華麗なる一族

劇場公開日:

解説

富と権力獲得への手段として、華麗なる閨閥をはりめぐらす万俵一族を主役に、金融界の“聖域”銀行、背後で暗躍する政・財界の黒い欲望を描く。原作は山崎豊子の同名小説。脚本は「戦争と人間 完結篇」の山田信夫、監督も同作の山本薩夫、撮影は「朝やけの詩」の岡崎宏三がそれぞれ担当。

1974年製作/211分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1974年1月26日

ストーリー

志摩半島の英虞湾を臨む志摩観光ホテルのダイニング・ルーム。華やかな正月の盛装の人々の中にあって、群を抜いて際だった一組があった。この一族は、関西の財界にこの人ありと知られている阪神銀行頭取・万俵大介とその家族である。鋭い眼光、端正な銀髪の大介が正面に坐り、妻寧子、家庭教師兼執事の高須相子、長男鉄平と妻早苗、次男銀平、次女二子が大介を中心にして坐っている。年末から新年にかけての四日間をこのホテルで一家揃って過すのが万俵家の長年の慣例であった。金融再編成のニュースが新聞紙上にもとりあげられ、万俵大介の心中は穏やかでない。彼は預金順位全国第十位の阪神銀行を、有利な条件で他行と合併させるべく、長女一子の夫、大蔵省主計局次長美馬中から極秘情報を聞きだした。この閨閥作りを演出しているのは、大介の妻寧子が華族出身の世間知らずであることから、ここ二十年来、子供の教育から万俵家の家計に至るまで全ての実権を握っている高須相子である。阪神銀行本店の貸付課長である次男銀平を、大阪重工社長安田太左衛門の娘万樹子と結婚させたのも、また、恋人のいる次女二子を、佐橋総理大臣の甥と見合させたのも相子の手腕だった。しかも、彼女は大介の愛人として、寧子と一日交替で、大介とベッドを共にしていた。長男の鉄平は、万俵コンツェルンの一翼をになう阪神特殊鋼の専務だが、彼は自社に高炉を建設し、阪神特殊鋼の飛躍的発展を目論み、メインバンクである阪神銀行に融資を頼むが、大介は何故か鉄平に冷淡だった。大介は、彼の父敬介に容貌も性格も似た鉄平が、嫁いで間もない頃の寧子を敬介が犯した時の子供だと思い続けているのだ。鉄平は高炉建設資金、二百五十億の内、五十億を自己資金、残りの四十パーセントを阪神銀行に、三十パーセントをサブパンクである大同銀行、三十パーセントをその他の金融機関に頼むつもりだったが、大介は融資額を三十パーセントにダウンしてきた。激怒した鉄平に大介は「融資に親も子もない。経営者としてのお前の考えは甘すぎる」と冷たく云い放った。だが、鉄平に好意を寄せる大同銀行三雲頭取の計らいと、妻早苗の父で自由党の大川一郎の口ききで遂に念願の高炉建設にとりかかれた。しかし、完成を間近に、突然高炉が爆発、死傷者多数という大惨事が勃発した。さらに鉄平を驚愕させる事実が三雲頭取から知らされた。阪神銀行の融資は見せかけ融資だ、と云うのである……。大同銀行は阪神特殊鋼への不正融資を衆議院の大蔵委員会で追求され、三雲頭取は失脚した。そして、多額の負債をかかえた阪神特殊鋼は、会社更生法の適用を受けざるを得なかった。事実上の破産である。妻子を実家へ帰した鉄平は、愛用の銃を手に雪山で壮烈な自殺を遂げた。皮肉にも死んだ鉄平の血液型から、彼は大介の実子だったことが判明した。一方、二子は、総理の甥との婚約を自ら破棄して、アメリカにいる恋人、一之瀬四四彦のもとに飛んだ。大介の筋書通り、阪神銀行は上位行の大同銀行を吸収合併し、新たに業界ランク第五位の東洋銀行が誕生、大介が新頭取に就任した。小が大を喰う銀行合併劇を、あらゆる犠牲を払って実現させた万俵大介の得意満面の笑顔……。しかし、その背後には、さすがの大介の考えも及ばぬ第二幕が静かに暗転していった。--それは、永田大蔵大臣が、東洋銀行を上位四行の内の五菱銀行と合併させるべく美馬中に秘かに命じていたのだった……。

全文を読む(ネタバレを含む場合あり)

スタッフ・キャスト

全てのスタッフ・キャストを見る

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む

映画レビュー

5.0本作のような綿密な取材に基づいた経済ドラマや映画はもっと観たいですね。

2024年10月27日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

知的

神保町シアターさんの特集企画『生誕百年記念 小説家・山崎豊子 華麗なる映画たち』(2024年10月12日(土)~11月1日(金))もいよいよ最終週。
本日は『華麗なる一族』(1974)を鑑賞。

『華麗なる一族』(1974)
山崎豊子氏原作の映画化7作目。
監督は『白い巨塔』(1966)に続き山本薩夫監督。

211分にもおよぶ長編作ですが、関西有数の都市銀行のオーナー頭取が業界再編・合併に抗い権謀術数をめぐらす経済ドラマの緊迫感、一族発展のための閨閥(政略結婚)、その家族たちの愛憎劇のストーリー構成がとにかく見事。固唾を飲みながらアッという間の3時間半でしたね。

小説の連載が1970年3月~1972年10月。現実では1971年に第一銀行と日本勧業銀行が合併したぐらいで、それから1990年の太陽神戸三井銀行合併まで17年間都銀13行体制が維持されたことを考えると、氏の先見性、慧眼には驚きますね。ましてや「小が大を飲む」ジャイアントキリングを図るために、自身の関連会社、子息も利用するところも実に面白いです。
家族の愛憎劇も「ぼんち」「女系家族」などの氏の作品を見続けると大阪船場商人話を大きく発展、飛躍させていることがうかがえますね。2007年日曜劇場でドラマ化、こちらも高視聴率を獲得しましたが納得ですね。

キャストは長男・鉄平役の仲代達矢氏の重厚な演技は安定と安心感がありますが、ベテラン佐分利信氏が自社発展に執着する鉄平の父大介・頭取役を老獪に演じており、氏の代表作と言っても過言ではないでしょう。
また一族に潜り込んだ執事兼大介の妾相子役の京マチ子氏。豊満な肉体とあいまって実に風格、たたずまいがリアルでしたね。
田宮二郎氏の『白い巨塔』財前五郎とも通じる手段を択ばない知性ある悪役、大蔵大臣役の小沢栄太郎氏、大同銀行専務役の西村晃氏も本作品でもお見事でした。

本作のような綿密な取材に基づいた経済ドラマや映画はもっと観たいですね。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
矢萩久登

4.0とうさん反対

2024年10月1日
Androidアプリから投稿

仲代達矢、西村晃の演技に見惚れた。もうたまらなかった。印象的だったのは、西村晃演じる綿貫専務が電車でバナナを頬張ってから缶ビールで流し込むシーンで、(人柄を表わしているのだけど)ひでえ取り合わせだ、と思わず笑った。

物語終盤でのクラブの音楽、エンドロールの音楽がとても心地良かった。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
抹茶

4.0因果応報

2024年8月25日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

もし阪神特殊鋼の突貫工事が完遂されていたら、物語の展開は大きく変わっていただろう。
もし鉄平の血液型がAではなくBだとわかっていたら話の展開も変わっていて大同銀行との合併もなかったであろう。
そうすれば高須愛子もクビにならずに済んだものを。
この映画には数多のIFが存在する。そこに欲望と情熱と嫉妬が綯交ぜになって展開され、そこがまさに妙味と言える。
結果、この華麗なる一族は崩壊への道を辿る。得たものの代償はあまりにも大きい。

コメントする (0件)
共感した! 1件)
ちゆう

5.0ラストシーンのパーティー会場での銃声 あれは誰が、誰を撃ったのでしょうか?

2020年2月12日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

物語の面白さ、巧みさは原作山崎豊子の原作によるものです
本作はその小説の世界の正に映像化そのものに意味があったと思います
恐ろしくリアルで如何に徹底的に取材して撮影したのかが伺えます

昨今ある事件から、上級国民という言葉が流行しています
本作はその上級国民の世界を垣間見せてくれるのです
上級国民からは程遠い自分でも仕事などでその一端をちらりと覗いてきたこともあります
その限られた経験ですが、余りにもリアルです
リアル過ぎるほどです
議員会館の部屋の内部、上級国民の屋敷の暮らし、取締役会、ホテルでの大パーティーの有り様は特にのけぞるほどリアルでした

ラストシーンのパーティー会場での銃声
あれは誰が、誰を撃ったのでしょうか?
あの銃声こそ、山本薩夫監督の本作における主張だったのだと思います
あの銃声こそが、映画としての本作のテーマなのです

あの銃声は、私達一般国民の観客が、あのパーティー会場に集まった上級国民に向けて撃った銃声だったのです

山本薩夫監督的に、あるいは社会主義思想的に表現するならば、

人民を搾取して虐げ、一般国民の苦しみなぞには少しの関心も持たない資本家と保守政治家たち
この互いに癒着して腐敗している呆れはてた連中に、怒れる私達一般国民の観客が、心の中で彼らに銃口を向けて、彼らを断罪する銃弾を撃ったのだ

連鎖倒産する中小企業の人々、解雇されたり給与引き下げされた人々、あの工場で赤旗を振ってシュプレヒコールを繰り返した労働者たち
その彼らの銃弾なのだ

こういうことなのだと思います
つまり観客に社会主義革命をなせ!との監督の扇動なのです

35年振りに東宝に戻って撮影した作品の最後の最後にたった一発の銃声を入れることで、監督は自分の撮りたい映画にしてみせたのです

コメントする (0件)
共感した! 1件)
あき240