2008年頃に小林多喜二の「蟹工船」が再評価され、文庫本が爆発的に売れた。山村聡による1953年版も再上映されたりと、2008年の新語・流行語大賞にもベスト10入りするなどした。格差社会という言葉が流行したのも、その2年前。このリメイク版もオリジナルを観てから感想を書こうと思っていたのに、オリジナルは台詞が聞き取れない・・・リマスター化希望。
かなりコミカルなシーンも多く、言ってみれば、とっつきやすい印象。1930年代の帝国主義の時代。西島秀俊演ずる浅川監督は「金儲けのためではない。国家的事業であり、ロシアとの戦争なんだ」と強調する。ロシアの海域にも入ったりもしたが、駆逐艦が常に蟹工船を護っていたのだ。
過酷な労働条件。逃げ出す者もあったが、見つかり拷問の末に自殺。新庄(松田龍平)が死んで抵抗しようと仲間をそそのかし、集団自殺を図ろうとするコミカルな部分も、宮口の死によって状況が変わる。ロシア船に助けられたこともあり、新庄と塩田が労働者の権利を教えられ、ストライキを行使しようというあらすじだ。
ごく一部の資本家と権力者という階級社会。ゼロからは何も生み出せないし、それは労働者たちも同じ。閉鎖的な空間だからこそ、その絶妙な駆け引きがあり得たと感じるが、心情的にはもっと根本的な生存権にまで及んでいたように思う。全ての階級社会を否定するわけではないが、その主従関係が閉鎖社会の船中にあって狂気と化した内容。理性を保っていたのは労働者側だったが、地獄を見たのだから当然なのかもしれません。とにかく、地獄絵図との対比は斬新だった。これを観た後ではカニ缶を食べたくなくなること必至!
【2009年7月映画館にて】