劇場公開日 2010年5月22日

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「安直なシェイクスピアの焼き直し」春との旅 prixuniqueさんの映画レビュー(感想・評価)

1.0安直なシェイクスピアの焼き直し

2016年11月5日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

単純

あまり評判がいいので、今頃になって(つい最近DVDを見たばかりなので)ケチをつけるのがはばかられるが、この手の映画が安易に作られすぎるような気がするのでひと言。頑固一徹、好きな人生を歩んできた元漁師の忠男が、これまで一緒に暮らしてきた孫娘春の旅立ちを控えて、自分の老い先を見てくれる家族を探し歩くというまことに身勝手な動機のロードムービー。その程度の話なのだが、なぜあれほどむきになって歩きまわるのだろう。老人の怒りの理由がわからないし(一応、職を失った春が家を出ていくという状況を提示してはいるものの)、行く先々で喧嘩腰だから、相手もみな怒鳴り声をあげる。全編みな喧嘩腰のロードムービー。もちろんネタ本はシェイクスピア。リア王とコーディリアの悲劇が見事なコメディーになっている。シェイクスピア原作に惹かれたのか出演者は豪華絢爛。小林薫など背中だけで出演しているという贅沢さ。終盤で春が長年音信不通だった父親に会いに行くのだが、その再婚相手が一緒に暮らそうと言ってくれるあたりも、そしてそのせりふ回しも何とも予定調和的。そのあとでの蕎麦屋の場面で春が優しい言葉をかけた時点で、観ている方は、これは忠男は死ぬよりないなと予感するというまことにわかりやすい筋立ての映画。仲代達矢は熱演すればするほどシェイクスピア的になってしまい、身勝手な荒くれ漁師のイメージから離れていく。見ていて痛ましい。何とも安直な映画。

prixunique