劇場公開日 2010年5月22日

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春との旅のレビュー・感想・評価

全17件を表示

4.0【厳しき人生を生きることの素晴らしさを厳しくも優しさに満ちたまなざしで描いた人生賛歌であり哀歌。故、小林政広監督を悼む作品でもある。】

2023年10月18日
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鑑賞方法:DVD/BD、VOD

悲しい

知的

幸せ

ー 私事で恐縮であるが、故、小林政広監督の作品を初めて鑑賞したのは「日本の悲劇」であった。近隣の劇場で朝、八時からの上映で、今では考えられないが、観客1名で鑑賞した。
  衝撃であった。即座にパンフを購入した事を思い出す。
  今作は、その後DVDで鑑賞したが、レビューを上げていなかったので、今更ながらに記載する。

◆感想

・小林政広監督らしく、詳細は描かれないままに劇中に没入する。
ー 北海の寂れた海辺のあばら家で、老漁師・忠男(仲代達矢)と孫娘・春(徳永えり)は二人暮らしを続けていた。
  しかし、地元の小学校で給食係として働いていた春が、廃校により失職。
  老いた忠男の世話を頼むべく、疎遠となった姉兄弟を訪ねる旅に出る。ー

◆感想

・自由に生きて来た忠男を演じる仲代達矢の独壇場映画である。
ー 因みに「日本の悲劇」でも「海辺のリア」でも同様である。-

・忠雄は、自らの兄弟を頼りに回るが、対応は冷たい。
ー 舞台は仙台であると思うのだが、通りの座席で夜を明かす二人の姿は切ない。-

■だが、忠男は春は厳しき状況の中、新天地を求めて、旅立つのだが・・。

<今作では、小林薫、田中裕子、柄本明、香川照之らが脇役で存在感を与える演技をしている。
 故、小林政広監督の人柄で有ろうと思う。>

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NOBU

5.0日本映画の総力戦。

2022年11月16日
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鑑賞方法:VOD

これほどの名優、大女優を揃えて見事にシンフォニーが奏でられている。映画と言うのはどんなに名優を揃えても傑作にはならない。これほどの名演技とこれほどの日本の風景を彩り、そのなかに輪郭のように浮き上がる祖父と孫・・・いい映画だ、そして実にいい音楽が流れている。ベタな映画だが嫌じゃない。仲代達矢の食事シーンが実にいい🎵

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mark108hello

3.0仲代達矢を主演に描く家族のドラマ。

2019年9月14日
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鑑賞方法:映画館

仲代達矢を主演に描く家族のドラマ。

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てかる

1.0安直なシェイクスピアの焼き直し

2016年11月5日
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鑑賞方法:DVD/BD

単純

あまり評判がいいので、今頃になって(つい最近DVDを見たばかりなので)ケチをつけるのがはばかられるが、この手の映画が安易に作られすぎるような気がするのでひと言。頑固一徹、好きな人生を歩んできた元漁師の忠男が、これまで一緒に暮らしてきた孫娘春の旅立ちを控えて、自分の老い先を見てくれる家族を探し歩くというまことに身勝手な動機のロードムービー。その程度の話なのだが、なぜあれほどむきになって歩きまわるのだろう。老人の怒りの理由がわからないし(一応、職を失った春が家を出ていくという状況を提示してはいるものの)、行く先々で喧嘩腰だから、相手もみな怒鳴り声をあげる。全編みな喧嘩腰のロードムービー。もちろんネタ本はシェイクスピア。リア王とコーディリアの悲劇が見事なコメディーになっている。シェイクスピア原作に惹かれたのか出演者は豪華絢爛。小林薫など背中だけで出演しているという贅沢さ。終盤で春が長年音信不通だった父親に会いに行くのだが、その再婚相手が一緒に暮らそうと言ってくれるあたりも、そしてそのせりふ回しも何とも予定調和的。そのあとでの蕎麦屋の場面で春が優しい言葉をかけた時点で、観ている方は、これは忠男は死ぬよりないなと予感するというまことにわかりやすい筋立ての映画。仲代達矢は熱演すればするほどシェイクスピア的になってしまい、身勝手な荒くれ漁師のイメージから離れていく。見ていて痛ましい。何とも安直な映画。

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prixunique

3.0孫娘役の徳永えりが上手くて見所

2014年11月29日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

難しい

総合60点 ( ストーリー:60点|キャスト:75点|演出:70点|ビジュアル:70点|音楽:70点 )

 自分の将来を考えて閉鎖された社会から抜け出すため邪魔な祖父を処分したい孫と、そんな孫の気持ちを察して荒れながらも邪魔者である自分を認めて嫌々兄弟を頼ろうとする祖父の話は、考えてみればせつない。人間関係を見つめなおす旅になるのだけれども、長年密接な交流が無いままに突然訪ねた兄弟たちの身の上と、主人公である祖父の家族の話に距離があるし、老人の老後の世話の話なのか家族関係の話なのかちぐはぐにも思えた。兄弟たちよりも、もっと祖父の家族を掘り下げても良かったのではないか。血縁関係というだけで老人の世話を引き受けるのも難しいのは最初からわかっていただろう。結末に近づくにつれて話が都合よく流れていくのもやや興醒めした。
 出演者の演技は良くて、特に徳永えりという若手女優が祖父と暮らす田舎娘を演じて、大物俳優たちに引け目をとらないばかりか互角以上に渡り合っていた。特に父親との場面は上手かった。ただし仲代達矢、人生の賭けに失敗した貧乏で頑固な漁師というにはかなり都会的な雰囲気で、私の知っている漁師像とは異なった。場面場面でさりげなく流れる音楽は悪くなかった。

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Cape God

5.0名優の共演

2013年10月29日
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鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

悲しい

名優、仲代達矢が頑固で孤独な老人を熱演している。確かに孫娘はいつもそばにいるのだが、やっぱり孤独なんだろうと思う。そういう悲哀を仲代達矢はみごとに演じているのだと思う。徳永えりは、この名優を相手に見事に渡りあっていた。終盤の蕎麦屋のシーンがいつまでも心に残る。

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OAkatuki

4.5人生って。。。

2012年1月21日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

幸せ

よく出来たヒューマン作品です。

演技派の役者が揃っていたので作品自体が締まっていたし、徳永えりの野暮ったい田舎娘の演技も良かったです。

人生の終焉に人の温かさに触れたおじいさんの最後の顔は、幸せそうで、
自分もそのような最後を向かえられたら良いなと感じました。

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酒馬仙

5.0小林政広監督作品鑑賞4作目にて初の満点!!!

2011年1月18日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

幸せ

『ワカラナイ』を
わかりやすくしたら
こんな感じになるのかなぁ
小林監督、わかりやすい映画も撮れるんですね(驚&苦笑)

〈 あなたの夢に潰された 〉
〈 人って自分のことしか考えられないの 〉

第一稿を作ってから足掛け9年。
ようやく完成。そして公開。これまで
観てきた3作は、この作品のためにあったのではないか、そんな気にさせられました。

話のわかりやすさだけでなく、
テンポのよさ、なによりも一番驚いたのは
音楽を多用していることと、その音楽が素晴らしいこと。

大好きな手持ちカメラの撮影も
春が仙台でホテルを探すシーンくらいと今回は極力封印。

なにか小林監督にとって一区切りといいますか、
一旦、映画人生でここまでの集大成を製作しました、それくらいの熱い思いが伝わってきました。

◇   ◇

「いつものことじゃん」

そう云われてしまえば反論できないのですが、
私、実はオープニングカットで早々に落涙していました。

仲代達矢さん、徳永えりさん
セリフを交えることなく、喧嘩をしつつ、
歩いたり、座ったり、座る距離を詰めたりする
(これがラストの伏線だったりする。この辺も
 巧いというか小林監督作品で、このような比較的
 わかりやすい技法を用いられた作品は初めて観た)。

このお互いの距離感、表情に
おふたりの関係のただならぬ
愛情の深さを感じてしまいまして
「これはスゴイ映画になるぞ!」と
スイッチが入り涙が頬をつたってしまいました。

◇   ◇

撮影は順撮り。
役者同士、あまり話さないように
小林監督からは指示が出されたそうです。

徳永えりさんに対しては一番厳しく
接したそうで、某シーンでは一切寝させず、
また撮影をしたにもかかわらず、そのシーンを
カットしたりして、彼女の張り詰めた佇まいを作りあげたそうです。

この辺りは、
『ワカラナイ』の主人公の男に対する演出と同じですね。

ワンシーンワンカットを基本に、
序盤に登場する大滝秀治さんと
相対するシーンなど、超望遠レンズで撮影をし、
役者さんからはキャメラが全く見えない状態で演技をしてもらった。

もうこの時点で、
小林監督が今作にどれだけの精魂を込めたのかがわかる気がしました。

◇   ◇

徳永えりさん。
某大手新聞のインタビュー記事によると
「自分自身も今作の春と同じような体験をしている」とのこと。

体験していることで演じやすかったのか
演じにくかったのかまでは触れられていませんでしたが、
『フラガール』『うた魂!』『ブラッディ・マンデイ』一番存在感があって良かったです。

最初から最後までガニ股だったのは、
そこにどんな演出意図が込められているのか
結局、最後までわかりませんでしたが、順撮りが
功を奏したのか、心の変化、揺らめき、といったものが痛いほど伝わってきました。

そんな中でも、その痛みが最高潮に達したのは、
香川照之さん vs 徳永えりさんのツーショット。

お互いの気持ちの痛さが、あまりにも強すぎて、涙が溢れない。

しかし「どうして許してくれなかったの!!」
徳永えりが泣き叫ぶ、このセリフで強すぎる痛みに
涙腺を破られてしまい、肩を震わせながら泣いてしまいました。

◇   ◇

血の繋がりのある愛
血の繋がりのない愛

家族を顧みず自分の夢だけを追い求めた祖父。
そんな祖父と孫娘との旅は、祖父の我侭から
始まったように見えましたが、愛する孫娘へ
祖父が贈る最期の授業、そのように映ったのは私だけでしょうか。

ラストシーン。

「春、ありがとうな・・・・・・」

我侭で好き勝手をしてきた
祖父に似つかわぬ言葉が、私の耳には、ハッキリと届いてきました。

☆彡     ☆彡

見たくて仕方のない映画だったので
事前に情報入りまくり期待もしまくりでしたが、
軽々とそのハードルを飛び越えてしまいました。

文句なしの5点です(笑顔&感涙)

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septaka

3.0自分としては、まあまあかなあ

2010年8月15日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

評判がとてもいいので、普段見に行く映画館ではやっていないのに、わざわざ上映している映画館を探して見に行きました。

 結果としては、自分としては、まあまあかなあ。たぶん、登場人物と自分とは環境が違いすぎるので、充分に感情移入できなかったのかも。

 春を演じた徳永えりという女優さんは、『フラガール』で蒼井優の親友役だった人。その後どうしているんだろうと思ったら、こんなところで再会。
 『フラガール』では、蒼井優とフラダンスの練習を始めるものの、父親にバレて、ボコボコに殴られて引越していってしまう役。『春との旅』の春も、なんだかうつむいてばかりで口数も多くない地味な女の子役。薄幸な役が得意なのか…。それにしても、春がガニマタで走るのが気になってしょうがないのですが、あれは演技??

 今回行った映画館は、錦糸町の楽天地錦糸町シネマ。シネコンばかり使っている私にとって、久しぶりに行く昔ながらの映画館です。
 チケットを買うときに上映時間を伝えたら「このチケットでどの時間でも入れますから」と言われてしまいました。そういえば、昔の映画館ってそうでしたね。で、指定席じゃないので、20分ぐらい前に劇場の脇の通路で並んで待ちました。
 待っているお客さんの平均年齢の高いこと高いこと。『春との旅』の客層なのか楽天地シネマの客層なのか。この人達が行列作って待たなくてもいいように、座席指定スタイルにした方がいいんじゃないかなあ。デジタルだの3Dだの、設備の導入は大変だろうけど、チケットの販売方法ぐらいなら変更できそうなものだけど。

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ringo

4.5すばらしい

2010年7月19日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

久しぶりに日本映画とはこういうものだというのを感じた作品。脚本キャスト共に素晴らしい。洋画よりだったが邦画の凄さにあらためて気づけた

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ryooooooo

4.0身につまされました

2010年6月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

悲しい

久しぶりに邦画で映画の為の原作・脚本を楽しませていただきました。
 人は小さな寄り添いが壊れそうなときに、冒険が始まる。
 人の個人個人の事情、家庭の事情を次々と見せてくれます。
 訪ねた長兄はもっともらしい話をしているが、別れのときの言葉は、寂しいものがあり、現在の時代の流れを良く表している気もします。
 気の抜けない兄弟めぐりの中でホットさせるのは、食堂での場面ではなかろうか...
 ほほえましい笑いとペーソスをふんだんに取り入れた見ごたえのある物語になっています。
 主演の仲代 達矢・徳永えりも含めて芸達者がそろって見せてくれます。
 よくもマア、これだけの芸達者を動員したものだと感心させられます。
(ほとんど年寄りばかりですけど)
 年寄りの頑固さと、忠雄老人のわがままを、巧く表現しているとの印象。
 祖父は祖父なりに、孫は孫なりにお互いを
いたわり合うことは、お互いに不器用ながら出ていたと思います。
 人間は自分の蒔いた種により苦しめられ、自分の蒔いた種により喜びを与えられることが解るような感じに仕上がっています。
 面倒を見てくれる孫がいて幸せであり、若い孫のことを考えると....兄弟との関係も..
元義理の息子夫婦との関係で、ほっとしますが出来過ぎのの感もあり...
 カメラワークも良く画面画面が巧く構成されて美しく、無駄の無い撮影がされている。
 やさしく、シンプルなテーマ曲も映画に合っている。
 原作・脚本・撮影・テーマ曲などどれをとってもいい出来だと思います。
 ただ、自分の年のことを考えると寂しいものを与えられたような気もします。

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試写会3

4.5人生を見つめる旅路

2010年6月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

幸せ

拙ブログより抜粋で。
--
 望遠レンズで捉えられたいきなり家を飛び出すセリフのない冒頭に始まり、名優・仲代達矢と対等に渡り合うまだ若い徳永えり、最初に訪れた先の兄・重男を演じる大滝秀治と仲代達矢の長回し撮影の長ゼリフ、と、緊張感に満ちた画面にしょっぱなから引き込まれた。
 ときに可笑しくもある市井の人々の生きる姿を優しい視点で拾いながらも、この心地いい緊張感は最後の一瞬まで途切れることがなかった。

 映画の中での個々の出会いと別れには大仕掛けなドラマがあるわけじゃない。大変でも辛くても、それでも生きていくことへの真摯なまなざしが、やがて感情のうねりとなって大きな感動を呼ぶ。

 訪れる先の家庭はいずれも何かしら問題を抱えている。それは老いの問題だったり、不景気だったり、不器用な生き方だったり。しかし皆、今を生きることに前向きだ。
 身勝手に生きてきた忠男を軽くあしらいはしても、厳しさと同時に優しさも忘れない。
 オルゴールの音色のような飾りっ気のない人間ドラマが心に響く。

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かみぃ

3.5『経済的価値無し』のレッテルを貼られた人間には生きる価値すら認められないのか [各所修正]

2010年6月6日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

リアリティと寓話的な雰囲気とを併せ持ったロードムービー。

仲代達矢演じる偏屈な老人は、長く疎遠になっていた兄弟達に居候させてくれるよう頼んで回るが、次々に拒絶される。
それは彼の身勝手な言動が祟っての事でもあるが、一番の理由は、彼が脚を悪くして働くこともできないからだ。

風の吹き荒ぶ寂れた街並みが、僕自身の故郷とダブって見えた。閉めきった店が目立ち、高齢の人々ばかり目につく街。
いつ食えなくなるかも分からない生活に対する不安や、齢を重ねる毎に強まる孤独感のようなものが、映画全体を重く覆っているように思える。
その日暮らしの生活を送る人間に、働けない者を養う余裕など無い。ましてや今は、近隣住民が助け合って生きていたという古き良き時代でも無い。
そんな時代においては、『社会的(経済的)に不要』とのレッテルを貼られた人間は、最早生きる価値すら認められないというのか。
「それなら俺、生きられねぇじゃねぇか」
寂しげに笑いながら呟く仲代達矢の台詞が、ズシリと重い。

“生きられない”老人と孫との旅は、結果的に『拙いながらも人と人とは繋がっている』という事を孫に伝える旅になった。孤独を埋め合うように生きてきた老人が消えても、彼女はきっと生きていける。物語の結末は、彼女を解放するという意味では最良の結末だったのかもしれない。
と同時に、こんな結末が『最良』となってしまうのが今の時世なのかと思い、やりきれない気持ちになった。

良い映画だと思うが、不満もある。
物語が終盤に近付くに連れ、映画はだんだん人工的な臭いを漂わせ始める。台詞がどんどん説明的になってゆくのだ。
特に香川照之との会話はまるで手品の種明かしでもしているかのようにとにかく喋り過ぎる。皆まで言わずとも観客は分かってくれます。逆にこれでは作り物臭さが増して、夢から醒まされたような心持ちになる。
音楽も主張しすぎだ。良いシーンでここぞとばかりにがなり立てられては興醒めだ。

最後に役者さんについて。
脇役に至るまで素晴らしい演者が配されたこの映画だが、中でも主人公を演じる全キャスト中唯一の20代、徳永えりが頑張っている……物凄く頑張っている。
芝居が一本調子という感じもしなくはないが、仲代達矢を始めとした超大御所の群れを相手に一歩も引かない堂々たる演技。祖父に対する心配と嫌悪とが入り交じった眼差しが素晴らしく良い。今後の期待大です。

<2010/5/22鑑賞>

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浮遊きびなご

4.0人生の「春」を探しに行く旅

2010年6月3日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

小林政広監督は、映画作りに貪欲である。近年、「バッシング」「愛の予感」「ワカラナイ」と話題作が続き、今回の「春との旅」。このラインナップをこのペース、貪欲じゃないと身がもたなそうだ。

 小林監督は人物を、まずは歩くことと食べることで描写しようとしている気がする。歩き方と食べ方。確かにその人柄がよく出る行為なのだ。忠男の歩き方、春の走り方。これは最初から最後まで延々と繰り返される。それが人間の生命の営みなんだもの、仕方ない。このシークエンスを眺めているだけで、これまでの二人の人生がみずみずしい映像となって頭に浮かんでくるような感触を味わう。この演出、描写力が作品の揺るぎない柱となっている。見事。

 奇をてらうこともなく、ひいき目でもなく、批判するわけでもなく、カメラはひたすら2人を追い続けていく。このカメラ(視線)に耐えられるのが、仲代達矢なんだ!と思った。そして徳永えりの芝居も想像以上にかなりいい。イラつき、憐れみ、思いやり、焦燥、慈しみ、それはもうぐちゃぐちゃの感情が入り乱れる旅なのだ。国家にも政治にも世間にも干渉されない、2人だけの旅。生活がかかっている旅。出会う人、すれ違う人は多けれど、やっぱり2人だけの旅。人生の春を探しに行く旅。

 「ワカラナイ」に続き、音楽がいい!

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ikuradon

4.0春との旅 -

2010年5月12日
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鑑賞方法:試写会

泣ける

忠男の孫娘、春のなにげない一言が、思いがけずも忠男にひとつの決断をさせることになる。

そして、春との旅ははじまってゆく。会うことも久しい、親戚たちを巡る旅。

忠男にとって、春との旅は、自分自身へのけじめを付ける旅だったのだろう。

一方、春にとっては、なにげない一言で忠夫を思い詰めさせてしまった罪悪感をぬぐえないまま、戸惑いつつも忠男に寄り添い旅を続けてゆく。そして春自身にとっても、いつしかそれは自分自身へのけじめを付ける旅になっていく。

老いた男にとっても、人生これからの孫娘にとっても、自分自身が次のステップに”成長”していく上で、お互いそれぞれにとって大切な旅に違いなかったであろう。厳しいのであるが、それはまた致し方ないことなのだ。それが人生なのだから。

人生の終演をどうやって迎えられるのか?送り出してあげられるのか?という家族にとっては厳しくとも避けられないテーマについて、丁寧に掘り下げられた良作だと思う。偏屈で頑固な老漁師を演じる仲代達也さんの迫力満載の演技や、取り巻く実力派役者さん達の演技もさることながら、孫娘、春を演じる徳永えりさんの感情のこもった熱演が秀逸!!後半にかけてのクライマックスは前半の抑揚をさらに増幅させるかのような感覚で、親の立場・子供の立場、いろんな立場で感情移入できるステキな映画ではないかと思う。

精一杯の愛情で「づっとそばにいるからね」という、春の心境を察すると、あまりにも切なくなってしまう。でも、そうやって経験して人は強くなっていくのだ。

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bigsea1986

4.5老人たちが主役だが、若い人たちが見るべき作品

2010年5月6日
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鑑賞方法:映画館

 この作品で何回も出てくるのが、寒いのにもかかわらず外気を入れるために窓を開ける、という演出だ。締め切った部屋の窓を開けるのは、空気を入れ替える、風通しを良くする、との意味でするものだが、それは、この作品のテーマであり、一番の見どころを表現している。

 北海道のさびれた港町から、孫の春が失職したために、一緒に暮らしていた祖父の忠男は自分の老い先の面倒をみてくれるところを求めて、春といっしょに兄弟の家を訪れていく、というこの作品の物語は、筋だけ追っていくとよくあるロードムービーという印象を受ける。しかし、内容は「人生の孤独」を見据えた深みのある人間描写がいくつも演出されていて、観る者に深い感動をもたらしてくれる。その導入部の意味で、窓を開ける演出が何回も出てくる。

 歩くことも辛いほど身体がいうことをきかない祖父の忠男に、懸命につきそう、ようやく二十歳になる若い孫娘の春の姿は、とても健気に見える。しかし、春は自分のために都会に出て働きたいとの思いから、忠男から離れようとしている。しかし、両親がいなくなってしまった春にとっては「人生の孤独」への一歩へとなる怖さがある。
 一方の忠男は、ニシンを求めて家を出て行き、兄弟とは疎遠となり、そして娘や孫にも捨てられようとする「孤独な人生」を歩んできた。その二人の旅する姿だけでも切なくなってくるのだが、窓を開けてからはじまる、忠男とその兄弟たちの会話は、さらに切なさが伝わってくる。

 人は老いていけばいくほど、心が狭くなり、余計にガンコになり、自分のことしか考えなくなって人を受け入れたがらない。それは血が濃い兄弟や親類ならば、なおさら心が通い合わなくなるケースが多い。この作品は、そんな老いた人たち特有の心がもたらす「孤独感」を、長回しという緊張感のある演出から見せる。窓を開けるという演出には、人を受け入れる心を開く、という意味が込められているのだ。
 しかも、この作品では若者の「孤独感」にも鋭い視線を投げかけている点が、実に興味深い点だ。

 老人と同じく、若ければ若いほど視野は狭く、生意気と言われると他人への思いやりが粗雑になり、自己中心などと言われるようになる。この作品の孫娘・春にも、人への思いやりに欠ける、若者らしさが見える。その心の窓を開けようとしていくのも、この作品の大きな見どころだ。春が人に対して心を閉ざしがちなのは、彼女にまつわる悲劇も要因しているのだが、だからこそ、これから「孤独」と向き合う人生に不安を感じだす春には、とても共感する部分が多い。

 この作品の試写会に来ていた人は、とても年齢層が高く、一般公開まで年長の人向けとして喧伝されるだろうが、私個人としては、若い人が見るべき作品だと思う。「孤独」と向き合うことを怖がる人が多い若い世代には、この作品から生き方の指針が見つけられるような気がするのだ。心を開くことの大切さを、若い人たちにこの作品から感じて欲しいと思う。

 この作品は、演出の良さと役者の演技の素晴らしさが上手く融合しているのだが、中でも登場シーンはとても短いのだが、美保純の後ろ姿の演技には感銘を受けた。忠男の弟の妻を演じているのだが、わからず屋でガンコなところがある夫を理解している優しさがあるという性格を、後ろ姿だけで見せた演技は特筆すべきものだった。春を演じた徳永えりなど、珠玉の演技者たちを見るだけでもねこの作品は一見の価値があると思う。

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こもねこ

5.0厳しさの中に隠れた、互いの思いやりを垣間見るとき、最後は涙を押し切れないほど、ホロリとさせられます

2010年4月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 もうこれは仲代達矢のワンマンショーといっていいくらい作品です。実年齢と近い仲代は、脚本にほれ込んだと言い、卓越した演技力で、頑固かつ偏屈な忠男を生々しく演じきりました。
 この忠男に対する仲代の思い入れには、凄みを感じさせられることでしょう。
 もうチョットでオーバーアクションになるギリギリまで、仲代は忠男の頑なさを出し切っています。春役の徳永えりとの息もぴったりで絶妙!
 加えて小林監督の演出は、ゆったりとしたカット割りに、少なめな台詞が持ち味。セリフのない「表情」や「間」に魅せられます。じっくり芝居を見せる作品なんですね。恐らく年末の映画賞レースで各賞にノミネートされる傑作でしょう。

 冒頭、北海道の荒海と寂れた漁村にパンしていきます。その荒涼とした光景は、寒風が肌に突き刺さってきそうなほど寒々しいものでした。
 その漁村に佇む一軒家から、老漁師の忠男が家から飛び出し、その後を孫娘の春が慌てて追いかけます。
 説明的なセリフはほとんどありません。
 春と忠男が暮らす漁師町のカメラワーク一発で、作品の世界に引き込まれてしまいました。ふたりの抱えた事情は、次第に分かっていきます。春との旅は、決して桜が咲いて春の到来を告げる旅ではありませんでした。春の母が死んでしまい、老いた忠男とふたりだけの暮らし。それなのに春は仕事を失ってしまって、生活がピンチに。止むを得ず、忠男を預ける先を探す旅に出たのでした。
 これはもう現代の姥捨物語といっていいお話しです。小林監督版「櫓山節考」といってもいいでしょう。もちろん春に祖父を捨てる意思はありません。けれども、いく先々の親族で拒絶されて意固地になっていく忠男の姿に、それを見る思いでした。

 旅のなかで、生きることの厳しさを、ふたりはたっぷり味わいさせられます。そこには、老いの悲しみと肉親の感情の葛藤が綴られていました。でも本作が巧みなのは、その厳しさの中に隠れた、互いの思いやりを垣間見るとき。最後は涙を押し切れないほど、ホロリとさせられます。それが実にいいのですね。そして、忠男のどこか憎めなさに、親近感を感じました。

 家を出たふたりは列車に乗り、何処かを目指すことになります。でも孫と祖父の関係にしては、何処かぎくしゃくしています。そして一軒の大きな家に到着して、やっとふたりの旅の目的がわかります。
 どうも生活を維持していくための術を長兄の重男に頼ろうとしているようなのです。しかもアポなしで。
 居候となろうというのに、忠男の不遜さは筋金入りです。兄の重男に向かって、絶対に頭を下げません。納屋でいいから居候になってやろうという物言いなのです。
 ムッとなった重男は、忠男に家族の反対も聞かずに、ニシン漁にのめり込んだ過去のことを諫めます。忠男の苦境も元はといえば、それが原因で生活苦に追い込まれたのでした。いわば自分が捲いた種だったのです。
 実際にも昭和28年に忠男が暮らしていた増毛の沖でニシンが姿を消してしまい、ニシン漁に頼っていた日本海沿岸の漁師たちは貧しくなっていくのです。それでも日本海の漁師は、いつかまた、ニシンが戻ってくると信じていたとか。忠男もそんな見果てぬ漁師のひとりだったのでした。

 体よく重男に追い出される忠男であったが、別れ際重男はホロリと実情を語ります。実は息子夫婦が実権を持っていて、自分たちは近日中に老人ホームに入る身の上なのだと。申し訳なさそうに語る重男に、兄弟の絆を感じました。

 重男が断ったように、自分勝手に生きてきた忠男は、親類との関係も疎遠でした。それでも、仕方なく次は、宮城・鳴子温泉で旅館を切り盛りする姉に当たってみるものの、春だけなら引き取るという、つれない返事でした。
 さらに忠男に追い打ちをかけたのが、一番気の合った弟が服役中だったことです。もう後がなくなった忠男は、もう一人の弟道男を訪ねます。しかし、道男からバカと何度も大声で激しく罵倒され激高した忠男は、道男を押し倒して、取っ組み合いになってしまうのでした。
 ここで注目したのは、体力では勝るのになぜか道男は、兄に殴られるまま抵抗せず泣いていたこと。それを見ていた道男の妻明子は、「仲がいいのね、羨ましい。」というのです。
 その性格から、兄弟から疎ましく思われて、何十年も音信不通になっていても、やはり血の繋がった兄弟なんだという家族の絆の深さを感じさせてくれました。
 重男の妻の菅井きん、服役中の弟の内縁の妻役の田中裕子を含め、芸達者なベテランをぜいたくに使った配役がぴたり決まっています。特に大滝と柄本は、短い出番ながら、なくてはならない存在感でした。それぞれ忠男と表面上ぶつかりながらも、それぞれに事情があり、内心は申し訳なく思っているのです。そんな心情を、仲代との絶妙な掛け合いで表現していました。

 頑固な老人がどうしようもない現実にぶつかってもがく。そんなノリままだったなら、春のあり得ないような純朴さや余りに身勝手な忠男の言動に、共感できないまま、酷評することになったかもしれません。
 ところが、忠男兄弟の絆を見せつけられた春が突然、幼い頃に自分を捨てた憎むべき実の父親に会ってみたいと言い出します。忠男と兄弟の仲も、春と別離した父親の関係も、冬の閉ざされたさなかにあったのでした。

 北海道の牧場で暮らす父親の家に着いたとき、突然父親の後妻の伸子から挨拶された春は、父親の再婚を知ってショックを受けます。そして父親と再会したとき、母と離婚そしてその後の母の自殺の真相が明かされて、春が背負ってきた悲しみの深さに、グッ~と胸が締め付けられました。「人って自分のことしか考えられないの?」と健気にいう春がいじらしいのです。
 そんな春を無言で、抱き寄せる父親の優しさにもホロリとさせられました。

 忠男は親子の対面に気を利かせて、家の外で牧場を見ていました。そんな忠男に、伸子が言い寄ってきて、一緒に住まないかというのです。伸子は、父親不在で育ったため、忠男に父親代わりになって欲しいとせがむのでした。
 さんざん身内の兄弟に断られたあげくに、他人の女から家に来ないかと言われるのは、何とも皮肉です。そんな暖かい申し出に、涙を浮かべつつ顔をそむけてしまった、仲代の表情に真の人生を見た思いです。

 父との再会後、そば屋の場面が圧巻です。春の母とこの店を訪ねたことがあるという忠男が、母の思い出を語り出します。それを聞く春の目から自然と涙が止めもなく溢れます。泣きながらそばをすする春を、忠男が愛おしく抱き寄せるところが堪りません!名シーンです。
 十分な間をとった長いワンシーン・ワンカットの中、ふたりの旅の何気ない場面が、ふいに見る側の心に浮かび、家族の絆の大切さに、言い知れぬ思いがこみあげてきます。
 小林監督の作品の世界には、これまでどこか観客を突き放したところがありました。しかし本作は違っていました。最小限のセリフを大事に紡ぎ、俳優陣の名演と共に、親子、家族という、誰しもが抱える普遍的な問題を、観客にも考えさせてもらえるハートウォームな仕上がりです。家族、人生、死… 多くのことを考えさせてくれる、熟練の域に達した感動作だと思います。

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流山の小地蔵