インビクタス 負けざる者たち : 映画評論・批評

インビクタス 負けざる者たち

劇場公開日 2010年2月5日
2010年1月26日更新 2010年2月5日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー

「ハートの達人」によって高められた和解と赦しの物語

長い獄中生活を送った男が娑婆に出てくる。こんな場面が出てくる映画を、われわれは昔から知っている。東映映画ならば、抗争の準備がなされる。マカロニウェスタンならば、非情な殺戮劇がはじまる。一部のイーストウッド映画もそうだ。牢獄に限らず、「過去」から逃げてきた男がある地点で反転し、孤独な復讐に転じる。場合によっては「幽霊の復讐」という形さえ取る。「アウトロー」「ペイルライダー」「許されざる者」……。

と考えれば、「インビクタス」はまぎれもなくイーストウッド印に連なる作品だ。孤独なヒーロー、投獄27年、不屈の戦い。イーストウッド映画の愛好者にお馴染みの主題は、ここでもはっきりと変奏されている。が、主旋律だけは異なる。主人公ネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)が選び取ったのは、復讐ではなく「和解と赦し」だった。

大作家であると同時に大リアリストでもあるイーストウッドは、マンデラの選択に賛意を表している。私怨を捨てたマンデラは、大統領として「経世済民治国平天下」の道を遠望した。国を治め、民を救い、天下を平和にする方途だ。具体的な受け皿は、アパルトヘイトが崩壊して間もない1995年に南アで開かれたラグビーのワールドカップ。ここから先、現代史がどんな回答を得たかは、われわれもすでに知っている。

この予定調和は、イーストウッドも承知のはずだ。が、彼はひるまない。特有の距離感と悠揚迫らぬペースを保持して、ラストの20分で「和解のための戦い」をくっきりと描き出してみせる。先の見える美談をここまで高めることができたのは、イーストウッドという「ハートの達人」ならではの力技だろう。

芝山幹郎

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