影の車

劇場公開日:

解説

松本清張の同名原作を清張文学の映画化では定評のある橋本忍と野村芳太郎のコンビが日常性の奥に潜む恐怖を描いた作品。撮影は野村監督と名コンビぶりを発揮してきた川又昂が担当。また、この作品では従来、映画では不可能とされていたカラーの分解処理〔多層分解〕が試みられている。

1970年製作/98分/日本
原題または英題:The Shadow Within
配給:松竹
劇場公開日:1970年6月6日

あらすじ

浜島幸雄はある日、幼馴染の小磯泰子の呼びかけにふりかえった。この偶然こそ、平凡な男の生涯を根底からゆさぶる運命の声であった。浜島は旅行案内所に勤続十二年の係長で妻の啓子は万事に社交好きで陽気である。毎日が会社と団地の往復、生活も仕事も単調で味気ない浜島は、泰子に会って同じバスに乗っただけで軽い興奮があった。二度目に泰子に会った時、すすめられるままに泰子の家を訪ねた。四年前に夫に死なれた泰子は六歳の健一と二人暮し。保険の集金と勧誘でつつましい生活だ。健一は父親がないためか、孤独癖のある無口な子供だった。夢多き思春期の共通の追憶に話がはずみ、浜島の泰子への傾斜は急ピッチであった。やがて、狭い泰子の家では、健一の眼が浜島には苦手な存在になった。だが、自然の成り行きで二人は結ばれた。初夜のように白無垢の長襦袢で浜島を迎えた泰子がいじらしかった。浜島は健一を手なづけようと、心をくだいたが、その都度失敗した。浜島にも幼い日に夫を失った母と伯父との間に立たされた忘れ得ぬ記憶があったから健一の反感が必要以上に応えた。そして、健一が自分を殺そうとしている突飛な幻想に悩まされはじめた。一度は妻と別れて泰子と結婚しようと決心しながら、健一のことを考えるとまた泰子を諦らめようかと思い迷った。空閨を癒やされた泰子は啓子への後ろめたさも、浜島を見る健一の白い目にも心を向けず、ひたすら愛欲の歓びに溺れた。紅葉のころ、浜島苦心のドライブ旅行も小さな健一の本能的な男性にはね返されてしまった。浜島は再び幻影の虜になった。宿命というには、余りにも似かよった浜島自身の幼年期の体験。あの時のように俺は健一に殺される。泰子は浜島のノイローゼを満ちたりた笑いで一蹴した。しかし、おそるべき運命の符合は、悪魔のいたずらか、結末が逆になった。浜島が健一の首をしめてしまったのだ。浜島は六歳の子供である健一が鉈をふりかざして、浜島に迫った殺意を信じている。たとえ世間のすべての人が否定しようとも、かつて六歳の浜島が自覚した殺意の衝動、憎悪の瞬間を事実として告白し、一生叫びつづけなければならないのだ。

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映画レビュー

3.0子供の排除的行動の変遷に、男性の不安感・恐怖感を徐々に盛り上げる一貫性が欠けた印象が…

2025年3月14日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

「張込み」「ゼロの焦点」「砂の器」等の
監督野村芳太郎と脚本橋本忍コンビの
作品の一つで、
山田洋次、山本薩夫、黒澤明の話題作が
キネマ旬報でワンツースリーだった年に
第7位に選出されていた。

今回、まず印象的だったのが、
岩下志麻の艶っぽさ。
代役のシーンが無くとも
変わらなかったであろう、
男性の私には穏やかではない
艶めかしい彼女の演技には大変驚かされた。

そして、自分のことと置き換えた場合、
妻に関心をもたれることが無い日常の中で、
偶然出会った学生仲間が
優しい未亡人だったら、
多分同じ道をたどるかも知れないと
思わざるを得なかった。
しかし、問題はその継続性で、
一般論としては、妻との関係を清算しない
中での未亡人宅への通いは、
子供との問題が無かったとしても、
いずれ破綻の道を歩まざるを得なかった
と思われるので、
果たして自分だったら、とも。

さて、この映画への評価だが、
松本清張の原作は未読なものの、
短編を膨らませた結果なのか、
子供の、通ってくる男性への排除的行動
の変遷が長過ぎると共に繰り返し感が強く、
男性の不安感・恐怖感を
徐々に盛り上げる一貫性が欠けた印象
を受けてしまったのは、
野村+橋本コンビ作品としては
少し残念に思える再鑑賞となった。

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KENZO一級建築士事務所

3.5不倫の沼に落ちゆく2人。昭和の映像が雰囲気漂う。志麻姐さんの濡れ演...

2025年2月8日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

不倫の沼に落ちゆく2人。昭和の映像が雰囲気漂う。志麻姐さんの濡れ演がソワソワさせる。
いったいこの不倫はいつ露見するのか?ドキドキしながら見たがそこが肝ではなかった。さすがは松本清張、話が深い。ネタバレ的なポスター等は見ない方が楽しめます。
実験的な映像など随所で楽しめた。
BS松竹東急ノーカット

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はむひろみ

3.0まんじゅうこわい

2025年2月4日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

怖い

松本清張原作、野村芳太郎監督、加藤剛主演。砂の器の4年前の1970年公開映画。
新宿西口ロータリー、大規模団地、ニッサンスカイラインのレンタカー、スキー場など昭和の時代の生保レディと旅行代理店社員の道ならぬ恋。過去の記憶の映像がテクスチャー加工風。当時の新しい技術だったらしい。幼少時の母親役が岩崎加根子。生保レディの岩下志麻のワンピース姿🤩
コンコルド、三億円事件、ポランスキー監督のシャロン・ストーン事件も何気なく出てくる。
家の中にネズミが出てくるたびに「うわっ」てなってしまう。CGじゃなくて本物。殺鼠剤入りまんじゅう怖い。あの子役の男の子がとても不気味。おかあさんが毎晩知らないオジサンにいぢめられているから、仇とってやったんだね。

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カールⅢ世

3.01970年の映像資料

2025年1月18日
Androidアプリから投稿

「滞在光景」という短編小説が原作のようで「影の車」は短編集のタイトルのようですね。何か意味がある言葉ではないようです。
今見たらまず1970年当時の貴重な映像としての見応えがありました。千葉県千倉の回想シーンは映像加工されており当時は画期的だったのかもしれませんが見づらいし、今となっては貴重な当時の未加工の映像がみたいです。

東京郊外が荒野のようになっておりその中でマンモス団地が立ち並んでいたり、野山の一軒家があったり、当時の車や家電のデザインが可愛かったり映像を見るだけで楽しい。
団地の暮らしが最先端だったのでしょうが今見たら自然豊かな古民家の方が憧れるな。

ストーリーは身勝手な男女が子どもや妻を苦しめたというだけのものに見えました。

昔の子役は棒読みが多いようでケンちゃんも例外ではなく迫力はなく。山中車に置き去りにされるケンちゃん気の毒でした。昔は子どもを野放しすること多かったけど崖から落ちたり遭難したりしたらどうするのか。そして怒らず寝てたフリをしちゃうのが子ども特有でまた辛い。

妻はアートフラワーの講師でかなりアクティブで夫の話は聞いておらず休日も生徒が家に入り浸るでは不満が募るとしてもその不満を妻に伝えることはなく。

岩下志麻さん演じる小磯泰子は幻の存在みたい。幼なじみの男性と再会したからと相手が既婚でも自分に子どもいても当然のように家にあげる。憧れの幼なじみと再会した!ならまだ分かるけど説明なし。
夫に死なれ息子抱えた保険外交員の大変さはあまり感じられず悠々とした態度。人がいない野山に住み日頃息子がひとりぼっちでネズミしか遊び相手がいなくても気にしてない。情事を息子に見られることも気にしてない。シュールだし主人公は実はキツネに化かされてるのでは?と思えたほど。

話はなかなか進まずもう少し展開あったらよかったなと。ケンちゃんは主人公に恨みはあっても、ナタは朝のルーティンをこなそうとしてただけだった可能性も。とりあえずトラウマ決定な感じ。

結論としては「6歳の男の子には殺意がある。母の男を殺したいほど憎む」でよかったのでしょうか?
自分に同じ経験あるなら「子どもがいる女性と付き合うと子どもが苦しむからやめよう」とはならなかったのか?
加藤剛さんの演技力は素晴らしいが映画館に観に行くにはちょっとどうかなと思わせる。2時間ドラマならいいかなという感じでした。

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ららら