ツァイ・ミンリャンの映画力は健在。ラストには幻想的なシーンもゆったりと流れ、どっぷりと映像美に惹かれるのだが・・・
登場人物の顔のアップがほとんどない前半。シャオカン(カンション)なのかどうかもわからない人物。まだそんなに元気じゃなかろうに・・・などと、最初のチンピラかと勘違いしてしまった。あらすじを先に読んでたらわかったろうに、映像だけでは無理じゃないかと感じます。
ロングショットの多用と、長いワンカットはヨーロッパ的で、情感たっぷりなのです。傷ついたシャオカンを手厚く看護する若者。この青年ラワン(アトン)はかなり男前で、行動から察するとゲイっぽい気もしたのですが、どこまで愛情を注いでいたのかは不明。とにかくずっと一つのマットレスの上に蚊帳を降ろし、二人で寝て過ごしていたのだから、直接的ではないにしろ、そのケはあったはず。
嫉妬心だったのか、単にそのベッドを汚されたと感じたからなのか、若い女性の存在が障害となってしまう。エロチックなシーンも満載だし、強制された性と自由な性とが対照的でもありました。ただ、引越しとか、毛布に包んで人を運ぶシーンとか、わけのわからないコントラストもあったりして、頭をひねってしまいます。
台詞も少ないし、説明調の部分もほとんどない。煙霧という気象現象が幻想的ならよかったのに、単なる光化学スモッグのような公害でしかなかったのも痛い。廃墟と化したビルの水溜まりにしても、洪水によるものなのか、水道管が破裂したものなのかもわからないし・・・
【2007年6月映画館にて】