劇場公開日 1997年11月8日

ラヂオの時間 : 映画評論・批評

2020年9月1日更新

1997年11月8日よりロードショー

映画監督・三谷幸喜の原点 心痛を笑いに転化し最後まで手を抜かず

今や誰もが知る三谷幸喜の映画監督デビュー作で、三谷主宰の劇団「東京サンシャインボーイズ」が上演した舞台劇をもとに映画化したもの。ラジオドラマ生放送中のスタジオで巻き起こる騒動を描いたシチュエーションコメディだが、誕生のきっかけがテレビドラマ「振り返れば奴がいる」にあることは、有名な話である。

「振り返れば奴がいる」は、織田裕二が天才的な腕を持つ悪徳外科医を演じたシリアスな作風の医療ドラマだが、三谷にとってはゴールデンタイムで初めて脚本を手がけた連続ドラマ。だが三谷の意図に反し、喜劇的な要素が盛り込まれた脚本が、制作スタッフによってシリアスな作風へと書き換えられていってしまう。転んでもただでは起きぬ……とでも言おうか、そのショックを受けた経験から生まれたのが、「ラヂオの時間」だ。

物語の舞台となるのは、ラジオ局「ラジオ弁天」のスタジオ。生放送が始まるラジオドラマのリハーサルが行われているが、初めて書いた脚本が採用された主婦・鈴木みやこ(鈴木京香)は緊張を隠し切れない。そして本番直前、主演女優・千本のっこ(戸田恵子)から「役名が気に入らない」といういちゃもんが入り、脚本に変更が加えられることに。その辻褄を合わせるため、次々と設定を変更していくうちに、熱海を舞台にしたメロドラマは米シカゴで女弁護士とパイロットが繰り広げるドラマへと変貌を遂げ、収拾がつかなくなる。

後の三谷映画の常連俳優たちが顔を揃えており、“礎”はここにあると言っていい。唐沢寿明や西村雅彦(現・西村まさ彦)はもちろんだが、2017年に他界する大ベテラン・藤村俊二さんが終盤に見せた芸達者ぶりには目を瞠る。

三谷作品の楽しみ方のひとつには、細部にまで張り巡らされた伏線をどう読み解くかが挙げられる。今作でいえば、軽薄極まりない八方美人な編成部長・堀ノ内に扮した布施明の存在を無視することができない。エンディングテーマ「no problem」を歌っているのだが、歌詞に「千本ノッコが喜んでくれれば、それだけで良い」というくだりがあり、最後まで手を抜かず、ぶれずに笑いを追求する三谷監督の姿勢が当時からうかがえる。ちなみに堀ノ内は、三谷監督の次回作「みんなのいえ」にも登場しており、こちらも確認していただきたい。

大塚史貴

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