マルホランド・ドライブ : インタビュー
デビッド・リンチ直撃インタビュー
そう。ハリウッドでは何でも起こり得るのさ!
――ショッキングな結末でした。特に、純情な女優の卵だと思ってたベティの正体が暴かれるのは。
「結末を書き上げるとすぐに、ナオミを呼んで読んで聞かせた。驚いてたけど、『あたしもなんとなく気づいてました』と言ってくれた。何事にも裏面、ダークサイドがあるということだよ」
――彼女はこの衝撃的な演技で数々の主演女優賞にノミネートされましたね。
「彼女はジャックポットを引き当てた。ラスベガスと同じさ。ハリウッドは夢工場とか夢の街と言われているけど、一握りの成功者の背後には数え切れないほど、チャンスを掴めずに終わっていく人々がいるんだ」
――そんな不幸な女優志願の1人を演じてナオミは幸運をつかんだんですね。
「そう。ハリウッドでは何でも起こり得るのさ(笑)」
――ナオミがオーディションで長い長いラブシーンを演じるのは、ヒッチコックの「汚名」(48)で、イングリット・バーグマンとケイリー・グランドが演じた映画史上最長のラブシーンを意識したんですか?
「記録を破ったろ(笑)」
――オーディションの場所がパラマウント・スタジオなのは「サンセット大通り」(49)へのオマージュですか?
「もちろん! 『サンセット大通り』はハリウッドの実態を描いた最高の映画だよ。パラマウント・スタジオの門は『サンセット大通り』の頃と何も変わってないんだよ。僕らは『サンセット大通り』でエリック・フォン・シュトロハイムが運転していたクラシック・カーがラスベガスの博物館に保存されているのを見つけて、それをわざわざ運んできて、パラマウントの門に置いたんだ。お金かかったよ。一瞬しか映らないから気づいてない人も多いけど(笑)」
――そういえば、この部屋に入ったところにフェリーニの「8 1/2」(63)のポスターがありましたね。あれは脚本ができなくて悩む映画監督の話でしたね。
「(笑)ハリウッドじゃないけどね」
――日本では、あなたは他の映画作家についてほとんど語らない人だと言われてましたけど、そんなことないですね。
「僕はいわゆる映画マニアじゃなかったけど、『ぼくの叔父さん』のジャック・タチは大好きで、コミカルなシーンには影響を受けてるんだよ」
――最後に、この家は「ロスト・ハイウェイ」の撮影に使われたとのことですが、あの映画は未だに日本では「難解」「ワケがわからない」と言われてるんですよ。
「そんなことはないと思うよ。あの映画のアイデアはテレビでO・J・シンプソンがゴルフをしているのを観たことから始まっている。この男は奥さんを殺したのに、どうしてこんなに楽しそうにゴルフなんかできるんだろうって思ったんだ。そこで僕は瞑想をしてシンプソンの気持ちになってみた。そうしたら理解できたんだ。彼は妻を殺した時の自分を記憶の中で別人格として分離しているに違いないってね。人格乖離、心因性記憶喪失というやつだ。シンプソンは自分の中で複雑に、しかし精緻に記憶を組み替えて殺人という現実から自分を守っているんだよ。その精神構造をそのまま映画化したのが僕の『ロスト・ハイウェイ』なんだ。でもね、いつかシンプソンにも殺した時の記憶が蘇ってくるかもしれないな。たとえばゴルフでクラブをスイングした瞬間に記憶がわっと蘇ったりしてね(笑)」