蜘蛛巣城

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劇場公開日:

解説・あらすじ

シェイクスピアの「マクベス」を日本の戦国時代に置き換え描いた、戦国武将の一大悲劇。謀叛を起こした敵を討ち城主の危機を救った鷲津武時は、帰城途中に出会った老婆から不思議な予言を聞く。その予言通りに大将に任ぜられると、今度は妻にそそのかされて主を殺害、自ら城主の地位に着く。黒澤監督は、欲望に刈られた魂が繰り返す殺戮と狂気を、能の様式美に乗せて見事に描いていく。三船=マクベスが無数の矢に曝されるラストシーンは圧巻。

1957年製作/110分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1957年1月15日

スタッフ・キャスト

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映画レビュー

3.5シンプルなストーリーに重ねられた「蜘蛛の巣」のモチーフが魅力。

2020年11月11日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
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すっかん

4.5人間は本当に自由なのか?

2025年6月4日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

黒澤明は『七人の侍』で「理想の秩序」を描いた。だが本作『蜘蛛巣城』では、人間が「選択」を通じて自らを崩壊へと追い込んでいく過程を描き出している。

霧の荒野にそびえる蜘蛛巣城。三船敏郎演じる武将・鷲津は、森で出会ったあやかしから「城主になる運命」を告げられる。しかしこの予言は、未来を決定する予言ではなく、「道を誤らせる甘い囁き」にすぎない。そして背後では、妻・浅茅(山田五十鈴)の冷徹な誘導が、鷲津の背中を押していく。こうして鷲津は、主君を討ち、城を手に入れる──そこから破滅へと転がり始める歯車を自らの手で回していく。

主君殺しという最初の選択によって、以後の選択肢は次々に狭まっていく。親友・三木の処刑。その実行役となった部下の粛清。猜疑心は加速度的に膨れ上がり、自己正当化の繰り返しが「もうこれしかない」という心理状態を生み出す。自らを省みる心(ネガティブ・フィードバック)は消え、猜疑と支配への依存(ポジティブ・フィードバック)だけが肥大化していく。

やがて鷲津は、恐怖と猜疑でしか統治できなくなる。その果てに、予言された「森が動く」現象(部下たちにとっては敵軍の襲来であるのだが)が現実となり、恐怖で硬直した部下たちの裏切りによって、矢の雨に倒れる。

本作では登場人物が極端に絞られている。鷲津の孤独を浮き彫りにする狙いもあるだろうが、志村喬や千秋実を除けば、黒澤映画の常連たちはほとんど登場しない。その代わり、霧、森、鳥、矢といった自然の象徴が、鷲津の内面と運命を語り続ける。

森:迷路のように出口が見えない選択の混迷

霧:判断力の曇り、先が見えない混沌(クラウゼヴィッツの「戦場の霧」)

鳥:破滅の予感(察知されながらも意図的に無視される危機信号)

矢:猜疑心の暴走が最後に己を貫く「粛清の刃」

三船敏郎の鷲津像は、彼が一貫して体現してきた「正義・信義・誠実さ」を裏切る役柄となった。そこに生まれるのは、黒澤映画では珍しい堕落の美・破滅の美である。

黒澤はここで「独裁者の自壊モデル」を実験的に構築している。勝つために支配を強め、猜疑を重ね、純度を高めれば高めるほど、逆に統御は失われていく。まさに「完全なる支配は死をもたらす」構造そのものである。そこには戦後日本の混乱や、黒澤自身の共産主義・スターリン体制への複雑な感情も重ねられている。

黒澤はカオスを描こうとした。しかし彼の職人的な統御志向ゆえに、それは「コントロールされたカオス」に留まってしまう。ここに黒澤の限界と誠実さが同時に表れている。

人は自由に選んでいるつもりでも、選択が次の選択を呼び、猜疑心が猜疑心を増幅し、閉じていくカスケードの果てに袋小路に追い込まれていく。『蜘蛛巣城』は、選択・因果律・破滅を描いた、黒澤明の思索と造形美が極限まで研ぎ澄まされた傑作だ。

4K UHD Blu-rayで鑑賞

94点

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neonrg

4.0シェイクスピア演劇に対峙した黒澤監督の作家証明と名優三船敏郎・山田五十鈴の気迫

2025年3月25日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

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興奮

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Gustav

5.0黒澤監督が描いた人の世

2025年3月21日
PCから投稿

原作者シェイクスピアの凄さはある。
その物語を混乱の日本に置き換えた
黒澤組という映画人達の凄さも有る。

前半から寒気と気迫が入り混じり
どんどんと物語の中に引きずり込まれる。
台詞の強弱、目線、立ち位置、などなど、
彼らの心情の表し方や見えないもの。

何十回、何百回観たことか
それでも飽きずに戻ってくる
求めて、戻ってきてしまう。

この世でいちばん恐ろしい人間界へ

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星組