K-20 怪人二十面相・伝 : インタビュー
北村想の「怪人二十面相・伝」を金城武主演で映画化した「K-20/怪人二十面相・伝」が間もなく公開を迎える。日本人にはおなじみのダークヒーロー“怪人二十面相(K-20)”をめぐる痛快アクション・エンタテインメントを作り上げた佐藤嗣麻子監督が、映画の製作秘話を語ってくれた。(文・構成:佐藤睦雄)
佐藤嗣麻子監督 インタビュー
「ワイヤーアクションではなく、生身の身体でやるパルクールが撮りたかった」
──映画を見ていて、金城武演じるサーカスの軽業師・遠藤平吉がどんどん上下のアクションを増していきますね。右手首の小さな機械からワイヤーを発射して、スパイダーマンみたいになっていきます。撮る前に、意識したアクション映画とかありますか?
「スパイダーマンは特に意識しませんでした。金城くん演じる遠藤平吉は直線的に走るんですけど、あれは、フランス発祥の“パルクール(Parkour)”というスポーツをやっているんです。『YAMAKASI ヤマカシ』という映画が、パルクールなんです。道具など使わないで、ビルを登っていったり、障害物を飛び越えたり、自力で全部やるんです。最近それがハリウッド映画でも流行っていて、『ボーン・アルティメイタム』でもモロッコの街並の窓から窓へ逃げるシーン、『007/カジノ・ロワイヤル』でも冒頭で黒人の人がクレーンを登ったりするシーンがパルクールです。あの黒人はパルクールの世界チャンピオンらしいんですよ。パルクールは自力でやるから“重力”がちゃんとある。ワイヤーで吊られている動き(ワイヤーアクション)でなくて、人間が生身の身体でやるアクションを撮りたかったんです。
今回の場合、世界初だと思うんですけど、パルクール同士の闘いになっているんです。ジェームズ・ボンドでも彼のほうがパルクールの素人なんです。それで、パルクール同士の闘いを自分自身で見たかったというのがありますね。まっすぐに走る先にビルがあると、登ってもいいんですけど、映画的に時間がかかるから、それを一気に飛び越えたい。そのために、あの機械を使ってみたんです。特別に『スパイダーマン』を意識することはなかったですね」
──北村想さんの原作を読んだときに、パルクールが使えるとピンときたんですか。
「ワイヤーアクションに飽きてたので、パルクールを使ってみたいと思っていたところで、あの北村さんの原作を読んだとき、『これは使える』と思いました」
──架空都市・帝都のランドスケープも、監督のアイデア?
「あれは私と『ALWAYS 三丁目の夕日』の美術もやっている上條(安里)さんとふたりで考えました。最初は『キング・コング』の時代(1930年代)の摩天楼にしたかったんですけど、エグゼクティブプロデューサーの阿部(秀司)さんから『日本は地震大国だから、そんなに高いビルは建たん』と注意されたので、権力の象徴としてのビル(羽柴ビルなど)を一つだけ建てさせてもらったわけです」
──オープニングから、エッフェル塔のような“帝都タワーを望む一大パノラマは圧巻ですね。
「第2次世界大戦がなかったという物語の設定なので、戦争のせいで中止になったんですけれど、東京でも1940年にオリンピックをやる予定だったんです。そのためにテレビも実用化に向け開発されていたらしいんですよね。なので、戦争が起きなければ開発されていて、電波塔もあっただろうと考えたのが帝都タワーでした。街も空襲を受けていないので、戦前に東京にもあったようなヨーロッパ風な洋館が残っているだろうと考えたんです」
──北村想さんの原作に出会ったとき、率直にどうお考えになりましたか?
「映画化しづらいなあと思いました。上下巻あって、途中で主人公が変わってしまうので、どちらかを主人公に絞らなければいけなかった。それに北村さんの小説は、江戸川乱歩の世界のファン小説というか、明智小五郎や怪人二十面相といったキャラクターの裏話が描かれていて、ファンの方が読めば面白いエピソードでいっぱいなんだけど、それを全く知らない人々に理解させるのは少し大変かな、と」