しばらくアメリカ映画に青春映画の佳作が無かったように思う。これもベトナム戦争敗戦の影響なのだろうか。しかし、何と今ここに、素直に喜べる青春映画が現れた。それも、個人的には嫌いな方に入るピーター・イエーツ監督によって作られた「ヤング・ゼネレーション」である。イエーツ作品では「ブリット」「ジョンとメリー」「ホット・ロック」の話題作を観て、そのどれもが感性的に認めたくない演出を感じ取ってしまい印象は良くない。というのも、道徳的に許されないとまではいかないが、イエーツ監督の描く人物像とその行為に不埒な太々しさがあったからである。これは僕が最も注意すべき人間性にまで及ぶから、不快な思いをさせられた。この新作にも、それが全く無い訳ではない。それは、主人公デイブの友人ムーチャーが洗車の仕事を始める朝、ただ社長に遅いと注意されただけで怒ってタイムカードの機械を壊し逃げ去るシーンであり、デイブの父親が中古車販売で保証したにも係わらず、故障した車をはねつけるところである。何も人道主義者を装う訳ではないが、映画の文法として、何故そのような非道な手段に至ったかの説明なり描写が欠落しているから駄目なのである。
しかし、この映画はそれを汚点としても、素晴らしい作品になっていた。主人公始め落ちこぼれの若者4人の青春スケッチに、久し振りの清々しい興奮を覚える。単純で楽天的な視点ではなく、ただ一途に青春に賭ける若者の燃焼が真面目に扱われていた。デイブがイタリアかぶれで自転車レースに夢中になるのも、今それだけが自分の存在価値を高める潔い覚悟であり熱意であるのが痛いほど伝わる。だから、イタリアのレースチャンピオン“チンザノ”との夢の対決をした時、彼らの妨害によって転落してしまえば大きな打撃を受ける。そして、大学生との喧嘩にも、落ちこぼれなりの意気込みを感じられる。挫折を経験した者には説得力があるし、それを含めて青春を奇麗ごとに描いていない。何よりも素晴らしいのは、イエーツ監督が彼らの社会に対する主張を声高にさせていないことだ。それよりも大切なことは何かを、問い掛けている。そして、デニス・クリストファーが演じたデイブによって、その軟弱さは一種の強かさを生んでいた。例えば、大学生のキャサリンの前でセレナーデを歌う心憎いまでのラブコールはどうだろう。直向きな主人公の、この純真さと勇気がいい。ラストの自転車レースは、イエーツ監督得意のスピード感溢れるカメラワークを駆使し、見応えのあるエンディングで終わる。実に爽やかな青春映画で、観終えて幸せな気分になっていた。
落ちこぼれ青春の爽やかな闘志を描いたピーター・イエーツの快心の佳作。社会に対して思い上がった主張をする訳でもなく、青春を燃焼させるため直向きに行動する姿をユーモアたっぷりに描いた好感の持てるアメリカ映画。それとメンデルスゾーンの交響曲『イタリア』を存分に使っているのが、個人的にとても楽しめた。この大好きな曲が、見事に嵌っている。
1980年 4月11日 ニュー東宝シネマ1
ピーター・イエーツ監督では1983年の「ドレッサー」で再び感銘をうけ、この作品と併せて、今では大好きな監督になりました。因みに学生最後の年の1980年の個人的ベストテンを記すと・・・・
①ルードウィヒ神々の黄昏②クレイマー・クレイマー③マンハッタン④オーケストラ・リハーサル⑤ヤング・ゼネレーション⑥フェーム⑦カサノバ⑧鏡⑨大理石の男⑩ローズ 次点 テス、ルナ、オール・ザット・ジャズ、マリア・ブラウンの結婚
この年もいい作品に出逢えました。今振り返ると、「オーケストラ・リハーサル」と「鏡」をもっと上位に置いてもいいかも知れません。