ホン・ジヨン監督が、「アンティーク/西洋骨董洋菓子店」で人気を獲得したチェ・ジフンを主演に迎えて描く、眩いまでの美しさに彩られたラブストーリー。
一見、韓国映画界が得意とする純愛をテーマにした爽やかなラブストーリーを連想させる作りだ。しかし、この作品、鑑賞するうちにその安易な想像は大胆にひっくり返される。
観客まで目を細めてしまう鮮やかな光にくるまれていたのは、鬱憤、孤独、怒りによって沸騰させられた憎悪、疑惑の姿である。
金融会社を唐突に辞め、料理店を開くことを決めた男が、料理の師範代としてパリから呼び寄せた一人の天才シェフ。そのシェフは、男の妻が偶然、体を重ねてしまった男性だった。
夫婦の家に転がり込んだシェフの居候から始まる物語は、韓国独特の会話の応酬を極端に抑え込み、その爽やかな展開に思わず笑顔がこぼれてしまいそう。だが、作り手はその笑顔を前もって予測した上で、会話の端々に欲求不満、煮えたぎる違和感を流し込む。
変だ、怪しい、気持ち悪い・・・。陰の感情を徹底的に積み重ね、それでもファンタジーの要素を表に押し出して観客を軽やかにだましこむ作り手の嫌らしさ。その全てが、ラストの爆発を見事に活かしきることに成功している。
だが、観客は気付く。決して、この作品を鑑賞した後に心に残るのは痛みではなく、ささやかな幸福であることを。爆発をもって残ったのは、男と女の本当の気持ち、本当に幸せな答え。
単なるコメディーでは描けない、痛み。真実。韓国ラブストーリーがもつ重層的な心理の描き方には、理想的な男女の物語の形がある。光の裏にあるトリックを、たっぷりと味わって欲しい。甘いだけでは、ない。