劇場公開日 2025年11月21日

落下の王国 4Kデジタルリマスター : インタビュー

2025年11月21日更新
画像1

2008年の日本公開以来、国内では配信されていなかったカルト的ファンタジー大作「落下の王国」4Kデジタルリマスター版が公開を迎えた。

ザ・セル」のターセム監督による本作は、構想26年、撮影期間4年の歳月をかけ、CGに頼らず、13以上の世界遺産、24カ国以上のロケーションで撮影された本作は、フランシス・フォード・コッポラ監督作「ドラキュラ(1992)」でアカデミー賞衣装デザイン賞受賞、チャン・イーモウ演出の2008年北京オリンピック開会式のコスチュームも担当した、故・石岡瑛子さんが衣装を担当したことでも注目された。

“映像の魔術師”が鮮烈な映像センスで観る者を幻想世界へ誘う、まさに映画館で体感すべき一作だ。ターセム監督が4Kデジタルリマスター版日本公開を前に映画.comのインタビューに応じた。

画像2

――2008年の日本公開時の 映画.comインタビュー(https://eiga.com/news/20080905/12/)で、この作品の原点は幼少期の体験にあるとお話くださいました。実際に映画としての制作を考えたのはあなたのキャリアのどの時点だったのでしょうか?

学生時代から、自分の初めての映画作品にしたいと思っていました。しかし、大学を卒業し、広告業界でCM制作に携わり、いろんな人やスタジオに話をもちかけたのですが誰も乗ってくれず、お金を出してもらうことはかないませんでした。また、なかなかイメージ通りの主演の子役を見つけられず、実現は難しかったのです。しかし、「ザ・セル」(00)を作った後にチャンスがめぐってきて、子役も現れましたので、自主製作であり、自分にとっては2本目の映画になりましたが、完成させることができました。

画像3

――地球という惑星と人類の宝と言っても過言ではない美しい風景、そして芸術的な画作りに圧倒されます。本作は、ターセム監督を含め3名の脚本家がクレジットされています。あなたが長年構想されていた視覚的イメージから物語を構築していったのか、それとも3人で作った脚本からロケ地を選定し、場面構成を膨らませていったのでしょうか?

すごく良い質問ですね。この映画を作った頃、CMやミュージックビデオの監督をしており、もともと私がビジュアル寄りで作品を作るタイプなのです。ですからこの映画では、自分のそういった強みを見せられると思いました。批評家から映画監督になる方もたくさんいらっしゃって、そういうタイプの方はまず物語(ナラティブ)があっての映画、そういった作り方をされるでしょうが、私はその逆でした。

ベースとなる物語は、学生時代から構想があり、権利関係もクリアしました。映画を作ることになって、周囲からまずはCGありきで作ろうという話が出ましたが、私はCGに頼らず、誰も見たことがない映像を作りたかったのです。物語を時代劇風にしたのもそういった理由です。それで設定を1915年にして、当時、映画というものを見たことのない子供を主人公にして、そして、だれも見たことのない映像作品に仕上げ、真っ白なキャンバスの上に様々なビジュアルを展開するような映画になったと思います。

画像5

一般的な映画は脚本が先でそこから撮影のロケーションを探すことが多いと思いますが、私の場合は反対で、ロケーションと見せたい映像ありきで物語を考えていきました。こういう映画は批評家には嫌われがちですが、私はどうしてもやりたかったのです。

物語は3人で15年間かけて作りました。ニコ・ソウルタナキスとふたりだけで考えていた時は、実は台本として読めるような代物ではなかったのです。ダン・ギルロイが加わって、子供が語るイマジネーションとロケーションが定まっていき、物語が構築されていきました。

画像7

――世界24カ国にわたるロケーションはどのように選定したのでしょうか? 現在のようにインターネットを通じてリアルタイムで簡単に土地の状況が分かる時代ではなかったですし、秘境も多く、ロケハンは苦労されたのでなないでしょうか? エピソードや裏話を教えてください。

サルとダーウィンが死ぬシーン以外はすべて、私が行ったことのある場所です。非常にギャランティの高い、CM撮影やミュージックビデオ撮影で訪れて各地の現場のスタッフに、「高い報酬は払えないかもしれないけれど、必ず戻ってくる」と、約束していました。それから15年ぐらい経って、この映画の企画が実現しました。

このように長い時間をかけて、今まで映画や他の映像に使われていないロケーションを探して、候補としました。そしてアレクサンドリアを演じた子役のカティンカ・アンタルーにその写真などを見せ、物語とともに、どこで何が起きたかを一緒に考えて、ピックアップし、ロケ地として選びました。

画像6

――本作では極力CGを使わなかったそうですね。現在はデジタル技術が発展し、映画制作にAIも取り入れられるようになっています。このようなテクノロジーの進化は、今のあなたのクリエイティビティに良い影響を与えていますか?

すべてクリエイターの使い方次第だと思います。CGも単なるツールの一つなので、それ自体が悪いということはなく、どのように使うかが重要です。この映画では、物語の舞台が1915年で、アレクサンドリアが昔のことを思い出しているという設定なので、電柱を消すためにのみ使いました。ただ、現代の新テクノロジーの使用に関して、私はまったく反対することはないです。

画像4

――デビッド・フィンチャースパイク・ジョーンズが製作協力でクレジットされていますが、あなたとの関係を教えてください。

ふたりとも私の良い友人です。彼らもかつてはミュージックビデオなどを作っていましたし、私のLAの私の家に来て、一緒におしゃべりしたりする仲です。「落下の王国」が完成して、しかし2年経ってもどこの配給会社も買ってくれないという状況に陥った時に、すでに偉大な映画監督になっていたふたりに助けを求めたのです。彼らの名前が入ることで、集客できるのではないかと考えました。ふたりとも快く、許可してくれました。

画像8

――石岡瑛子さんとの協業と撮影中に印象的だったエピソードを教えてください。

学生時代からの友人である脚本のニコ・ソウルタナキスと私は、仕事をご一緒する前から彼女のファンで、CMなどをはじめその仕事を尊敬していました。そして「MISHIMA」「ドラキュラ」に携わって、どんどんすごい人になって、もう手の届かない存在だと思っていました。けれど、私が「ザ・セル」を監督することになって、衣装担当は誰がいいかと問われたときに、「石岡瑛子」の名を出しました。すると、担当者は「石岡瑛子みたいな人を探しますね」と言うので、「いや、石岡瑛子本人と仕事がしたい」とはっきり言いました。そして、ミーティングがかない、瑛子はとても良い人で、最初の対面で私たちは意気投合したのです。

ザ・セル」の撮影がスタートし、その間に、当時の私の恋人が「多分ニコと瑛子はいい仲だ」と私に言ったんです。瑛子はニコより30以上歳上なので、まさかそんなことはないだろう……と思っていたのですが、撮影後に「私たち付き合ってます」と発表されました。長年尊敬していた方と、自分の親友が結婚する――それはとても素晴らしいことでした。その後も継続して瑛子と仕事をすることができましたし、撮影中はニコも含め、同じ家で生活したことも楽しい思い出です。

画像9

――今回上映される4K版で監督のこだわりを教えてください。

実は最初からこの映画は4Kで撮影していたのです。ものすごくお金がかかりましたね。2008年の公開当時4Kで撮られた映画は「アイアンマン」とこの「落下の王国」くらいしかなく、4Kの映画を上映できる劇場も非常に少なかったので、結局4Kで皆様にお見せすることができなかったのです。

そして今回、新たに公開するために4Kにすると言われたので、「だれも観たことがないだけで、私はもともと4Kで撮っていたんだよ!」と答えたわけなんです(笑)。 それで、提供する素材を探していたら、当時携わってくださった会社やラボが無くなってしまってなかなか見つからなくて。最終的にひとつだけフランスのラボで素材が見つかったものの、いくつかショットが足りなかったので、その部分のみ私が改めて4Kに直しました。

「落下の王国 4Kデジタルリマスター」の作品トップへ