張込み(1958)

劇場公開日:1958年1月15日

解説

小説新潮所載の松本清張の同名小説の映画化で、兇悪犯を追う刑事の姿を描いたセミ・ドキュメンタリ篇。「伴淳・森繁の糞尿譚」のコンビ、橋本忍が脚色、野村芳太郎が監督した。撮影も同じく「伴淳・森繁の糞尿譚」の井上晴二。主演は「淑女夜河を渡る」の大木実、高千穂ひづる。「その夜のひめごと」の宮口精二、「喜びも悲しみも幾歳月」の高峰秀子、田村高廣。ほかに松本克平、藤原釜足、浦辺粂子、多々良純、川口のぶなど。

1958年製作/116分/日本
原題または英題:Chase
配給:松竹
劇場公開日:1958年1月15日

あらすじ

警視庁捜査第一課の下岡と柚木は、質屋殺しの共犯石井を追って佐賀へ発った。主犯の自供によると、石井は兇行に使った拳銃を持ってい、三年前上京の時別れた女さだ子に会いたがっていた。さだ子は今は佐賀の銀行員横川の後妻になっていた。石井の立寄った形跡はまだなかった。両刑事はその家の前の木賃宿然とした旅館で張込みを開始した。さだ子はもの静かな女で、熱烈な恋愛の経験があるとは見えなかった。ただ、二十以上も年の違う夫を持ち、不幸そうだった。猛暑の中で昼夜の別なく張込みが続けられた。三日目。四日目。だが石井は現れなかった。柚木には肉体関係までありながら結婚に踏みきれずにいる弓子という女がいた。近頃二人の間は曖昧だった。柚木には下岡の妻の口ききで、風呂屋の娘との条件の良い結婚話が持ち上り、弓子の方には両親の問題があったからだ。一週間目。柚木が一人で見張っていた時、突然さだ子が裏口から外出した。あちこち探した末、やっと柚木は温泉場の森の中でさだ子と石井が楽しげに話し合っているのを発見した。彼が応援を待っていると、二人はいなくなった。再び探し当てた時、さだ子は石井を難きつしていた。だが彼女は終いには彼に愛を誓い、彼と行動を共にするといった。しかし下岡刑事が到着し、石井はその温泉宿で逮捕された。この張込みで、柚木は女の悲しさを知らされ、弓子との結婚を決意した。「今日からやり直すんだよ」柚木は小声で石井を慰めた。それは自分へ言い聞かせる言葉でもあった。

全文を読む(ネタバレを含む場合あり)

スタッフ・キャスト

全てのスタッフ・キャストを見る

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む

映画レビュー

4.0【凶悪犯の元恋人が吝嗇化の男の後妻として嫁いだ先の精気なき姿を刑事達が張込みで観察する静的前半と、凶悪犯と出会った生き生きとした女の変化の対比を高峰秀子さんが見事に演じた作品。】

2025年5月18日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

興奮

知的

ネタバレ! クリックして本文を読む
コメントする 1件)
共感した! 5件)
NOBU

5.0九州は遠いですね

2025年5月12日
PCから投稿

清張が映像化された作品の内、小説を超えたのは砂の器とこれだけ、と言っていたそうです。
確かに原作の短編以上の緊迫感と臨場感はサスペンスの教科書的です。
単純な話をここまで飽きずに最後まで引っ張った演出力はさすが、刑事二人とデコちゃんの演技も秀逸です。鉄道風景などロケーションの興味も最高潮です。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
越後屋

4.5無味乾燥な日々を過ごす横川が石井と再会した途端に急変、秘めていた激情を発露させる高峰秀子氏の演技も実に良いですね。

2025年5月11日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

神保町シアターさんにて特集企画『横溝正史と松本清張――映画で味わう至高のミステリー対決』(2025年5月3日~30日)開催中。
本日は『張込み』『黒い画集 ある遭難』『けものみち』の松本清張作品3作をはしご鑑賞。

『張込み』(1958年/116分)
原作・松本清張氏、『砂の器』の野村芳太郎監督、脚本・橋本忍に加え、山田洋次氏も助監督として参加した超豪華布陣。
映画化に際して、松本氏と橋本氏が警視庁に取材、原作の単独張込みから若手とベテランのバディに変更したことで、警察側の動向や刑事の心理描写がリアルになりましたね。

本作が出色なのは、追跡中の犯人の昔の恋人を張込むため、新幹線開通前、蒸せるような暑さのなか、横浜駅~佐賀駅の列車移動シークエンスが実際の車中で一昼夜撮影、冒頭長尺で採用されている点。
当時の記録としても貴重ですが、「張込む」という画替わりしない題材を飽きさせないよう冒頭に動きのあるシーンを差し込む橋本忍氏の脚本は心憎いですね。

張込みを続けることで、次第に犯人・石井(演:田村高廣氏)の昔の恋人・横川さだ子(演:高峰秀子氏)に心惹かれていく若手の柚木刑事(演:大木実氏)の心の機微、相棒のベテラン刑事・下岡を演じる宮口精二氏の『七人の侍』の久蔵とは180度全く違う軽妙洒脱な演技が実に良いですね。

特に石井と別離後、生活のためケチな銀行員の後妻となって、無味乾燥な日々を過ごす横川が石井と再会した途端に急変、秘めていた激情を発露させる高峰氏の演技も実に良いですね。

コメントする (0件)
共感した! 2件)
矢萩久登

4.0Woman

2025年5月11日
Androidアプリから投稿

列車の窓を開けて天井で回る扇風機の風を待ちながら汗をかいて居眠り。
オープニングの蒸気機関車のシーンから一気に昭和の真夏へタイムスリップ。
羊や牛が行交うのどかだけど寂寞とした田舎の景色はエモいを通り越して心象風景のよう
みんなで聴くラジオからは日本人の魂そのもののような美空ひばりの歌が流れて…。
大木実みたいな顎がガッチリした男臭いイケメンはいなくなりましたよね。
今なら高峰秀子の役は安藤サクラとか平岩紙?江口のりこ?
難役をこなす女優はいるのでしょうが、高峰秀子の醒めきった佇まいは独壇場。
主張は強く無いのにどんな役も結局この人しか考えられないと思えてしまう。
教科書のような大女優。
女の本質を知り、男は迷いを断ち切る。
性差のロマンチシズムも昭和ならでは。

コメントする (0件)
共感した! 1件)
こうた