酔画仙

劇場公開日:

解説

19世紀、朝鮮時代末期に貧しい家に生まれ、筆一本で宮廷画家にまでのぼりつめたチャン・スンオプ。伝統的にこだわらない自由な画風で金弘道、申潤福と共に“朝鮮時代三大画家”と称される巨匠でありながら、残された絵も記録もほとんどなく、その生涯はいまだ謎に包まれている。「春香伝」のイム・グォンテク監督が朝鮮時代末期の激動の時代を背景に、破格の画家の生涯を映像化。「オールド・ボーイ」のチェ・ミンシクが、チャン・スンオプを演じる。共演は「シルミド/SILMIDO」のアン・ソンギ、「ラブストーリー」のソン・イェジン。本作はカンヌ国際映画祭で、韓国映画史上初の監督賞を受賞した。

2002年製作/119分/韓国
原題または英題:Chihawseon
配給:エスパース・サロウ
劇場公開日:2004年12月18日

ストーリー

朝鮮時代末期、1850年代。開明派の学者であるキム・ビョンムン(アン・ソンギ)は、街で子供たちに殴られている貧しい子供チャン・スンオプ(チェ・ジョンソン)を助ける。スンオプの墨絵に感心したキムは、少年を自宅に住まわせるが、息苦しさを感じたスンオプは家を飛び出てしまう。数年後、町外れの画材屋に住み込みで働いていたスンオプは、紙を買いにきたキムと再会する。スンオプの絵の才能に驚いたキムは、知り合いの画家に弟子入りさせ、スンオプはそこで専門的な技巧を学ぶ。3年後、すっかり青年となったスンオプ(チェ・ミンシク)は病死した師匠の葬儀を済ませ、再びキムのもとへ戻ってくる。鎖国政策と腐敗した官僚制度を打破すべく、準備を進めていたキムが次に彼を預けたのは、同志であるイ・ウンホン通訳官(ハン・ミョング)の家だった。通訳官の家で働きながら独学で絵の修行を積むスンオプは、小窓越しに眺めていた美しい女性ソウン(ソン・イェジン)に淡い恋心を抱くが、イ通訳官の妹であるソウンの結婚で、初恋はあっけなく終わる。その後スンオプはイ家を出て、絵を描いては酒に浸る放蕩生活を続けていたが、画家の間ではすでに天才と噂されていた。その才能を惜しむイ通訳官は、スンオプを大御所ヘサン先生に弟子入りさせる。「描く前に考えよ」という教えの下で地道に精進するスンオプは、ある外交官から、北京への土産に扇子に絵を描いて欲しいと頼まれる。腕をふるい、画才を発揮したスンオプの描いた絵のおかげで、外交は成功。もてなしの宴に同席した妓生のメヒャン(ユ・ホジョン)と出会い、初めての夜を共にする。1866年、天主教(キリスト教)徒迫害の気運が高まり、教徒であるメヒャンは行方不明となる。イ通訳官の頼みで、病床に伏すソウンのために鶴の絵を描いたスンオプは、放浪の旅に出る。旅より戻ったスンオプは、キムから吾園の雅号を授けられ、自らの画法を進化させるべく精進する。しかしキムの親戚の家で、主人に「絵がうまいだけでは名画は生まれない。絵には学問からにじみ出る品格が表れるのだ」と説かれ、やけ酒で泥酔し、同棲相手の妓生ジノン(キム・ヨジン)の家で大いに荒れるスンオプ。「絵ってのは見栄えがよけりゃいいんだ! 絵に自信のない奴ほど詩なんか書き足して気取っている。奴らは世の中をだますインチキ野郎だ!」。その晩、酔いにまかせて筆ではなく指で荒々しい一匹の猿を描きなぐったスンオプは、翌朝自らの描いた絵に驚く。ジノンとの生活から離れ、スンオプは山奥の廃屋にこもって再び修行を始める。

全文を読む(ネタバレを含む場合あり)

スタッフ・キャスト

全てのスタッフ・キャストを見る

受賞歴

第55回 カンヌ国際映画祭(2002年)

受賞

コンペティション部門
監督賞 イム・グォンテク

出品

コンペティション部門
出品作品 イム・グォンテク
詳細情報を表示

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む

映画レビュー

4.0自由は焔の中に

2024年6月19日
iPhoneアプリから投稿

韓国映画というと『シュリ』『JSA』以降のハリウッド的文法を呼吸したノワールアクションばかりが想起されがちだが、それ以前は本作のようなしみじみとした映画も多かった。

イム・グォンテクはその代表的作家であり、日本では「韓国の溝口健二」と評されている。残念ながら現代日本ではさほど顧みられる機会が少ない作家ではあるが、批評家の四方田犬彦などは韓国映画史における彼の重要性を幾度となく強調している。

本作は李氏朝鮮時代末期の混沌を生きた一人の画家の伝記映画だ。清国と日本との間で翻弄される小国の悲哀といったものが全編に漲っており、そういう意味では戦後台湾史に鋭く切り込んだ侯孝賢『悲情城市』にも通じる射程を感じる。

チェ・ミンシク演じる画家のチャン・スンオプは国家的混乱の中を絵の才覚一つで豪放磊落に生き抜いている。才能を良いことに酒と女をかっ喰らう彼の態度はもはや傲慢の域にも近いといえるが、複雑な政治的背景の中にあってはある種の抵抗として立ち現れている。

しかしそれだけ激烈な個人でさえ飲み込んでしまう歴史の波濤。空を覆い尽くさんばかりの鳥の群れとそれを見上げるミンシクの構図には自由と抑圧という対比性が容易に読み込める。賎民の苦境から画業一つで立身し、自由を手に入れたはずの彼は、いつしか宮廷画家となり、再び自由を封じられてしまった。

自由の条件が才能の有無ではないことを知った彼は空間からの逃避を図る。宮廷から逃げ出し、街から逃げ出し、そして人生から逃げ出した。

燃え盛る釜に身を横たえるという彼の最期は何とも皮肉めいている。紙に絵を描く者にとって最も忌避すべき炎の中にこそ、彼の安寧はあったのだ。

とにかくカット割が優れた映画だと思った。持続と切断のコントロールがとにかく上手い。編集でリズムを作るとはまさにこういうことなんだよ、というお手本のような映画だった。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
因果

4.0奥深き濃淡を味わう

2024年3月6日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

初めて観た韓国映画作品はこれだったかな。交流びとが紹介されてて知り、朝鮮絵画を扱った内容だったので興味を持ち鑑賞。
当日の岩波ホールは、当然のように観客の平均年齢層が高かったです。

貧しい出であった主人公が絵の才能を開花させ、天才画家として波乱万丈の人生を送る内容、酒を飲みながら筆を持たせれば素晴らしき、女にだらしなく失敗もせども、見放されずに謳歌されている。
生み出される作品・水墨画は、自身は資料等見て学んだ位ですが、墨一筆で強弱・濃淡を付け生きる表現をするというのはかなり奥深いのですよね。そのすんごいのがあとからあとから出てくるのでもう、目が離せない。
主人公をチェ・ミンシクが演じてますが、適役としては脇役で出演されてるアン・ソンギの方が印象に残っている。

明るい内容ではないですが、共感する部分もところどころにあり見ごたえのある作品であったのは、確かです。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
chargedpillow