今年138本目(合計1,679本目/今月(2025年6月度)1本目)。
実話をもとにはしているのですが、そのことはかなり前の話だし、法律的な話がちらちらっと出てくるのが厳しいかなといったところです。
中世ヨーロッパ以降、この映画のように動物を裁判にかけるということは実際に行われており、これを「動物裁判」といいます。その中でも牛や馬、犬、オオカミなど一般的に「動物」とされるものが裁判所(とはいえ、三権分立もまだ発達していなかったので、ここでは国王直属の裁判所といったほうが良い)、ネズミや蜂、ハエなどの「小動物」は教会(カトリック教会)における教会法(カノン法)に基づく裁判所と分けられていました。
このことはヨーロッパでは当たり前に行われており、一見すると動物にも人権と同じ考え方を与えていたように思えますが、疫病が絶えなかった中世ヨーロッパ以降では疫病をもたらす動物は畏怖の対象であり(科学・医学というものが発展するのはルネサンス以降)、さらには「山火事の原因」として「山」まで訴えられるというヘンテコな裁判も当時はありました。
映画で述べる「事実に基づく」というのはこの意味で、またこのような裁判は科学の未発達から生じた「自然への畏怖」が元になって実際に行われていた事情から、「自分たちと異なるものを遠ざける」という(こうした一見「真面目な」裁判とは裏腹に)考え方は、それこそ魔女狩りや、近代以降だとユダヤ人迫害、あるいは現在でも女性差別ほか色々なところにあらわれてきます。映画内では中世で実際に行われていた動物裁判と、現在でもやはりのこる女性差別や移民差別(映画内では、ポルトガル移民の話がちらっと出てくる)等と絡めて描かれています。
なお、映画内では字幕にふりがながないのでわかりにくいですが、「物」は(現在の裁判制度でいうところの)「ぶつ」です(「もの」とは読まない)。また、そもそも論でいえば、本映画でいう裁判は日本の分類でいえば刑事裁判にあたりますが、処分が予定されている犬に対する取消しを求める取消訴訟を選択する裁判(行政事件訴訟法)とも解することは可能です(後者の立場からは描かれていない。ただ、そのような解釈も資格持ちは可能)。
全般的にこのような事情(中世における動物裁判の歴史や、それがもたらした弊害)を知らないと、女性差別や移民差別といった問題に飛ぶ理由がわからず、そこで多くの方がつまづくのではないかな…といったところです。気軽に見られる映画と思いきや実はそこそこの知識を要求する点で厳しいといったところです。
採点に関しては以下まで考慮しています。
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(減点0.2/「物」のフリガナがない点について)
この点は本映画は実質的に法律ネタ映画であることまで考えると、民法、民事訴訟法(刑事訴訟法)にいう「物」は「ぶつ」としか読みませんので、その誘導はいるのではないか…というところです(このあたりは資格持ちは気にするところ)。
(減点0.5/上記のような歴史事情がないと何を述べたいのかわからなくなる)
実際はこちらのほうが大きく、中世ヨーロッパ以降に実際に行われた動物裁判に関する知識がないと、このような珍妙な展開になることの理解が難しく、ネタ映画なのかという状態になるので注意です。
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(減点なし/参考/日本の場合)
日本では、民法718条が適用されます(刑法は人に対してしか適用できません)。
※ 刑法1条
この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。
(民法718条) ※ 2項省略。
動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
※ よって、占有者(飼い主)が責任を負うのであって、動物が責任を負うことは民法上ありえないし、人を裁くことしか想定されていない刑法も発動しないので、日本ではこのような展開にはなりません。ただ、中世ヨーロッパ以降で行われていた「動物裁判」は、日本を含む東アジアでも、日本の江戸時代や、李氏朝鮮などでも数は少ないながらも歴史は存在します(日本、韓国(ここでは便宜上使う語)とも、日本でいう明治維新後はこのようなことは行われなくなりました)。