北の宿から
劇場公開日:1976年11月6日
解説
都はるみの同名のヒット歌謡曲の映画化で、みちのくの北の宿を舞台に、三人の女の三様の女ごころの未練を描く。脚本は「パーマネント・ブルー 真夏の恋」のジェームス三木と篠崎好の共同、監督は「はだしの青春」の市村泰一、撮影は「反逆の旅」の小杉正雄がそれぞれ担当。
1976年製作/89分/日本
配給:松竹
劇場公開日:1976年11月6日
ストーリー
高宮純子は、常に自分の生き方を模索する現代女性である。彼女は病院の一人娘として若い医師、有坂を夫に迎えようとする両親から逃れるため、田沢湖への旅に出た。純子が東畑勉と知り合ったのは、旅先の田沢湖であった。純子がハンドバッグを盗まれて無一文となったところを勉は、親切にしてくれた。警察への手配と旅館への送りをした上に、一万円を貸してくれた。純子はその勉の住所を書いたメモを帰京の車中で失くしてしまった。東京に戻った純子は、お金を返すべく、うろ覚えの記憶をたよりに懸命に勉を探し始めた。新聞広告まで出したが、ついに勉は見つからなかった。二ヵ月たったいま、純子は自分の心の中に勉に対する慕情が芽生えつつあるのを知った。更に一ヵ月後、二人は偶然国立競技場の前で再開した。勉は小ざっぱりした背広姿であった。田沢湖で出逢った時の勉の姿からは想像も出来なかった。勉は、ある大学の天文学の研究所に籍をおいていた。翌日、純子は勉のアパートをたずねた。胸はずませる純子の前に現われたのは、意外にも女だった。純子は強い失望と心の傷みを感じたが、その女が勉の妹の玲子と判ってホッとする自分がおかしかった。勉は純子が自分のために東奔西走したことに恐縮し、その行為に言い知れぬ感動を覚えた。純子もまた“星”を語る時の勉に、少年のような純粋さを感じた。星の美しくまたたく夜、二人はぎこちなく結び合った。翌日、勉は純子の父に結婚を申し込んだ。その夜、父の鉄拳はようしゃなく純子の顔面を打った。純子は、激しく降りしきる雨の中を夢中で家を飛び出した。彼女は思い出の田沢湖の北の宿へ旅立った。むろん、勉も後を追って来る手筈になっていた。北の宿には、さまざまな人生を背負った女や男がいた。その一人、宿で働いているすみ子は、出稼ぎに行ったまま帰らない恋人をひたすら待っていた。そしてまた、泊り客の愚連隊風の若い男、マー坊と十七歳の家出少女、リエのあっけらかんとした現代的なカップルに、純子は奇妙な友情を覚えるのだった。純子は、二人のたっての希望で、ただ一人、二人の結婚式に立ち合った。翌日の早暁、マー坊とリエは自動車もろとも朝日のきらめく田沢湖に飛び込んで死んだ。マー坊は、銃砲店を襲った犯人だったのだ。その頃、勉は純子の父から、医者になって純子と結婚し、病院を継いで欲しいと説得された。北の宿に勉がやって来た。勉は医学部に入り直して医者になる決心を純子に告げた。それが純子を愛することだと思った。だが、純子は勉の決心が自分のためとは分っていても、父の財力をあてにし出した勉に幻滅した。二人は寒い北の宿で、夜の更けるまで話し合った。勉は、自分が間違っていたことに強い自己嫌悪を覚えた。翌朝、勉は一片の紙きれにただ一言、さよならと書き残して宿を出た。純子は、勉への愛の未練に耐えて、田沢湖のほとりに一人淋しくたたずんでいた。彼女の美しい瞳から、一筋の涙が流れていた。