満ち足りた家族

劇場公開日:

満ち足りた家族

解説・あらすじ

「八月のクリスマス」「危険な関係」などで知られる韓国の名匠ホ・ジノ監督が、1つの事件をきっかけに、ある兄弟とその家族が崩壊していく様を描いたサスペンス。

弁護士の兄ジェワンと小児科医の弟ジェギュ。ジュワンは道徳よりも物質的な利益を優先し、年下の2人目の妻ジス、10代の娘らと豪華なマンションに暮らしている。一方、常に道徳的で良心的が信条の弟のジェギュは年長の妻ユンギョンと10代の息子と暮らし、痴呆気味になった母の介護にも献身的だ。兄弟でありながら正反対な信念を持つ2人は、それぞれの妻とともに4人で月に一回高級レストランの個室でディナーをともにしている。あるディナーの夜、事件が発生した。この事件により、4人は家族に関するある秘密に直面することとなる。

兄ジェワンを「オアシス」のソル・ギョング、弟ジェギュを約5年ぶりの映画出演となるチャン・ドンゴンがそれぞれ演じ、ドラマ「夫婦の世界」のキム・ヒエ、「アベンジャーズ エイジオブウルトロン」のクローディア・キムらが顔をそろえる。

2024年製作/109分/PG12/韓国
原題または英題:A Normal Family
配給:日活、KDDI
劇場公開日:2025年1月17日

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映画レビュー

4.0精緻な構造で魅せる家族劇

2025年1月28日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

ホ・ジノ、ソル・ギョング、チャン・ドンゴンが組んだ本作は、タイトルやビジュアルから想像できる通りの家族の崩壊劇でありながら、まるで舞台戯曲がベースにあるかのように(実際はオランダ生まれの小説が原作)、細部と細部が噛み合ってカチッと音が響くほどの構造の精密さが光る。あらゆる要素を現代韓国へ綺麗さっぱり置き換えた翻案ぶりも見事。そこからは静かな衝撃が続くのだが、目を覆いたくなる、というよりは、むしろどんどん瞳孔が開き、目が釘付けになっていく展開というべきか。正反対の性格の兄弟が盤上の駒のようになす術もなく運命に突き動かされていく過程は、このメンツだからこその見応え感がたっぷり。さらに妻役の二人をはじめ、多彩な表現力で胸の内をあらわにできるキャストがずらり揃ったことによって、役柄的には不揃いな個々が、その実、驚くほど効果的に機能し合いながら、物語の全体像を不気味で秀逸な最終形へと至らしめている。

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牛津厚信

4.0ケレン増し増しが韓国流。“信頼できない語り手”の妙味は薄れたが

2025年1月21日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

怖い

オランダ人作家ヘルマン・コッホが2009年に発表した小説「Het diner」(邦訳題「冷たい晩餐」)は、“信頼できない語り手”の手法を用いて、語り手の家族が関わった深刻な事件と語り手自身の問題が徐々に明らかになる知的スリラー。40カ国語以上で翻訳されるなど世界的ベストセラーになった。映画化は2013年のオランダ版、2014年のイタリア版(邦題「われらの子供たち」)、2017年の米国版(同「冷たい晩餐」)、そしてこの韓国映画「満ち足りた家族」で実に4度目となる。

小説では、語り手が弟の元歴史教師、その兄が著名な政治家で、兄には実の息子のほかにアフリカ系の養子がいる(この養子が事件発生後の問題にも関わってくる)。こうした主要人物の設定は米国版でほぼ忠実に引き継がれ、未見ながらオランダ版もネット検索で調べたプロットや配役を見る限り同じようだ。他方、イタリア版では弟が小児科医、兄が弁護士に職業が変更されたほか、兄の家族で事件に関わるのが息子から娘に置き換えられた。さらに、路上で起きた事件で重傷を負った子を弟が手術し、兄が加害者の弁護を担当する設定が追加されている。イタリア版も未見ながら、人物設定などの共通点を見る限り韓国版は実質的にイタリア版のリメイクと言えそうだ。なお日本では過去の3作品のうちイタリア版と米国版が限定的な上映、米国版がDVD化されたのみで、現在はいずれも鑑賞困難。この韓国版劇場公開を機に他の3バージョンも配信で視聴できるようになれば、比較する楽しみが増えるのだが。

さて、最新作の「満ち足りた家族」は、先述のようにイタリア版の影響を受けているものの、冒頭の危険運転から生じた死傷事件、被害者の手術と加害者の弁護をめぐる兄弟の葛藤、そして2組の夫婦の子供たちが犯した重大な罪、さらに原作から改変された衝撃の結末など、韓国映画が得意とする外連味たっぷりのサスペンスに仕上がっている。とりわけ深刻な事件を起こした子供たちの罪の意識の希薄さは、本作の“胸糞悪さ”に大いに貢献している。

ただし、韓国版では弟の視点に加え、その妻、弁護士の兄の視点からの語りを行ったり来たりして、2つの家族の状況を俯瞰することでわかりやすくなった一方で、原作の語り手である弟の次第に明らかになる精神面での問題や、ある遺伝的な傾向についての苦悩、過去に起こしたいくつかのトラブルが回想されるにつれ裏の顔が徐々に見えてくるといった読者の知的好奇心を刺激する仕掛けが、相対的に弱まったのが惜しい。米国版では、“信頼できない語り手”の妙味はかなり再現できているのだが、改変された結末が唐突な終わりを迎えて投げっぱなし(その後を観客の想像にゆだねるエンディング)なのが難点。結末に関しては、韓国版のほうが派手でインパクトがあり、ある意味きちんと終止符が打たれている。

さらに韓国版での変更のポイントを挙げるなら、弟の妻が認知症の始まった義母の介護で疲弊するくだりなどは原作にない要素で、日本を含むアジアの観客の多くに共感を得られそうな改変点と言えるだろう。

最後にトリビアを1つ。原作者コッホは2005年12月にスペインのバルセロナで起きた実際の事件に着想を得ている。冬の夜ATMのブースにいたホームレスの女性ロサリオ・エンドリナルさんが、未成年1人を含む若者3人に揮発性溶剤の入った容器を投げつけられてから放火され、重度のやけどを負い2日後に死亡。3人は逮捕され、裁判で懲役刑の判決を受けた。犯行の様子は監視カメラに収められ、ニュース番組で流れて世間に衝撃を与えた。この監視カメラの映像と、被告らが裁判を受けている様子を収めた映像が、YouTubeで現在も公開されている。「De neefjes van Herman Koch」(ヘルマン・コッホの甥たち)というフレーズでウェブ検索して、これら2本の動画を埋め込んだ記事(ジャーナリストEdwin Winkelsの個人サイト)を閲覧すると手っ取り早い。監視カメラ映像の中で、ホームレス女性を攻撃する若者たちは薄ら笑いを浮かべている。そのことがフィクションの小説や映画よりよほどおそろしい。

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高森 郁哉

リメイクでもやっぱり韓国映画

2025年3月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 裕福に見える家族の虚飾、善意の人と見えた人物の偏狭さを薄皮を剥ぐ様にむき出しにしていく意地悪さは現在の韓国映画の独壇場。と思ったら本作はヨーロッパ映画のリメイクだったのか。でも、この冷え冷え感はやっぱり韓国映画だな。久々に観たチャン・ドンゴンも良かった。

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La Strada

4.0子供の振り切ったゲスぶりを産み出した親の絶望の描写が潔い。

2025年3月5日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

弁護士の兄ジェワンは、最初、世間体故に娘の犯罪を隠蔽しようとする。

弟の小児科医ジェギュは、逆に、最初は、正義感から息子を自首させようとする。

ところが最後になって立場が逆転し、兄は娘のために罪を償わせるために自首を、弟は息子を守るために隠蔽を画策する。

そのチェンジのタイミングはそれぞれの親が自分自身のスタイルや信念でなく、直の子供と向き合ったあとのことだ。

兄ジェワンは娘の人としての更生を願い、弟のジェギュは息子の涙の反省で子の真実を悟る。そしてそれは簡単に裏切られるのだ。

子供と向き合い理解したという想いは幻想だったのだ。

それぞれの親が理解したと思った子供の真実は、ゲスの極みである子供の言動で打ち砕かれる。

兄のジェワンは最後に人としての尊厳を取り戻したかに見えたが、弟のジェギュによってその信念は破壊される。

最初の富豪の三男のゲスぶりもそのままで何も回収されない。

子供たちのゲスはまったく回収されない。

この絶望は深い。

親はもはや「まともさ」を留めた最後の世代かもしれず、ゲスを生み出したあとに滅びるしかないのだ。

全体に分かりにくいところ、不自然な展開はまったくなく、全てが予定調和で展開する。

エンタメとして破綻なく、謎めいたこともなく、それでも深いところに届く描写は韓国映画ならではなのかもしれない。

父を亡くした放蕩娘、人殺しになった父と人殺しの息子。
このまま子供たちの罪が罰せられるか、隠蔽されるか。もはやどうなるかわからない。
この後子供たちはどうなるかの視点はもはや無い。
なかなかにえぐい。

映画のポスターの「満ち足りた家族」の後ろの英語の表題は「A Normal Family」。

あの、およそ庶民とはかけ離れた生活、レストラン、下層の人たちとの対比を、どちらも「A Normal」(これが普通でしょ)と言ってしまう韓国の絶望を他人事と私たちは言えるだろうか?

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ふくすけ

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