青春の殺人者

劇場公開日:1976年10月23日

解説

一九六九年十月三十日、千葉県市原市で実際に起こった事件に取材した芥川賞作家中上健次の小説『蛇淫』をもとに、両親を殺害した一青年の理由なき殺人を通して、現代の青春像を描き上げる。脚本は元創造社のメンバーの一人で、作家に転向以来五年ぶりに脚本を執筆した田村孟、監督はこれが第一回監督作品の長谷川和彦、撮影は「祭りの準備」の鈴木達夫がそれぞれ担当。

1976年製作/132分/R15+/日本
配給:ATG
劇場公開日:1976年10月23日

あらすじ

彼、斉木順は二十二歳。親から与えられたスナックを経営して三カ月になる。店の手伝いをしているのは、幼なじみの常世田ケイ子である。ある雨の日、彼は父親に取り上げられた車を取り戻すため、タイヤパンクの修理を営む両親の家に向った。しかし、それは彼とケイ子を別れさせようと、わざと彼を呼び寄せる父と母の罠だった。母は彼に「順は取り憑かれてるのよ、蛇にぐるぐる巻きにされてる」となじる。早く別れないとあの体にがんじがらめになるという。もともと、スナックを建てる時にケイ子を連れて来たのは父だった。ケイ子は左耳が関えなかった。その理由を順はケイ子のいう通り、中学生の頃、いちじくの実を盗んで食べたのを、順がケイ子の母親に告げ口をし、そのために殴られて聞えなくなったと信じていた。しかし、父は、ケイ子の母親が引っばり込んだ男に彼女が手ごめにされたのを母親にみつかって、たたかれたからで、いちじくの話はケイ子のデッチ上げだという。母親が野菜を買いに出ている間に、彼は父親を殺した。帰って来た母は最初は驚愕するが、自首するという彼を引き止めた。こうなった以上、二人だけで暮そう。大学へ行って、大学院へ行って、時効の十五年が経ったら嫁をもらって、と懇願する。だが、ことケイ子の話になると異常な程の嫉妬心で彼を責める。ケイ子と始めから相談して逃げようとしていたのだ、と錯乱した母は庖丁を手に待った。もみ合っている内に、彼が逆に母を刺していた。金庫から金を奪った彼は洋品店で衣類を替え、スナックに戻った。彼はケイ子に、店を今日限りで閉めると言った。何も知らないケイ子は、自分のことが原因だから両親に謝りに行くという。彼はもう取り返しがつかないと彼女を制した。衝動的に彼がケイ子を抱こうとした時、高校時代の友人の宮田とその婚約者郁子、宮田の大学の同級生日高の三人が訪ねて来た。彼が高校時代に撮った8ミリを皆で見ようというのだ。ガレージの中で、教師と両親を葬れといった内容の8ミリを見終る。順は、日高がトイレに行った時、風呂場で両親の死体を日高に見せる。親とは仲直りして、ごめんなさい、金下さいって言えばいいという日高に、仲直りできない理由を教えようというのだ。日高は、ぶるぶる震えているだけだ。順はケイ子と一緒に、ケイ子のアル中の母親の家に行って、いちじくの一件をたずねるが、八つ手はあったが、いちじくはなかったと、母親はいう。順は、追って来るケイ子を振り切って、一人で家へ戻る。両親の死体をタオルケットで包んでいる時に、ケイ子が家の中に入って来た。ケイ子は、殺人のことを既に知っていたのか、平然としている。彼女も包みを運び出すのを手伝ってから、二人は燃えた。海に死体を捨てたあと、いちじくの話はケイ子の作り話だと彼女から聞かされた。彼の脳裏に幼い日の彼と、貧しい父と母が浮かぶ。食うもんも食わんで、飲むもんも飲まんで、バカだよ。彼は泣いていた。ケイ子は彼と一緒に死ねると思った。「俺はここを燃やしたい、ここじゃなきや燃やしたことにならない」。二人は、スナックにガソリンをまいて、火を放った。梁にロープをつけて首をかけたが死に切れず、ケイ子を連れて外へ出た。見物人の人混みの中で、ケイ子から離れた彼は、一人、走るトラックの荷台から遠い黒煙を見ていた。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

5.0 潮風に溶ける、幼き日の肩車。アイスキャンディーに滲む、戻れない夏の名残

2026年4月6日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

斬新

2026年1月31日、惜しまれつつこの世を去った長谷川和彦監督。
享年80歳。

池袋・新文芸坐で開催された追悼特集「ゴジと呼ばれた男 長谷川和彦の凄み」に足を運びました。
スクリーンで対峙したのは、伝説のデビュー作『青春の殺人者』(1976)、そして制作の裏側に迫るドキュメンタリー『「青春の殺人者」という事件の現場。』(2014)、上映後には監督の長年のパートナーであった室井滋氏が登壇し、稀代の表現者の素顔に触れる貴重なひとときとなりました。

■「親殺し」という衝撃。30年経っても色褪せぬ初期衝動
中上健次氏の短編『蛇淫』を原作に据えた本作。
私の初見は30年以上前になりますが、今回改めて鑑賞しても、当時に受けた衝撃は1ミリも摩耗していませんでした。

主演の水谷豊氏は、今や「杉下右京」としての理知的で冷静沈着なイメージが定着していますが、本作で見せる姿は正反対。
両親の敷いたレールを脱線し、咄嗟の衝動でその命を奪ってしまう青年・順。
苦悩と悔恨に身を焦がし、感情を爆発させるその演技は、当時『傷だらけの天使』や『男たちの旅路』で同時代の若者の「陰」を一身に背負っていた彼にしか成し得ない適役だと再認識。

■ 名優たちが織りなす、逃げ場なき家族の地獄図

脇を固める俳優陣も圧巻。
デビュー間もない原田美枝子氏は、瑞々しくも小悪魔的な危うさを放ち、若さゆえの大胆さと繊細さで男を翻弄。

父役の内田良平氏が体現する戦後を生き抜いた男の激烈な厳しさ。

そして何より、市原悦子氏が演じた母親の凄まじさ。
息子への溺愛と一人の女としての欲望が綯い交ぜになったその姿は、観る者の生理を逆撫でするほどに見事でした。

■ 涙の海辺、そしてゴダイゴの調べ
本作の白眉は、逃走中の順が海辺でアイスキャンディーを食べる回想シーン。
貧しかった父が自転車でアイスを売り、自分を肩車してくれたあの日。
大粒の涙と共に溢れ出す後悔の念は、何度観ても胸を締め付けられます。

また、劇伴にデビュー直後のゴダイゴを起用した感性も鋭いです。
劇中に使用された「想い出を君に託そう」「イエロー・センター・ライン」「マジック・ペインティング」「憩いのひととき」はどれも名曲。
凄惨な物語に重なるタケカワユキヒデ氏の透明感ある英語の歌声は、泥濘のような現実に不思議な浮遊感を与えます。
それはATG作品特有の重苦しさを中和し、本作にアメリカン・ニュー・シネマのような乾いた叙情をもたらしています。

■ 総評:時代が求めた「不穏な空気」の正体
公開された1976年。高度経済成長が終焉を迎え、80年代の喧騒へと向かう幕間の時期。
本作には、安定期へ向かう社会への漠然とした不安と、行き場を失った若者のエネルギーの充満した空気感も見事に描いていますね。

わずか2本の長編実写映画で日本映画界にその名を刻み続けた長谷川和彦。
彼がスクリーンに焼き付けた「凄み」は、没後もなお、私たち観客の心を激しく揺さぶり続けるでしょう。

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共感した! 5件)
矢萩久登

3.5 やっと鑑賞、映画館で観れて良かったー 配信でも良いけど何故か観てな...

2026年4月4日
iPhoneアプリから投稿

やっと鑑賞、映画館で観れて良かったー
配信でも良いけど何故か観てなかった。水谷豊の筋肉や身体の美しさと言ったらもう!
原田美枝子も可愛さと美しさが同居してて素敵。
やはり市原悦子が凄かった…
ドキュメント映画「「青春の殺人者」という事件の現場」まで立て続けに鑑賞。新文芸坐大好き!

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共感した! 2件)
Mk.plass

3.0 良くも悪くもATG

2026年3月28日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

興奮

青春時代に誰もが陥る自暴自棄
普通はどこかで理性のブレーキで止まるが
暴走し続けた彼らの悲劇と母親の狂気
終始ギラギラしたジュンと魔性の女ケイコの壊れっぷりはボニー&クライド級。
流石は長谷川監督、昭和という時代の荒々しい映像中に差し込まれる少年時代家族の思い出は胸に突き刺さりました。

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映爺

5.0 観るべき映画

2026年3月28日
Androidアプリから投稿

良い映画は最初の数分のシーンで分かる、監督の力量・思いがそこに表れるから主人公“順”が水溜まりの飛沫を浴びるシーン~バスから見える風景これから始まる物語がただものではないと解らせる・・・そしてラストは美しい。
観るべき映画

ゴジの三作目見たかった、合掌🙏

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なんてこった