メフィストの誘い

劇場公開日:

解説

「アブラハム渓谷」「階段通りの人々」のポルトガル映画界の巨匠、マノエル・デ・オリヴェイラ監督がファウスト伝説をモチーフに善悪の観念を交錯させる暗黒喜劇。製作は『フランチェスカ』(映画祭上映・TV放映のみ)以来オリヴェイラの全長編作品を手がける「リスボン物語」のパオロ・ブランコ。小説家アグシティナ・ベッサ=ルイーシュがゲーテの詩劇『ファウスト』から着想した物語を基に、オリヴェイラが脚本・台詞を執筆。撮影は「アブラハム渓谷」「階段通りの人々」のマリオ・バロッソ、美術は「階段通りの人々」「リスボン物語」のゼ・ブランコ、編集はオリヴェイラと「神曲」以来オリヴェイラ作品に参加するヴァレリー・ロワズルーがそれぞれ担当。使用曲はソフィア・グバイドゥリーナの『ヴァイオリンと管弦楽のための協奏曲“オフェルトリウム”』と『チェロ、バイアン、弦楽のためのパルティータ“キリスト最期の七つの言葉”』の終曲、イゴール・ストラヴィンスキーの歌劇『放蕩児の遍歴』の第三幕への前奏曲、そして黛敏郎の『弦楽四重奏のための前奏曲』。オリヴェイラは本作で初めて国際的なスターを起用し、「私の好きな季節」の仏女優カトリーヌ・ドヌーヴ、「シェルタリング・スカイ」などの演技派の米国人男優ジョン・マルコヴィッチが主演。共演はポルトガルの名優でオリヴェイラ作品の常連、「階段通りの人々」のルイス・ミゲル・シントラ、「アブラハム渓谷」のヒロインのレオノール・シルヴェイラほか。

1996年製作/90分/ポルトガル・フランス合作
原題または英題:O Convento
配給:UIエンタープライズ
劇場公開日:1996年1月20日

ストーリー

アメリカ人の文学教授マイケル(ジョン・マルコヴィッチ)が妻のヘレン(カトリーヌ・ドヌーヴ)を連れてポルトガルの山中にある古い修道院を訪ねる。教授の目的はシェイクスピアの出生の秘密を明らかにする古文書を調査すること。管理人のバルタール(ルイス・ミゲル・シントラ)が夫妻を迎え入れ、老小使いのバルタザール(ドゥアルテ・ダルメーダ)に修道院の山を案内させる。敬虔なカトリックを装うバルタザールと妻でメイドのベルタ(エロイサ・ミランダ)、実は白魔術の伝承者である。修道院の書庫を管理する研究員ピエダーテ(レオノール・シルヴェイラ)物静かで清純そうな美女だが、夫婦の星占いには不吉な兆候が見える。一方バルタールは本格的な黒魔術の研究者であり、実はこの修道院自体が信仰の場とルシファー崇拝の場が表裏一体になった土地だった。不吉さの漂う空気のなかで元々冷めきっていた教授夫妻の仲はいよいよ疎遠になり、バルタールはヘレンに言い寄って悪魔崇拝の遺跡を見せ、教授にはファウストを説き伏せるメフィストフェレスの如く知識の力で永遠の命を手にするよう誘惑する。ピエターデは彼にゲーテの「ファウスト」の一節を読み聞かせるが、その場にバルタールが現れ、「大好きな作品で、ほとんど暗記している」と言ってメフィストの台詞を暗唱する。ピエダーテは教授に『ファウスト』の英訳本を贈る。二人のあいだには男女を越えた精神の絆があった。女の意地を感じたヘレンはバルタールに、ピエダーテを森のなかで迷わせて永久に姿を消させることを条件にバルタールの欲望に答えるという。果してピエダーテを森の迷宮に呼び出したバルタールだが、そこで彼女に教授に男への愛は一切感じていないこと、むしろバルタールに性的魅力を感じていたこと、そして今は神への郷愁を強く感じていると告げる。ピエダーテは彼を振り切るように森の奥に走りだし、バルダールも懸命に後を追って森に消えた。海岸から目撃していた漁師の話によると、森は炎に包まれ、二人の行方はそのまま知れない。ヘレナが海から全裸で泳いで現れ、ギリシャ風の衣に身を包み、教授と肩を抱き合ってパリに戻った。その後教授はシェイクスピア研究を中止し、今ではオカルト学の権威になった。だがもちろん、漁師の言葉をそのまま信用していいものではない。

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