シャッター アイランド : インタビュー
「ディパーテッド」でアカデミー賞を受賞し、名実共にアメリカ映画界の帝王となった巨匠マーティン・スコセッシが再びジャンル映画に挑んだ真意とは?(取材・文:森山京子)
マーティン・スコセッシ監督インタビュー
「人間は過去に犯したことと共に生きて行かねばならない」
――原作よりも先に脚本を読んで監督しようと決めたそうですが、あなたを惹きつけた一番のポイントはどこでしょうか。
「まずストーリーが次々と変わっていくところに惹かれた。刑事ストーリーが違うものへ変わり、最後には予想もしていなかった話へ変貌していく。しかもそのストーリーは主人公テディが辿る心の旅でもあるんだ。最後に彼がする決断にも感動した。後で原作を読んだらラストは少々違うんだ。でも僕は脚本のラストがいいと思った。深い憐れみの情に溢れている。脚本の最後のページでこれをやろうと決断したんだ」
――サスペンスを作るということでチャレンジだと思ったことはありますか。
「サスペンスにトライするのは、僕にとって大きなリスクだった。このジャンルにはいい映画がたくさんあるからね。僕はバル・リュートンが製作した40年代の映画が大好きなんだ。ジャック・ターナーが監督した『キャット・ピープル』(42)や『ヴードリアン』(43)は、タイトルはひどいけど本当に素晴らしい映画だ。それにヒッチコックだね。ヒッチコックのカメラの動きは、罪の意識を明確に表現している。そういう素晴らしい映画をたくさん見ているから、自分にも出来るか心配になったりした。結局、自分なりの映画を作っていくしかないんだけどね」
――シャッター・アイランドをグアンタナモに置き換えると、とても政治的な映画のようにも考えられますが。
「僕も9・11の直後の世界に通じるものがあると感じた。モラルを全て剥ぎ取られ、不信感や裏切られたという感情が渦巻いている。孤島の刑務所に強制送還されるというのはそんな感覚を与えるものだ。原作者のデニス・ルヘインから、それを意識して書いたと聞いたよ。僕自身、この映画を作っている間、刑務所に閉じこめられた囚人のような気持になっていた」
――どうしてですか。
「この映画にあまりに関わりすぎて閉所恐怖症みたいになってしまったんだ。編集中に同じ悪夢を2度も見てうなされた。夢の中で、僕は自分が今までやってきたこと全てが幻想だったと信じ込んでいた。目が覚めて夢だと分かったときは心底ホッとしたよ」
――この映画は自分の真実を探す男のミステリーですが、同時に人間の中に潜む暴力性をどう克服できるかというテーマも見えます。そこは原作より映画の方が強く出ていますね。
「僕がいつでもそれについて考えているからだよ。バイオレンスはまさに人間の一部分だからね。人間は本質的に善い者なのか、悪い者なのか。我々はお互いに対してどんな責任を持っているのか。これは今まで作った全ての映画に通じる問題だ。人間は過去に犯したことと共に生きて行かねばならない。でもテディの場合は、過去を抱えて生きていくことが出来なくなったということなんだ」
――話は変わりますが、3D映画をどう思いますか。
「大好きだよ。10歳の時に見た立体映画の興奮は今でも覚えている。実はリュミエールの『列車の到着』を3Dにしてみたんだが全然ダメだった。あれは平面だからこそ威力を発揮した作品だったわけだ。これから3Dを使うなら、作り手が自分のストーリーをどう見ているか、その見方、語り方が重要になってくると思う。それでなくては新しいリアリティは生まれてこないと思うんだ」