女が階段を上る時

劇場公開日:

解説

「日本誕生」の共同執筆者・菊島隆三が自らのシナリオをプロデュースする第一回作品で、バーのマダムの生活の表裏を描いたもの。高峰秀子が主演の他に衣裳も担当している。「コタンの口笛」の成瀬巳喜男が監督し、「顔役と爆弾娘」の玉井正夫が撮影した。パースペクタ・ステレオフォニック・サウンド。

1960年製作/111分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1960年1月15日

あらすじ

圭子はバー“ライラック”の雇われマダムである。ある日、外国人のマスターに呼ばれ売上げの減ったことを責められた。経済研究所長という肩書を持つ高級利権屋の美濃部が最近店に寄りつかなくなったこと、その美濃部が以前圭子の下で働いていたユリに店を持たせていること、圭子はすべてを知っていた。マスターから暗にユリのように体を張れと言われた。夫に死なれて、女手一つで生きていかなければならなくなった圭子が、マネジャーの小松の口ききでこの道に入ったのは五年前であった。圭子は、バーの階段を上る時が一番悲しかった。しかし、上ってしまえばその日その日の風が吹いた。美濃部が現われ、ユリの店へ案内した。店は繁昌していた。ユリが席をはずした隙に、美濃部は圭子をゴルフに誘った。--圭子は店を変えた。小松と、女給の純子がいっしょについて来た。関西実業家の郷田が、店を持たせるからと圭子に迫った。彼女は上客に奉賀帳を回して十万、二十万と借りて店を持つことを決心した。小松もいっしょに貸店を探して歩いた。--ユリが狂言自殺をするつもりで誤って本当に死んでしまった。葬儀の席で、美濃部が貸金の返済を執拗に迫っていた。圭子はそ知らぬ顔で現れた美濃部にくってかかった。圭子は酒と興奮のためか血を吐いて倒れた。胃潰瘍だった。佃島の実家で、クリスマスと正月を過したが、七草が過ぎるともう寝てもいられなかった。おかみのまつ子が集金の催促に現われ、兄からは息子の小児マヒを手術する金を無心されたのだ。圭子はまた階段を上った。プレス工場主の関根の誠意だけが身にしみた。いつか奉賀帳を回した時も、気持よく十万円出すことを約束してくれた。圭子はプレス工場のおかみさんにでも喜んでなろうと、関根に抱かれた。やっと幸せが来たのだと思った。しかし、関根は二度と現われなかった。圭子は酒におぼれた。銀行支店長の藤崎と一夜を過してしまった。が、藤崎は翌日大阪の支店へ転勤になると言いながら、十万円の株券を置いて去った。小松が入れちがいに入って来て、圭子の頬を打った。彼女は小松のいっしょになってくれという言葉を空虚な思いで聞いた。--圭子は試練に耐えて生きていかなければならない。新しい明日をめざして、今日もバーの階段を上って行った。

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映画レビュー

4.0元締めが儲かる仕組み

2025年3月26日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

難しい

全編を貫くクールな音楽(黛敏郎)は夜の銀座を表しながらそこで働く女達を冷たく突き放しているようで背中がひんやりしてむごいと思った。それと対照的だったのが主人公演じる高峰秀子のナレーション、温かみのある声ですぐ彼女とわかる。そのナレーションがなくなったのはどの箇所からだったろう?思い出せない。

バーのママは合わないと客からも客の妻からも言われる清子(高峰秀子)。でも最後は心機一転なのか明るい顔で勤め先のバーのある二階へ向かって階段を上って行く。

いろんな理由で水商売に入る女達。奮闘していい客つかまえ、世話になったママの客も頂いて自分の店を持つことを夢見る女達。体をはって商売に励んでも、清廉潔白や品の良さが尊ばれる世界ではない。結局借金まみれになって責められ苦しみ逃げる先が死の場合もある。儲けているのは元締めだけ、遊んでいい思いをして何一つ傷を被らず貸したお金を回収するのは客。

女は身と心を削って男の客を喜ばせ、女と客は騙し合いの疑似恋愛ごっこ、結局損をして傷つくのは女ってなんなんだと思う。男が「仕事」と「経済」を専有しているからだ。女は結婚して妻になるのが一番という考えが信仰されているからだ。

高峰秀子の着物セレクトが圭子ママの個性をよく表していてとても素敵だった。東京の女に合うのは縞柄だ。30歳で地味なあの柄の着物。今の銀座だったら(知らないけれど)有り得ないだろう。それがバーという水商売への批判になっていたと思う。

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talisman

4.0夜の社交場をクールにみせる。音響効果が素晴らしい。

2025年1月17日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

故相米慎二が日本映画のオールタイムベスト3のうち一本として挙げた作品である。成瀬巳喜男の作品であれば「浮雲」か「めし」あたりを挙げるかと思いきや「浮雲」と同じく高峰秀子と森雅之が主役を演じた本作を持ってきた。稀代の見巧者だった相米慎二の鑑賞眼の確かさには呻らざるを得ない。
勘定貸しによる高価な遊興費設定、資本と経営の分離、ママを頂点にした店内ヒエラルキーの設定、いずれも見事なまでに洗練された銀座のシステムを背景にして男女の騙し合いの姿をクールに描いた傑作である。脚本、演出、撮影すべてが秀逸であり、もちろん高峰秀子の演技、身のこなしの素晴らしさは言うまでもない。ただ私としてはこの映画の音響技術を特筆すべき要素として挙げておきたい。音楽は黛敏郎であり明らかにこの2年前に製作されたフランス映画「死刑台のエレベーター」の影響をみて取ることができる。ただこの作品で採用されているパースペクタ・ステレオシステムでは現在のフルステレオとは異なり同時に複数の音をステレオ音声にすることはできなかった。だからセリフは簡潔に、効果音は少なめに、そして劇伴はエモーショナルに、それぞれを組み合わせて各シーンの優先すべき音が選ばれて鮮やかに構成されている。このこと一つだけでも劇場で観る価値のある作品である。

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あんちゃん

3.5狂言自殺

2025年1月11日
PCから投稿

仕事仲間の狂言自殺
そして本当に死んでしまった女の存在が、
主人公に深い影を落とす。

しかし、最後には
生き続けようとする、強かな女の姿が潔くてよかった。

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JYARI

タイトルを見ただけで広がる世界

2025年1月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

もう、このタイトルをだけで物語世界が一気に広がり、このポスターを見ると奥行きが広がり、観ない訳には行かない気にさせる。銀座のバーの雇われママが抱く意地と遣る瀬無さが高峰秀子さんの艶っぽい眼差しから滲み出る。

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La Strada