タイタンの戦い : インタビュー
サム・ライミやロバート・ロドリゲスといった鬼才も挑戦し、挫折したレイ・ハリーハウゼン最後の名作「タイタンの戦い」のリメイク。その難しい題材にあえて挑戦した36歳の青年監督の思いとは? 来日したレテリエ監督が、ジャパニメーションの影響や自身が嗜好する映画について語ってくれた。(取材・文:平沢薫)
ルイ・レテリエ監督インタビュー
「この映画はこれまでこの企画に関わってきた監督たちとのコラボレーションだ」
「タイタンの戦い」の欧米大ヒットのせいか、レテリエ監督は終始にこにこ顔の上機嫌。どんな質問にもたっぷりと答えてくれた。
オリジナル作は、特撮の神様レイ・ハリーハウゼンが演出するメデューサ、ペガサスなどのクリーチャーの魅力で知られる「タイタンの戦い」。そこで、レテリエ監督はハリーハウゼンに2度、会いに行っている。
「彼にこの映画のスーパーバイザーのひとりになってくださいとお願いしに行ったんだ。彼は伝説的人物で、ピーター・ジャクソンやスティーブン・スピルバーグも彼を尊敬してる。僕もぜひいっしょに働きたいと思ったんだ。でも彼は当時すでに89歳という高齢で、実現しなかった。僕は彼にオリジナルのときにやろうと思って出来なかったことはないかとも聞いたけど、そういうものはないと言われた。だけど彼は『がんばりなさい』と祝福してくれたよ」
監督はオリジナル作に敬意を表して、双頭の犬以外のすべてのクリーチャーを本作にも登場させている。
「8歳で初めてオリジナル作を見たときに好きだったのは、メデューサ。今回の自分の作品で好きなクリーチャーも、やっぱりメデューサだ。僕が彼女を好きなのは、単純に邪悪なだけのクリーチャーじゃないからだ。映画の中でも説明してるけど、彼女は悲しい存在なんだ。ペルセウスは彼女を倒すけど、それは彼女を悲劇的な運命から救うことでもあると思う」
このリメイクはかなり前から企画されていて、彼が監督することになる前にさまざまな監督が関係していた。他の監督が創り出したキャラクターも本作には登場する。
「12年くらい前から動いていて、サム・ライミもロバート・ロドリゲスも興味を持ってたことがある。僕が引き受ける前には『ブレイド』のスティーブン・ノリントンが監督する予定だった。実はオリジナル作には登場しない新キャラのシークは、ノリントンがタッチしてた時期に生まれたキャラなんだ。デザイン画を見たらあまりにカッコよかったから、僕の映画にも登場させたくなって、彼のためのストーリーを創ったんだよ。
つまり、この映画は、一種のコラボレーションなんだ。僕はこれまでこの企画に関係した監督たちのアイデアやコンセプトをすべて捨てる必要はないと思ったし、よいと思ったものは引き継いだつもりだ」
そんな監督に大きな影響を与えたのは日本のアニメ。
「僕のアクション演出は、日本のアニメから学んだんだ! 僕は子供の頃に日本のアニメをたくさん見てて、映画ファンになる前からアニメファンだった。僕がワイドスクリーンが好きなのも日本のアニメの影響だ。アニメでかっこいいと思ったシーンをやろうと思うと、ワイドになるんだよ」
本作で神々が鎧を着ているのは、監督が大好きだったアニメ「聖闘士星矢」の影響。その原作者、車田正美が描いたポスターも発表された。
「もう最高だよ! あのアニメのファンとして大喜びさ。さっそくケータイで撮って、友達全員とキャスト全員に写メしたよ!」
監督作は「トランスポーター」「トランスポーター2」「インクレディブル・ハルク」、そして「タイタンの戦い」と、規模がどんどん大きくなっているが、彼が目差す映画は大作ではない。
「僕はサム・ライミみたいな、小さな製作費で大きなインパクトを与える映画が好きだし、そういう映画を作りたいと思ってる。
そりゃ、子供の頃は『タイタンの戦い』や『スター・ウォーズ』を見て大きなショックを受けて、わあ、これはどんなふうに作るんだろうと思ったし、ジョージ・ルーカス、スティーブン・スピルバーグ、ジョー・ダンテ、ロバート・ゼメキスの映画が好きだった。今もピーター・ジャクソンやデビッド・フィンチャーの映画を見るとスゴイと思う。
でも今、僕が尊敬するのは、もっと小さな映画を撮る監督だ。サム・ライミやギャスパー・ノエみたいな。僕のオールタイム・ベスト映画の一つはギャスパー・ノエの『アレックス』だ。とてもパワフルな映画なんだ。あれを見る観客は勇気があると思うよ」