劇場公開日 2025年2月7日

野生の島のロズ : インタビュー

2025年2月5日更新

クリス・サンダース監督「野生の島のロズ」で貫いた“原作映画化”の工夫 「となりのトトロ」どこが好きなのかも聞いてみた

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第97回アカデミー賞の長編アニメ映画賞、作曲賞(クリス・バワーズ)、音響賞の3部門にノミネートされている「野生の島のロズ」(2月7日全国公開)。ドリームワークス・アニメーションの最新作となる本作で描かれるのは、野生の島で起動した最新型アシスト・ロボットのロズにひょんなことから愛情が生まれ、動物たちと共生し、島の危機を乗り越えていく――という感動のストーリーだ。

監督・脚本を担当したのは、「リロ&スティッチ」や「ヒックとドラゴン」などを手掛けたクリス・サンダース。映画.comは、日本公開を記念して来日したサンダース監督にインタビューを敢行。本作の製作秘話や、宮﨑駿作品との“つながり”、「となりのトトロ」への“愛”を語ってもらった。(取材・文/映画.com編集部 岡田寛司)

※以下のインタビューは、一部ネタバレを含んでいます。ご注意ください。


【「野生の島のロズ」概要・あらすじ】

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アメリカの作家ピーター・ブラウンによる児童文学「野生のロボット」シリーズを原作に、野生の島で起動した最新型ロボットが愛情の芽生えをきっかけに運命の冒険へと導かれていく姿を描いた長編アニメ映画。

大自然に覆われた無人島に流れ着き、偶然にも起動ボタンを押されて目を覚ました最新型アシスト・ロボットのロズ。都市生活に合わせてプログラミングされた彼女は野生の島では全く機能せず、動物たちの行動や言葉を学習しながら未知の世界に順応していく。そんなある日、雁(ガン)の卵を見つけて孵化させたロズは、ひな鳥から「ママ」と呼ばれたことで、思いもよらなかった変化の兆しが現れる。ひな鳥に「キラリ」と名付けたロズは、動物たちにサポートしてもらいながら子育てに奮闘するが……。


クリス・サンダース監督
クリス・サンダース監督

●原作の映画化で重視したことは?「本はたくさんの情報を載せられる“船”。映画はもっと“軽量”にしなければならない」

――まずは、原作についてお聞かせください。原作者のピーター・ブラウンさんとはどんなお話をされましたか? その対話に、製作のヒントはありましたか?

お話をしているなかで、ピーターさんがこんなことを言ったんです。「本を執筆してる時は、ある種のガイドとなっている言葉がある」と。それは「親切な気持ちは、サバイバルスキルになり得る」というもの。なんて素敵な言葉なんだろうと思って、それをメモ書きしておいたんです。制作中は、その言葉を“北極星”(=目標、モットーの意味合い)にしていましたね。

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――「ヒックとドラゴン」も原作のある映画でしたね。“原作を映画化する”という手法について、大切にしていることはありますか?
今回は原作における精神、核の部分を保持したいと考えていました。そのために削らなければいけない部分というのがたくさんありましたね。

本というものは“船”のようだと思っているんです。たくさんの情報を載せることができるから。ですが、映画というものはもっと“軽量”でなければなりません。限られた尺の中で物語を伝えていかなければなりませんから。全部入れたいと思っても、単純に時間が足りないんですよね。

だからこそ、大事なものをしっかり描くためにも“トリミング”が必要になってきます。例えば、削ったキャラクターとして、原作では人気のあるリスがいたり……興味があれば、何故削除したのかをお話ししてもいいんですが、かなり時間がかかると思います(笑)。

――取材時間も限られているので、また別の機会にしましょう(笑)。

(笑)。あと、原作にはクマが3体出てくるんですが、映画では1匹に統合したりもしています。この映画に関しては(ストーリー展開が)“駆け足”のようにはしたくなかったんです。ロボットが迷子になっているという状態を、リラックスしたペースで描きたかった。ですから、この“トリミング”によって、それが実現でき、自分の求めていた柔和さを生じさせることができたと思っています。

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●育ての親が“孤独の原因”だったという要素について「はっきりと書くことが重要でした」

――とても細かな点かもしれませんが……ロズがキラリを“愛する者”でありながら、彼の孤独の“原因”にもなっているという部分にも注目しました。

原作を初めて読んだ時から、その点は興味深い点だと思っていました。もともとの“原因”は、ロズが巣にぶつかってしまったことです。映画化に際しては、そこをぼやかすのではなく、むしろはっきりと書くことが重要でした。キラリは、そもそも同種族の中では体も小さく、生き長らえることが難しいタイプです。自然界の中での生存率はもともと低かったでしょう。

渡り鳥のリーダー・クビナガには、こう諭されます。「そういうこと(ロズが巣にぶつかったこと)があったからこそ、君は今生きていられる」と。そして、キラリ自身もロズと同様のことを繰り返してしまいます。彼が原因となって“犠牲”が生じてしまう。ある種の繰り返しが、この映画には存在しているんです。

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――そして、ロズとキラリの関係から浮き彫りになってくるのが「子育て」というワードです。僕自身も“真っ最中”の身です。映画を見ていて「プログラムを超えないと、子育てには太刀打ちできない」という点にも深い共感を覚えました。

子育て中は状況に応じて“自分”を変えていかなければなりませんし、困難が伴うこともありますよね。でも、人生を振り返った時に「(子どもだけではなく)自分自身も成長している」と実感できる瞬間が多いような気がしています。

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●ビジュアルでの工夫は? 一番のこだわりは「口をとった」こと

――ロボットが登場する映画……となれば、やはり最も気になるのは、そのビジュアルです。「宮﨑駿監督のロボットたちが指針になっている」と仰っていますよね? 宮﨑作品のロボットにどのような魅力を感じ、どう取り入れたいと思ったんでしょうか?

(原作本を指し示しながら)ここにロボットのイラストが入っているんですよね。口があったり――この腕はちょっと“宮﨑さん”を思い出させるような。ヒューマノイド形で大きな頭がありますが、股間部分の形成するパーツはない。さまざまなディティールが足りない状態だったので、その部分を埋めなければなりませんでした。

ですから、自分も含め、まずはアーティストそれぞれが“自分なりのロズ”をデザインしてみようということになりました。そのなかでもHyun Huh(ヒョン・ホ)さんのデザインは、現在の形にかなり近いものでした。球体をうまく取り入れたデザインです。宮﨑監督の影響があったかどうかは聞いていないんですが、「影響があった」と言ったとしても、まったく驚くことはないでしょうね。それに時間が経過するにつれて、ボロボロになっていく感じが、すごく“宮﨑さん”っぽいですよね。

一番のこだわりは「口をとった」ことです。成功してるロボットの多くには、そんな特徴があると思っていました。たとえばR2-D2です。そしてC-3POには口はありますが、それ自体を使うことはありませんよね。「禁断の惑星」のロビー・ザ・ロボットもそうですし、それに「天空の城ラピュタ」のロボット兵も。例外として「アイアン・ジャイアント」がありますが、あれは“顎があるだけ”とも言えます。なので、今回は“口”をとり、アニメーターの方々にマイム(=身ぶり手ぶり)で表現できるようにしてもらうことにしました。

手元のアートブックに写っているのは、宮﨑駿監督から多大な影響を受けたシーン
手元のアートブックに写っているのは、宮﨑駿監督から多大な影響を受けたシーン

“宮﨑さん”の話が出たので――これを見てください。

(本作のアートブックに掲載されている劇中シーンを示して)“宮﨑さん”から受けたインスピレーションを全部出したという瞬間がここですね。映画の中でも“宮﨑さん”的なシーンをひとつ作りたいと思っていて、このシーンだったら「“宮﨑映画”になりそうだな」と感じたんです。

これが“宮﨑駿”的シーン
これが“宮﨑駿”的シーン

●「となりのトトロ」が大・大・大好き!→どこが好きなのか聞いてみた

――1月20日に行われた日本語吹き替え版完成披露試写会では「『となりのトトロ』が大好き」とお話されていました。具体的に、どのような部分が好きなのでしょうか?

(悩みに悩みに抜いた後)――2人の少女の視点を通じて、田舎に引っ越し、新しい家で暮らし始めて、ちょっと奇妙なことがいっぱい起きていく。奇妙な事象であったり、それが起きる順番も魅力的なんですが、何と言っても雨の中の“バス停のシーン”ですよね。ここが本当に素晴らしい。

あのシーンには、他の映画では見たことがないようなユニークなものを、時間をたっぷりととって描いています。トトロの登場の仕方も印象的で、サツキがメイを背負っているから、 最初は全身が見えないんですよね。指先だけが見えて、少しずつ全貌がわかっていきます。

この見せ方が、本当に効果的だったと思いますし、映画的構造としてこれを選んでいらっしゃるからこそ、そこには魔法が宿ったという風にも思うんです。キャラクター自体も素晴らしい描き方をされていますが、それだけではなく、カットの作り方やペースだったりにも素晴らしさを感じています。

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●映画のオリジナルキャラ“ヴォントラ”に施した仕掛け

――そろそろ取材時間も無くなってきましたので、最後の質問を……実は、物語終盤に登場するヴォントラ(行方不明になっていたロズを見つけ出し、回収するために島へとやってきたユニバーサル・ダイナミクス社のロボット)が好きなんです。このキャラに関するエピソードをお聞かせいただけますか?

ヴォントラは原作にはいない映画オリジナルキャラなので、名前を挙げていただいて非常に嬉しいです。

原作には、ロズを迎えに来る役目を負った怖くて大きなロボットがたくさんいるんですが、ヴォントラを出したきっかけは、会社を代表するようなロボットが必要かなと考えたことです。デザイン面に関しては、どこかロズを想起させるようなところを意識していますし、物語終盤に登場するキャラクターでもあるので、最初から細かく説明をしなくても“どんなキャラクターなのか”という点がすぐにわかるような仕掛けを施しています。

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ロズは「なんだかハッピーそうだね?」と話しかけるですが、ヴォントラは「いや、これはプログラミングだから」と言いますよね。これは自分のターゲットの緊張をとくために、そう仕組まれている――そんなことを言うので、彼女がどんな目的を持ったロボットなのかがすぐにわかりますし、英語版で声を当ててくれたステファニー・スーも“ヴィラン”を楽しんで演じてくれていました。

アメリカでは、1幕、2幕、3幕仕立てで脚本を作ることが多いんですが、これまでの経験上、3幕に突入した段階では、観客も展開にちゃんとついてきてくれます。なので1幕目、2幕目に比べると、より大きな飛躍をしたとして問題がないという点は、ひとつの発見でもありました。

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