第3逃亡者
劇場公開日 1977年
解説
犯人の汚名を着せられた男が、チャーミングな女性の手を借り共に真犯人を探す、ヒッチコックお得意のサスペンスムービー。映画女優が浜辺で死体となって見つかる。凶器のベルトなどから第1発見者であるロバートが疑われるが、彼は無実を証明しようと逃亡を謀る。ロバートを助けるエリカ役は、ヒッチコック1934年の作品「暗殺者の家」で娘役を演じたノバ・ピルブーム。原題の「若さと無邪気」が意味する通り、彼女の成長と信頼の強さも描かれている。
1937年製作/84分/イギリス
原題:Young and Innocent
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まず何といってもこの作品は脚本が優れている。犯人と間違われる主人公から始まり(それはその後ヒッチコックのパターンになる)その主人公に関わる第二の主人公との出会い、第一の主人公と第二の主人公に主人公が入れ替わっていく流れのうまさ。ミステリーそのものは無実の証拠となるコートを探しに行くただそれだけに留め、主人公の心の移り変わりに重点を置いた作劇となっている。また主人公がピンチに陥る場面が散りばめられ最初から最後まで退屈することがない。主人公が追い詰められるシーンと言うと兎角警察や真犯人に取り囲まれるシーンにばかりなりがちだがヒッチコックは一味違う。一見すると大したピンチではなく、強引に振り切れば簡単に逃げ切れそうなシチュエーションに見えて実はそれができず、余裕がありそうで実は追い詰められている。ヒッチコックはそういうのが好みでこの後色々な映画で、そういうシチュエーションを取り入れているがこの映画のシーンが一番決まっている。
この映画を面白くしているのは脚本のほかに、主人公がいかにも純情そうでシチュエーションにハマる役にピッタリ合っている。顔つきは目が離れていてでこが広くてスタイルがよく、後のグレイス・ケリーを彷彿とさせる。
さていよいよ本題に入ろう。この映画が始まってすぐに思ったことは、「あ、ピンボケしている」であって、残念ながら最後までピンボケしている。次に気が付いたのは固定カメラの多さだ。ヒッチコックはカメラを動かすのが好きな監督で、実にカメラをぐるぐる回すシーンが多い。がこの映画は、待てど暮らせどカメラが動かない。たまに控えめにパンする程度だ。私はこの映画がヒッチコックの初期作品
だから、そうなのかと思いつつ見ていた。そしてクライマックスに来て遂に、その意図に驚かされるのである。「あ、それクレーンのことですね?」あなたはそう言うだろう。しかし私はあえて違うと言ってみたい。それまで固定カメラを使っていた効果が出ているのは、主人公がホテルのコンサートホールに入って行くシーンである。ここで初めてカメラが本格的に動くのだ。カメラが主人公フォローする。ただ普通に歩いている速度であるにも関わらずこの移動の効果は絶大だ。「キタキタキタキター!!クライマックスにキター!」という雰囲気が出るのである。その後、例のクレーン撮影となる。ここで重要なのはまばたきだ。我々はどの男が瞬きをするのか、息を呑んで見ている。カメラがやがて一人の男を捉える。まばたきしない。バストアップになる。まだしない。クロスアップになる。まだしない。この男ではないのか?犯人はここにはいないのか…。遂に目のクロスアップになる。まだしない…と,思った次の瞬間!
この作品は何もかも上手くいっている。ヒッチコック会心の作品であると思う。ただ最後に残念な点にも触れておかなければならない。それはラストの主人公のクロスアップだ。ここでは最高に可愛く撮ってあげなければならないのだが、可哀相に老け顔になってしまっている。多分撮影が過密スケジュールだったのだろう。
2019年2月18日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
スタイルが確立されていて、現代の目から遡って観るとあたかも構成要素を嵌め込み式にして製作されたかのように感じてしまうほど典型的な作品
実質的な主人公は署長の娘エリカ
無実の罪で追われるロバートは狂言回しに過ぎない
エリカ役の女優が初々しく処女性を発散している上に知的で細く美しい
正にヒッチコックが好む女優の典型
彼女の母はほとんど登場せず、中年体型の叔母さんは長く映すことによってエリカをより美しく若く細いことを対比で際立たせてみせる
しかも彼女は身長が低く庇護を与えたい欲求を喚起するような配役だ
そこに勇敢な飼い犬を彼女に寄り添わせて、彼女の冒険の勇気に説得力を添えている
題名の第三逃亡者とは
ロバートとエリカ、そして三人目の真犯人を指す
だが、原題の「若さと無邪気」の方がお話の内容を的確に表現していると思える
戦前の日本の宣伝マンはそれよりもサスペンスを訴求したかったのだろう
終盤のグランホテルのロビーからレストランまでをクレーン撮影で俯瞰して真犯人の居場所を登場人物より先に観客に提示する手法は見事なシーン
全体から核心に一気に近付いていくショットは、その後のヒッチコック作品でも多用されていく
レストランで演奏するバンドメンバーが黒人を模して顔を黒く、口の周りを赤く塗っている
現代では人種差別だと糾弾されるメイクだ
この時代は何も問題意識がなかった
しかし現代の目からこの映像をみると、やはり漫画的にデフォルメしてあり無意識の差別意識が働いていると言われてもしかたが無いことがわかる
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