ソーシャル・ネットワーク : インタビュー
ハーバード大学の学生マーク・ザッカーバーグが、2003年当時は未知のサービスだった「フェイスブック」を開発し、世界最大のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)にするまでの紆余曲折を描いた映画「ソーシャル・ネットワーク」(デビッド・フィンチャー監督)。第23回東京国際映画祭のオープニング作品となった本作のプロモーションのため、主演ジェシー・アイゼンバーグと製作総指揮・脚本のアーロン・ソーキンが来日した。公開以来、全米の批評家から圧倒的な支持を集め、本年度のアカデミー賞の最有力候補との呼び声も高い本作について語った。(取材・文:編集部)
ジェシー・アイゼンバーグ インタビュー
「僕ももともと社交的ではなく、皆の輪の中に入っていくのが下手だった」
ジェフ・ダニエルズとローラ・リニーの息子役を演じた悲喜劇「イカとクジラ」(05)への出演以来、リチャード・ギア&テレンス・ハワード共演の「ハンティング・パーティ」(07)、そして昨年公開の「ゾンビランド」と、着実にキャリアを積み上げているアイゼンバーグだが、決定的な代表作になりそうなのが、この「ソーシャル・ネットワーク」だ。本作への出演は実にあっさりと決まったという。
「ある日、エージェントから送ってもらった脚本がなんと大好きなアーロン・ソーキンが書いたものだったんだ。読んですぐに自分の家で脚本にあったいくつかのシーンを演じて、それを録画したビデオをカリフォルニアに送ったんだ。すると次の日、フィンチャー監督からカリフォルニアに呼ばれて、すぐに出演が決まったんだ」
だが、アイゼンバーグは「フェイスブック」も、創設者のマーク・ザッカーバーグのこともよく知らなかった。
「実は『フェイスブック』をやっていなかったし、マークのことも新聞で名前を見かける程度だった。それでもこの脚本は面白かった。アーロン・ソーキンが書いたんだから当たり前だけど、シンプルなストーリーの裏に、たくさんの人間の思惑や犠牲があって、あらためて世界の複雑さを感じたよ」
劇中のマーク同様、人付き合いが苦手だという。マークが友人とグループを作って学生生活を楽しみたいと思っているのにもかかわらず、それができないフラストレーションから「フェイスブック」を作って自分を変えようとしたのに対し、アイゼンバーグは、演劇を始めることで苦手を克服しようとした。
「僕ももともと社交的ではなく、皆の輪の中に入っていくのが下手だった。ただ皮肉なことに、演劇を選んだことで、かえって忙しくなってしまい、学校には行けなくなり、クラスの仲間とも遠ざかってしまった。マークの場合も、『フェイスブック』をつくったことで億万長者にはなったけれども、彼から離れてしまった人もいる。そこはある意味、僕たち2人の共通点といえるかもしれないね」
マークを演じるにあたり、フィンチャー監督にはセリフが自然に話せるようになるまで、何10回、何100回と演技をさせられた。
「時には100回以上のテイクを撮るときもあったけど、それは彼が僕らを信頼し、レベルの高い仕事をしてくれると期待していた証拠。彼は僕ら俳優のみならず、音響、撮影などを含めて、すべてのスタッフに高い要求をしていた。そういう彼のハイレベルな要求に応えたい一心でチームは一丸となって撮影していたから、現場はとてもいい雰囲気だったよ」
高校時代に演劇を始めてから約10年。これまでに数々の名優と共演してきたが、一番印象に残っているのは、ライル・ケスラー作の舞台「Orphans」で共演したアル・パチーノだという。
「3カ月間続いたリハーサルで、彼はひとつのスプーンを持ち上げる動作を毎日1時間以上練習していた。それは、一般の観客は見逃してしまうくらいとても小さな動きなんだけど、彼は本気でどうするか悩んでいた。そんな彼の演技に対する取り組み方、態度にすごく感銘を受けたんだ。きっと彼はものすごく自分の仕事に対して責任を感じているんだよ」
公開以来、批評家、観客の双方から絶賛され、21世紀の『市民ケーン』と呼ばれている本作。将来、自分の顔(本作のポスター)が、21世紀の最初の10年間を代表するアイコンとして記憶される可能性もあるが?
「この映画にかかわれたこと、そして、自分とこの映画が深く関連づけられていることはとてもうれしい。だけど、僕の職業は俳優で、さまざまな役をこれからも演じ続けていかなければならない。こういった映画に出演できたことはとても光栄なことだが、ひとつの作品だけにしばられるのではなく、さまざまな作品で役をこなせるよう努力していきたいね」