25年前に作られた大林宣彦監督の『転校生』のセルフリメイク。と、最初は固定観念のもちつつ鑑賞しました。舞台は尾道から信州に変わり、斉藤一夫も斉藤一美もそれぞれ付き合ってる彼女・彼氏がいる。男女二組という大胆な設定変更によっても基本ストーリーは変わらないんじゃないか、最後にはほのぼのとした青春ファンタジーに戻って安心させてくれるんじゃないか・・・などと、余裕で構えていたのですが、ガツンと・・・きました。
信州の人から50年後の子供たちにも見せる映画を作ってほしいと依頼された大林監督。しかし、50年後に日本はどう変わっているかわからない。戦争の世紀でもあった20世紀が繰り返されることはないなどと、誰が断言できようか・・・世が平和であり、命を大切にしなければ決して観ることもできない映画。そんなスタッフの願いもひしひしと感じられる内容でした。
キルケゴールの哲学書『死に至る病』や「僕は君のためにこそ死ねる」というキーワードによって、小難しさをも感じてしまいましたが、少なからず後半部分への伏線となっていることも確か。なぜこんな言葉を引用するのかと、斜め映像とともに首を傾げていたのですが、終盤にはきっちりと解決します(窪塚俊介の言葉とともに)。心と体、男と女、そして生と死の入れ替わり。プロットそのものの面白さや脇役陣の面白さ。そして大林ファンを充分に楽しませてくれるカットなど、オリジナルとは違った魅力満載です。
斜め映像・・・坂道の多い尾道作品を意識したものなのか?などとも考えてしまうし、観客に不快感を与えながら、入れ替わった主人公の不安感を映像化したものなのか?とも考えてしまいます。ところが、白いピアノを弾く斉藤一美(蓮佛美沙子)のシーン(ここ最高!)のアングルが絶妙に合ってくるんです。不安だらけだった斜め世界が優しさに満ち溢れる瞬間でもありました。大人への過渡期に、奇異な体験を通して人の愛と優しさに触れた少年の物語。単なるリメイクじゃないところが素晴らしかった。
〈2007年9月金沢映画祭にて、トークショー付き〉