ギデオン

劇場公開日:

解説

ロンドン警視庁のギデオン警部のある1日を描いた警察映画。製作をマイケル・キラーニン、監督は「駅馬車」のジョン・フォード、脚本はT・E・B・クラーク、原作はJ・J・マリックの『ギデオンの一日』(早川書房刊)、撮影はフレデリック・A・ヤング、音楽はダグラス・ガムレイが各々担当。出演はジャック・ホーキンス、アンナ・リー、アンナ・マッシー、ダイアン・フォスター、アンドリュー・レイ、デレク・ボンド、グリゼルダ・ハーベイ、ロナルド・ハワード、ローレンス・ナイスミス、シリル・キューサックなど。

1958年製作/91分/イギリス
原題または英題:Gideon of Scotland Yard Gideon's Day
配給:インターナショナル・プロモーション
劇場公開日:1977年11月26日

ストーリー

ロンドン警視庁特捜部のギデオン警部(ジャック・ホーキンス)の多忙な1日は、たれこみ屋からの電話によって始まった。「この面汚しめ!」とギデオンはカービイ(デレク・ボンド)刑事にどなりつける。カービイは麻薬一味より賄賂を受け取っていたのだ。即刻カービイに休職をいいわたしたギデオンに、給料強盗の通報が入った。また、時を同じくして、マンチェスターの少女殺しの猟奇犯(ローレンス・ナイスミス)がロンドンに潜入。強盗の現場検証後、ギギオンはカービイ夫人(グリゼルダ・ハーベイ)をたずねた。夫をかばう夫人から謎の女が浮んでくる。と、そこにカービイの事故死。一方、ロンドンに潜伏した少女殺しの猟奇犯は次の犯行をした。数時間後、若い警官サイモン(アンドリュー・レイ)により犯人は逮捕される。そのころ、給料強盗の残したタイヤの跡と、カービイをひき殺したタイヤの跡とが一致した事と、カービイのロッカーからジョアナ(ダイアン・フォスター)という美人の写真が発見された事とで、ロンドン警察はいろめき立った。2つの事件は結ばれていたのだ。ギデオンはジョアナを問いつめていたころ、給料強盗犯がたれこみ屋にさしむけた殺し屋がつかまった。ギデオンはこの殺し屋の自供をもとに、ジョアナの家へ乗りこむと、そこに、主犯のデラフィールド(R・ハワード)がいた。が、デラフィールドは窓から逃げだし、やがて非常線の網にかかった。ギデオンの長い1日は終った。妻ケート(アンナ・リー)との約束のサーモンを持って帰宅するギデオン。でもまた事件が……、ギデオンの1日はまだ終らない。

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映画レビュー

4.0ジョン・フォードの珍しいユーモア溢れるイギリス映画にして、気軽に楽しめる巨匠の味わいのあるコメディ映画

2022年2月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ジョン・フォード監督は、このイギリス映画を制作した理由について、暫くアメリカを脱出したかったと述べている。この作品の前に「最後の歓呼」を、後に「騎兵隊」を監督しているが、西部劇主体のアメリカ映画から離れて、イギリス映画のジョン・フォードタッチが味わえる貴重な作品となる。それはフォード監督の特長の一つであるユーモアが、ストレートに表現されているからだ。日本来日の際に、帝国ホテルに押し掛けてインタビューした淀川長治さんから一番好きな映画監督は誰ですかと聞かれ、フランク・キャプラと答えたフォード監督。ヒューマニティー溢れるコメディ映画が好きなフォード監督のイギリス的なユーモアが観ていて心地良い、愛すべき小品に仕上がっている。 主人公は、スコットランドヤード(ロンドン警視庁の本部)のジョージ・ギデオン上級警部である。物語は、彼が如何に忙しい仕事に取り組んでいるかを解説したような、ギデオンの周りに起こる事件と出来事を間断なく描いた1日のエピソード集。同僚の不正から始まり、狂人による殺人事件、そして強盗事件といったショッキングな捜査が続くが、映画はそのどれにも深入りはしない。フォード監督が描きたかったのは、事件の進展や解決の関心ではなく、ギデオンの人間性に置かれている。妻との愛情豊かな夫婦の生活感ある姿、交通違反に厳しい新米巡査との奇妙な関わりに見せる人間ユーモア、そして何よりも部下との規律と仕事遂行の誠実で真摯な行動力で見せる上役としての使命感。結局フォード監督は、西部劇の騎兵隊ものから離れても、上役と部下の真面目で勇敢な結びつきに強い愛着を持っている。それは部外者から見れば羨ましいくらいの、あるべき組織の人間関係であり、ヒューマニズムの一つの理想形なのだ。フォード映画の素晴らしさと美しさとは、縦の人間関係がしっかり描かれていることであり、それに対する横の関係である家族愛も人間味豊かに表現されていること。この縦と横の関係が織り成した人間社会が、フォード監督の理想とするヒューマニズムなのだろう。 主演のジャック・ホーキンスが凄くいい。珍しい主演映画だからもあるが、彼の最良と思える好演を見せる。充分な貫禄と人懐っこい人間味を感じさせる演技だ。新米巡査がギデオンの娘と親しくなり、図々しくも当日早々ギデオン家を訪れる下りが面白い。ここの演出は、フォード監督が微笑ましく想いながらやっているなという感じである。映画の結末は、新たに発生した事件に急行するギデオンと運転するその新米巡査がスピード違反で止められ、且つ免許証不携帯のおまけ付きに呆れ返るギデオンの様子が笑わせてくれる。けして傑作と言えるほどの改まった映画ではない。しかし、気軽に楽しみながら演出すると、巨匠ならではの味わいのある作品が出来上がる。他の巨匠で例えるなら、ジャン・ルノワール監督の「フレンチ・カンカン」か。どちらも映画好きには堪らない映画だ。   1979年 1月17日  銀座ロキシー

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Gustav