日し、完成までの道のりを語った。

マーク・ロマネク監督が描く、日本の美意識をちりばめた幽玄な世界

英若手俳優のなかから最高のキャスティングが実現
英若手俳優のなかから最高のキャスティングが実現

田園地帯にたたずむ、外界から隔絶された寄宿学校ヘールシャム。キャシー、ルース、トミーの幼なじみ3人は、絵や詩の創作活動に励みながら、“特別な子ども”として育てられた。18歳になってヘールシャムを出た3人は農場のコテージで共同生活を始めるが、ルースとトミーが恋人同士になったことでバラバラとなってしまう。やがて3人に再会のチャンスが訪れるが、そこには残酷なまでに儚(はかな)い運命が待ち受けていた。そんな世界的ベストセラーの映画化は、意外にも順風満帆に進んだ。

傑作の映画化に挑んだマーク・ロマネク監督
傑作の映画化に挑んだマーク・ロマネク監督

「僕はイシグロの大ファンだから、彼の作品は全部読んでいる。この本も発売されてすぐに読んだよ。すごく感銘を受けて、読み終えるころには号泣していた。そして、その物語が僕の頭から離れなくなって、ずっと本のことばかり考えるようになっていた。だからイシグロが僕を監督として信頼して認めてくれたときは、本当にうれしかった。とにかく彼が気に入ってくれることが僕にとってはすごく重要だったし、彼が満足してくれてほっとしたんだ」

ザ・ビーチ」「28日後...」などダニー・ボイル監督作品の脚本を手がけてきたアレックス・ガーランドの脚色は、原作のエッセンスを忠実に汲みとりつつ無駄のない構成で、ロマネク監督を驚かせた。原作の背景にあるSFやミステリー要素を適度に抑えながら、見事に普遍的なラブストーリーへと昇華させていたからだ。

「脚色を担当したガーランドとイシグロは10年来の友人だったから、本が出版される前から映画化を決めていたらしい。僕も原作に忠実でいることを心がけたけど、映画では特に3人の三角関係、ラブストーリーに焦点を当てた。一番大事にしたことは、僕が本を読んで感じたことを観客にも同様に体験してもらうことだったんだ」

映画では3人のラブストーリーがメインに描かれる
映画では3人のラブストーリーがメインに描かれる

ロマネク監督にとって、日本生まれイギリス育ちのイシグロの世界観は、日本特有の美意識を彷彿(ほうふつ)とさせるものだった。イシグロは、文学よりも50~60年代の日本映画に大きな影響を受けたそうで、ロマネク監督もその時代の日本映画をたくさん見て、イシグロの感性や背景を理解しようと努めた。

「例えばマルケス、トルストイをやるなら、彼らの背景や感性を身につけてから作品に臨むことは当然だと思う。特にイシグロの繊細な世界観は、映像というビジュアルを通すとかなり具体的になってしまう。だから、なるべくデリケートに、日本の感性や美意識を映画の中に入れ込もうと思った。プロダクション・デザイナーのマーク・ディグビーと僕は、現場で『ワビ・サビ』を動詞のように使ってたんだ。『もうちょっとここをワビ・サビしよう』『ここはワビ・サビが足りないね』なんて言い合ってね(笑)」

色彩やトーンも原作の世界観を意識
色彩やトーンも原作の世界観を意識

ミュージック・ビデオ界のカリスマとして多くの賞に輝いてきたロマネク監督。脚本も手がけた長編デビュー作「ストーカー」(2002)は、主演ロビン・ウィリアムズの怪演も話題となり、国際的に高い評価を得た。そして満を持して完成させた第2作となる本作で、原作者に「私の書いた原作より、映画は一層素晴らしいものになった」と言わしめるほどの高みに達した。

「イシグロの世界が完ぺきだから、彼の言葉を変えることは危険だと思った。主人公がいかに優雅に悲しい運命を受け入れるか、その威厳ある姿勢が美しいと思った。西洋、特にアメリカだと『何で主人公は逃げ出さないのか』という質問が多いけど、やはり日本ではそういう質問は出なかった。その意味においても、キャリー・マリガンは見事に“幽玄”を体現してくれた。僕らはみんな原作をとても愛していたから、物語を深く理解しているという自負があった。愚かだと思われるかもしれないけど、絶対にいい映画をつくれるという自信があったんだ」

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