青べか物語

劇場公開日:

解説

文芸春秋連載山本周五郎原作から「斬る(1962)」の新藤兼人が脚色、「花影」の川島雄三が監督した風俗喜劇。撮影もコンビの岡崎宏三。

1962年製作/100分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1962年6月28日

ストーリー

東京都と千葉県の境を流れる江戸川の河口に、貝と海苔と釣場で有名な浦粕集落がある。ある日、「先生」と呼ばれる三文文士がやってきたが、プリプリ張り切った若い女の肢態に眼をうばわれ、当分の居を増さんの家の二階にきめた。楽しい刺戟の中でケッサクをものそうというわけだ。先生は見知らぬ老人から、青べか舟を売りつけられた。ところで先生の観察によれば、ここは他人の女房と寝るぐらいのことは珍しくなく、動物的本能が公然と罷り通っている大変なところである。町にはごったく屋という小料理屋が多い。その中の一軒、「澄川」に威勢のいいおせい、おきん、おかつの三人が働いている。先生の眼を惹いたのはおせいであった。「澄川」の真ン前にみその洋品雑貨店があり、ドラ息子の花嫁は里帰りしたまま戻ってこない。べか舟を先生に売りつけた芳爺、消防署長わに久、天ぷら屋の勘六夫婦などが五郎は不能らしいと、噂をふりまいた。だが、孤独な生活を楽しんでいる老人もいる。廃船になった蒸気船に寝泊りしている老船長がそれだ。彼は若き日のロマンスを想いうかべることによってのみ生き甲斐を感じているかのようである。飲み屋の連中のさわぎ、バクチ場で血相変えてわめく連中、さまざまな人間模様に興味を感じながらも、煩わしさを避けて先生は青べか舟で釣りに出かける。そんな先生に思いがけない事件が起きた。ごったく屋のおせいが、先生に惚れたのである。せつない気持でいい寄られた先生は眼を白黒。失恋のおせいは、腹いせに偽装心中を図った。とんでもない騒ぎに巻き込まれた先生は、ほうほうの態で浦粕集落を逃げ出した。そのころ、五郎に新しい花嫁がきた。今度は不能だなどと陰口も叩かれず、幸福な生活に入れるらしい。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

3.0千葉県浦粕を舞台にした群像劇

2022年12月18日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

大好きな川島雄三監督の未見作、ようやく鑑賞。
本作は、原作が山本周五郎、脚本が新藤兼人。当時の東宝が、かなり力を入れて作り出したと思われる総天然色作品。

現在の浦安(劇中では浦粕)を舞台にした群像劇で、喜劇もあれば悲劇的な出来事も綴られるが、全体的にはホッコラする温かみのある映画となっている。

物語は、東京から千葉県浦粕にやって来た“先生”(森繫久弥…本作の表記)は文筆業の男で、町に入った途端に「青べか」という小舟を買わされる。
浦粕の町で起こる様々な出来事を見る“先生”だが、この先生はそうした出来事を客観的に見ている傍観者の立ち位置を崩さない。
彼が左幸子に惚れられても、足が悪い乙羽信子と献身的な夫=山茶花究との連れ合うエピソードを聞いても、左卜全の若かりし頃の恋物語を聞いても、先生はやはり傍観者。

森繫久弥に次ぐ準主演のような存在がフランキー堺なのだが、彼は(特別出演)とのことだが、かなり出番が多い(笑)
また、フランキー堺は川島雄三監督作品には欠かせない俳優なので、毎度の存在感。

エピソードの中でも印象的だったのは、「“みその”の上りがおっ立つか?」というあたりの笑える場面、そして左卜全の恋愛相手が桜井浩子だったことだろうか…。

東宝としては、喜劇映画として宣伝していた様子は予告編でも見られるが、やや滑り気味の喜劇に見えた。
確かに観終わった後、楽しい雰囲気が残るのだが、微妙だった感じも残る。
黒澤明監督が山本周五郎原作「季節のない街」を映画化した『どですかでん』よりは、力抜けた感じが良かったとは思う。

それなりに楽しめる映画ではあったが、過大な期待は禁物。
現在では見られない東京湾の風景が見られるのは良かった。

<映倫No.12802>

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たいちぃ

4.0完全版ではないが

2021年8月17日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

たしか30年以上前テレビで放映されていた。
初めてこの映画を知り圧倒された記憶がある。その時には原作にある「saseko」の話もあった。今回、長い年月を経ようやくてDVDが発売されたが、DVDに(あるいはVHS化)するにあたって永らく地元の人には浦安とその周辺の描き方に根強い反発や忌避感があったというから、そこへの配慮としてカットされたものと思う。
また映画では戦後の高度成長期までの間のこととして描かれているが原作は戦前が舞台。

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昭和の残響

2.0土着の画ヅラ

2019年11月15日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

これ戦後なの?と思わせる画ヅラ。土着の連中にまみれて警察官が浮いており(おそらく意図的に浮かしている)カラー映画であることがむしろ不思議だった。東野英治郎の土臭さがハマる。

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さすまー

1.5予言的なロケ

2016年9月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

悲しい

 夢と魔法の国がまだ影も形もない頃の浦安が物語の舞台であり、ロケも現地で行っている。
 語り手の「先生」が間借りをするのは堀江の辺りで、そこからの江戸川の眺めが意外にも現在とあまり変わらない。もちろん夢のお城や対岸の工場、妙見島のラブホテルなどはないのだが、すでに河岸はコンクリートで塗り固められ、今とほぼ変わらぬ位置に浦安橋が架かっている。
 しかし、現在は暗渠となっている小さな水路が多数あり、そこに夥しいべか船が浮いている風景は現在では完全に失われている。今なら駅前に並ぶ自転車といったところであろう、べか船は当時の住民の生活の足なのだ。
 印象的なのは、底に穴の開いた青いべか船を売りつける東野英二郎が、「イカヅチの職人に頼めば修理してくれる」というシーン。雷(イカヅチ)は現在の江戸川区東葛西。今でも都バスの停留所名として残っている地名である。船の修理をわざわざ川向こうの業者に頼むことが、浦安・葛西が一つの生活経済圏であったことを感じさせる。
 いま堀江には小さいながらもドックがある。地元に船の修理工場があるはずなのになぜ対岸で修理をするのか。というちょっとした疑問は、「先生」の仮住まい周辺のロケショットによって解消される。この当時は堀江ドックはなかったのだ。
 高度成長期に入った東京からほんの10キロほどの河口の漁村で、いま猛烈な勢いの開発が始まろうとしている。ここに生きる人々も、干潟の風景も、海苔や蛤に基づいた経済も、この開発にあっという間にのみ込まれてしまう。後に残るのは、「先生」が具合を悪くして出てきた東京と同じような街である。
 このテーマは川島雄三監督の傑作「洲崎パラダイス 赤信号」と共通しており、そのことを示すショットも、始まりと終わりが浦安橋/勝鬨橋であるということと、列をなして橋を通過するダンプで共通している。
 この作品の一年後に監督は亡くなっている。この後の大変貌を予見して浦安を映像に残したかのような作品である。

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佐分 利信

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