笛吹川

劇場公開日:

解説

深沢七郎の同名小説の映画化で、戦国時代を背景に笛吹川のほとりに住む貧農の五代にわたる約六十余年の物語。「春の夢」の木下恵介が脚色・監督した。撮影も「春の夢」の楠田浩之。

1960年製作/117分/日本
配給:松竹
劇場公開日:1960年10月19日

ストーリー

戦国時代。甲斐国の笛吹橋の袂に一軒の貧しい家があった。敷居は土手と同じ高さだが、縁の下は四本の丸太棒で土手の下から支えられていて遠くからは吊られた虫籠のように見えるので、村ではギッチョン籠と呼ばれていた。この百姓家には、おじいと婿の半平、孫のタケ、ヒサ、半蔵が住んでいた。もう一人の孫は竹野原に嫁いでいた。おじいは、半蔵がお屋形様(武田信虎)の戦についていき、飯田河原の合戦で手柄をたてたのに大喜びである。お屋形様に生れた男の坊子(ボコ)の後産を埋める大役を半平が申しつかった。おじいがその役をひったくったが、御胞衣を地面に埋める時血で汚し、家来に斬られた。その同じ日、近くの家で赤ん坊が生まれ、その子はおじいの生れ代りと信じられた。やがて、半蔵もおじいと同じ左足に傷を受けてチンバになり、遂には討死してしまった。しかし、戦についていくと褒美が貰えたり、出世したりするので、村の若い者はみんな戦に行きたがっていた。年は移り、ミツの子・定平がおけいを嫁にした。おけいはビッコだったが、よく働いた。そのうち、半平は病死した。歳月は流れた。定平とおけいの間には長い間ボコが生れなかったが、双子嫁の万丈さんが死んだ日、惣蔵が生れた。一年を経て、次男の安蔵が生れた。タケとヒサが死んで惣蔵が三つになった時、ミツが後妻に行った山口屋が大金特になりすぎたためにお屋形に嫉まれて焼打をくった。ミツは殺され、子供タツは娘のノブを連れて甲府を逃げ出し、定平の世話でかくまわれた。タツはお屋形様に恨みを抱き、武田家を呪った。ノブは男に捨てられ、男のボコを生み落したが寺の門前に捨て、死んだ。やがて、定平とおけいの間には三男平吉が生れ、三人の男の子と末娘ウメを抱え、夫婦はオヤテット(手伝いに行くこと)に出て働いた。子供たちは成人し、惣蔵と安蔵は戦に行った。ウメまでも奉公に出てしまった。やがて、信州の高遠城が落ち、惣蔵たちは笛吹橋に敗走してきた。おけいはお屋形様の行列を追って、笛吹川の土手を駈けながら子供たちの名を呼び続けた。しかし、子供たちはふり返ろうともしなかった。涙を拭いながらおけいは行列についていった。行列は天目山をめざした。安蔵と平吉は甲府のお聖道様の許に馬を馳せたが、敵の囲みを破って引き返すのが精一杯だった。二人が戻った時には、惣蔵の子久蔵を抱えたおけいも、ウメも死んでいた。安蔵と平吉は、お屋形様の人たちがたてこもった恵林寺に向ったが、十重二十重にとり囲まれ、火をかけられていた。安蔵と平吉は刺しちがえて倒れた。ノブの子次郎を求めて駈けつけたタツも炎にまかれてしまった。定平がたった一人とり残された。笛吹橋の下で野菜を洗おうとしゃがんた定平の目前に、武田家の旗差物が流れていく。

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映画レビュー

4.5パートカラー(?)の批判が多いようで、まあ明らかに邪魔で画面を損ね...

2023年12月5日
Androidアプリから投稿

パートカラー(?)の批判が多いようで、まあ明らかに邪魔で画面を損ねている場面もあるけど、作品全体を通してみると、なかったら余りにも殺伐としていたと思う。

木下作品の独特の演出は当たり外れがあるけど、本作のそれを言うなら他にもあるぜよと言いたくなる。個人的には失敗と断じてしまうのは惜しいとも感じた。

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抹茶

3.0一応、カラー作品

2022年7月2日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

木下恵介監督の挑戦的な映像作品で、ベースは白黒だがカラー作品ではある。
笛吹川の橋のたもとにある貧乏な農家が歩む戦国時代の悲劇が描かれる。
主役は長男の田村高廣と嫁の高峰秀子かな。
信州の武田一族に仕えることで、人生が大きく左右されていく。

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いやよセブン

4.0おやかたさま・・・

2020年7月1日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 白黒映像をベースに空の青、土の茶など、部分的に色をつけた風変わりなフィルム。その他にも赤や青などの原色で染められたパートカラーの効果はかなり実験的。

 おとう半平の息子にあたる半蔵は手柄を立てるが、やがて戦死。半平の娘ミツの息子定平も「おまんは大きくなっても戦に行くな」という祖父の口癖の甲斐なく戦に行く。村中の若者が全て戦死するが、代が替わっても皆戦争だ。おじいの生まれ変わりと言われた女の恨みによって信玄が病死したと噂もされた。

 延々と続く戦。誰が誰の息子で・・・などと考えるのが面倒になるくらい戦は続く。お屋形様に先祖代々お世話になっている主張する惣蔵と、最後の合戦で「うらみを果たしたぞ」という台詞。長く戦い続ける愚かさと、犠牲になるのはいつも一般庶民であること、そして木下監督らしい反戦メッセージがぐさりと胸を突き刺してくる・・・

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kossy

3.0公開された時代と合わせて初めて価値と意味を持つ作品なのではないだろうか

2019年10月13日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

1960年10月公開ということを頭に入れて置きたい
その年は60年安保が成立した年なのだ

抒情的な物語ではない、戦国時代の軍記ものでも全くない
では何をテーマとした映画なのか?
モノクロ映画に部分的に色彩をつけるのは一体何故なのか?
木下恵介監督は日本で最初のオールカラーの長編映画を撮った監督として有名だ
それは1951年の作品であってこの時代ではカラーで撮ることにそう多きな制約はなくなっている
カラーで撮りたかったのを果たせなく部分的な着色で我慢して代用したというものではない
画面から伝わるのは絵巻物であるという印象を強調するためであったのでは無いかと思える
つまりファンタジーであって、劇中の内容についてとやかく文句をつけないでくれという方便であったのでは無いかと思う

ではそこまでしてファンタジーだと強調した物語とは何であろうか?

確かに表面的には反戦物語だ
武田家の興亡と大日本帝国の興亡との相似形を感じる
戦争に駆り立てられて次々と死んでゆく若者達
武田家の滅亡に殉じようとする姿は徹底抗戦を叫んで本土決戦を画策する青年将校を思わせもする

しかしそれでそこまでしてファンタジーだと目眩ましをする必要があったのだろうか?

21世紀の未来から60年昔の本作を観ると違うアナロジーであったのではないのかという疑問が拭えない

60年安保闘争の敗北を認めず、デモ行進をやめず学生運動を続ける若者達と、戦争の敗北が決定的にも係わらず徹底抗戦を叫ぶ青年将校達とは、妙に似ているのだ
現実を見ず、国民の支持や行く末を見ず、自分たちの思想信条だけを優先する姿勢が同じなのだ
本作で親が止めるのを振り切って戦さに行く若者達は学生運動に身を投じる若者達のアナロジーに見えて仕方がないのだ

家族を殺されて武田家を呪う老女は、共産党から路線の違いを査問を受けてリンチの末に死んで行った人々の無念を暗喩しているのではないか

つまり本作の真のテーマとは、60年安保闘争と学生運動、左翼運動に対する批判なのだ

それが監督の真意かどうかは単なる類推でしかない
しかし、そう取られて吊し上げられないようにファンタジーであると念をいれたのではないだろうか
当時はそのような立場を表明しようものなら映画を撮れなくなるなるばかりでなく、命すら危なくなるような、ヒステリックな時代であったのだ

川中島の合戦や長篠の戦いはそれなりに迫力はある
しかし物語は大変冗長で、とても木下監督とは思えない睡魔と戦わなければならない内容で残念だ
高峰秀子も田中絹代も裸足で逃げ出すような役作りではあるのだが、鬼気迫ると言うような見せ場も特になくこれも残念だった

公開された時代と合わせて初めて価値と意味を持つ作品なのではないだろうか

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