忍ぶ糸
劇場公開日:1973年7月7日
解説
果たされぬ恋を組紐に託し、忍従に生きぬいた、娘二代の愛の歴史を、城下町・伊賀上野を舞台に描く。原作は北原優子の同名小説。脚本は「恍惚の人」の松山善三と、増田憲義、監督は「卒業旅行」の出目昌伸、撮影も同作の原一民がそれぞれ担当。
1973年製作/168分/日本
原題または英題:Long Journey into Love
配給:東宝
劇場公開日:1973年7月7日
ストーリー
〈第一部・古都のめぐり逢い〉昭和十八年、伊賀上野。滝本千賀は、この里一番の紐屋“増住”の組み子になりたく、単身増住の門をくぐった。だが、増住は八十年の歴史を持つ老舗、良家の子女しか採用されない。しかし、千賀は、増住の一人息子・洋三の口聞きで、組み子として増住で一番の織り手・海渡たけのの下で働くことになった。日増しに千賀と洋三は深く愛し合うようになっていったのだが、あまりにも家柄が違いすぎた。結婚を反対する父・大二郎と激しく争った洋三は、千賀に必らず迎えに来る、といい残し、京都の大学に帰ってしまった。大二郎は、千賀が結婚すれば、洋三が諦めるものと考え、増住の下請け紐屋、藤波良作に縁談を持っていった。悩み苦しんだ千賀は列車に身を投げようとするが、たけのに助けられた。そしてたけのは千賀に、洋三への想いは一生胸の奥へしまい込み、藤波家に嫁ぐように助言するのだった。結納が交された日、千賀は京都へ洋三に会いに行った。その夜二人は結ばれた。そして別れ際、千賀は一束の髪を切り洋三に手渡した……。洋三への想いを堅く心に閉ざしたまま良作と結婚した千賀は、決して良作に心を許そうとせず、まるで生人形だった。戦局はますます悪化、洋三、良作も召集された。敗戦の年、千賀は、洋三の子か良作の子か、長女・亜木子を生んだ。〈第二部・春の旅立ち〉昭和二十二年十一月。亜木子も二歳になり、良作がシベリアから復員して来た。千賀は増住の下請けを離れて独立した。良作は千賀と愛のない生活を送るうち、亜木子が本当に自分の子供であるか疑いを持ち、千賀を責めるのだった。そんなある日、酔った良作は、自殺とも事故死ともつかず、列車に轢かれて死んでしまった。その頃、戦地で身体障害者になった洋三が、看護婦の妻・咲枝を連れて復員して来た……。歳月は流れ、亜木子は母に似て美しく成長していた。亜木子には婚約者がおり、猪木慶山の窯場で働いている。ある日、亜木子の前に、陶芸家の三沢という男が現われた。亜木子は三沢の陶器に対する異常なまでの気魄に魅かれていく自分をどうすることもできなかった。一方、千賀と洋三は同じ町に住みながらも、会うことはなかった。たとえ道で逢っても言葉を交わすことなく通りすぎていた。氷い歳月が二人を変えていた。亜木子の結婚式の日取りも決った時、亜木子は三沢の気持ちを知った。激しい亜木子への想いが、三沢の心を乱している、ということを。千賀は、かつて自分が適えられなかった恋を思い、耐え忍ぶのも伊賀の女の性根なら、貫き通すのも伊賀の女の性根だと、亜木子を三沢のもとに走らせるのだった。亜木子の恋を適えてやることによって、自分の生涯の意味を果すかのように、千賀は娘の旅立ちを見守るのだった。