BAUS 映画から船出した映画館

劇場公開日:

BAUS 映画から船出した映画館

解説・あらすじ

2014年に惜しまれながらも閉館した映画館・吉祥寺バウスシアターをめぐる歴史と家族の物語を描いたドラマ。1925年に吉祥寺に初めて誕生した映画館・井の頭会館が、ムサシノ映画劇場、バウスシアターへと形を変えながら、多くの人々に愛される文化の交差点になっていく長い道のりを描く。

1927年。活動写真に魅了されて青森から上京した兄弟ハジメとサネオは、吉祥寺初の映画館・井の頭会館で働きはじめる。兄ハジメは活弁士、弟サネオは社長として劇場のさらなる発展を目指すが、戦争の足音がすぐそこまで迫っていた。

染谷将太がサネオ役で主演を務め、兄ハジメをロックバンド「銀杏BOYZ」の峯田和伸、サネオの妻となる女性ハマを夏帆が演じた。バウスシアター元館主・本田拓夫の著書「吉祥寺に育てられた映画館 イノカン・MEG・バウス 吉祥寺っ子映画館三代記」を原作に、2022年に逝去した青山真治監督があたためていた脚本を、青山監督の教え子でもある「はだかのゆめ」の甫木元空監督が引き継いで執筆し、メガホンをとって完成させた。大友良英が音楽を担当。

2024年製作/116分/G/日本
配給:boid、コピアポア・フィルム
劇場公開日:2025年3月21日

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(C)本田プロモーションBAUS/boid

映画レビュー

3.5目を凝らし耳を澄ませるもよし、ただただ身を委ねるもよし

2025年4月6日
iPhoneアプリから投稿

 冒頭、煙草をふかす館長の背中越しに広がる風景に、「PARKS」を思い出した。どちらも、井の頭公園が繰り返し登場する。本作は、映画館と映画館を営んだ人々を描いているようで、実は、映画館のある「街」の映画なのだと感じた。
「まあ、いいや」が口癖の鷹揚な社長に拾われ、映画という窓を持つ大きな家=映画館に招き入れられた本田兄弟。「ここでは何をしてもいい、やりたいことをやっていい」と受け入れられ、映画(館)に魅せられていく。彼らとともに、私たちも、ゆったりと物語に身を委ねたくなる。けれども、本作のつくりは少々愛想がない。画面は薄暗く、セリフもところどころ聴き取りにくい。目を凝らし、耳を澄ませれば、その分きっと発見があるのだろう。一方で、そんなに欲張らず、その時ならではの引っかかりを味わうのも悪くない、とも感じた。映画という窓から、その日の自分だからこそ眺めることのできる風景が、きっとあるのだから。
 活弁全盛からトーキーへ、戦争を挟んで80年代、2000年代と、時は流れる。とはいえ、描かれる情景は、その時々の「今」だ。映画館に集まる人々、映画を届けるスタッフたちの躍動(画面をタテ三分割にした、上映直前までのシーンが秀逸!)や温かさは、留め置くのが難しい。だからこそ、かけがえがない。幸福な光に溢れているからこそ、不穏な影の存在を無視できない。少しずつ、街の趣きは変化し、人々も歳を重ねていく。
 そして、閉館。よき時代の象徴が時代の波に押されて失われる…といったセンチメンタルな甘い郷愁を、鋭いギターが力強く切り裂く。圧巻の幕切れだった。
 染谷将太、峯田和伸、夏帆ら本田一家はもちろん、軸となる鈴木慶一、写真と声が大半にもかかわらず深い印象を残す橋本愛をはじめ、どの役者さんも、映画と映画館への愛情がにじませ、素敵な表情を見せている。個人的には、初代社長の吉岡睦男、映写の黒田大輔が特に印象的だった(いずれも敬称略)。折々に、繰り返し観たい作品だ。

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cma

3.5映画館それそのものが記憶であり物語である

2025年3月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

どの映画館にも歴史がある。それを築いた人々の情熱と、そこに集った多くの観客の熱気と息遣いがある。本作は吉祥寺という街の文化を彩ったバウスシアターが一体どこからやってきて、いかに大海で帆を広げ、そして終焉を迎えたのかを劇映画、しかも一族のクロニクルという形で綴った極めて興味深い叙事詩である。とはいえ、この劇場にまつわる一部始終を縦型に描くのではなく、支配人の胸中にプカリと浮かんでは消える記憶の泡沫をじっくり味わうかのような、幻想的で、アヴァンギャルドで、パンキッシュな語り口を貫いているのが特徴的だ。時に、語るべき要素を割愛したかのような構成に不完全燃焼感を抱く人もいるかもしれないが、ある意味でこれは依然として「思い出したい記憶と、そうではない記憶」が渦巻く劇場主の胸中を誠実に投影したものとも言いうる。そのストーリーの重力に逆らって手にした、決してありきたりではない疾走感と躍動感に心掴まれた。

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牛津厚信

3.5お客さんを選ぶタイプかも

2025年3月21日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

まず物語要素のアンバランスさに戸惑った。映画館を擬人化して例えるならこんな感じ。ちょっと知っていた故・バウス君を偲ぶ会があると聞いて見に行ったら、冒頭から祖父イノカン氏についての思い出が延々と続き、会の半ばを過ぎる頃に父MEG氏の話に移ってからもそれなりのボリュームのエピソードが語られる。ようやくバウス君の番かと思ったら、最期の日に仲間たちが集まってにぎやかに見送ったよ、と報告があってお開き、解散。体感の時間配分では、イノカン6割、MEG3割、バウス1割だろうか。

タイトルに「BAUS」を冠しているものの、実はバウスシアターが主題ではない。吉祥寺初の映画館・井の頭会館で働き始め後に社長となる本田實男(さねお)氏を中心に、ムサシノ映画劇場、バウスシアターと形を変えた箱を通じて約90年にわたり当地の映画文化を支えた“家族の物語”に重きが置かれている。

インディペンデントの精神を具現化した作品とも言える。商業映画のようなウェルメイドと大衆受けを狙わず、低予算を逆手に取った画作りで引っかかりを生む。井の頭会館の建物前面がハリボテであることを敢えて見せたり、おでん屋台のシーンで周囲を真っ暗にして舞台劇のように演出したりしているのもそうした意図だろう。予算が限られているので、シーンによってはセットや背景をリアルに作り込む代わりに、チープさや作り物っぽさが“味”になるよう工夫するのもインディーズならでは。

バウスシアターに足繁く通ったようなシネフィルなら、さまざまな要素に愉しみを見出せるのだろう。町の小さな劇場が地元の人々と歴史を生きる、映画に夢と未来を見た少年が大人になり回想する、といった要素が「ニュー・シネマ・パラダイス」に類似するが、あちらのようなわかりやすい感動作を期待すると当てが外れる。一見さんお断りというほど敷居が高いわけではないものの、とっちらかった感じさえ大らかに愛せるのでなければ、心から楽しむのは難しそうだ。

私自身、バウスシアターを数回訪れちょっと知っていた程度なので、バウスの誕生や最盛期や閉館の事情などをもっと描いてほしかったなと物足りない思いも。名称の由来は気になっていたので、ヨットの船首のバウ(bow)と船尾のスターン(stern)を合わせた「バウスターン(bow stern)」をもじってバウス・タウン(Baus Town)」になり、そこからバウスシアターが生まれたとの説明があったのはよかった。

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高森 郁哉

2.0映画館の歴史は映画館好きには刺さる

2025年5月3日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

日本における映画の歴史にも触れつつ
BAUSシアターの歴史を描いた作品。

染谷将太と鈴木慶一が主役だが、
染谷演じるサネオは創業者から社長を託され
街のためにもと映画館を盛り上げてきた。
鈴木慶一演じる息子が、その幕を閉じる役割を担い
昔語りから入るのが何ともタイタニック的で
私には刺さった。

ただ、前半はやはり地味というか、
戦後までは苦労が多く、映画自体も無声からトーキーへと
変遷を遂げ、生き残るには大変だったのがうかがえる。
街の映画館としての役割を終え閉める際の
鈴木慶一のギターソロは素晴らしかった。
だから鈴木慶一を配役したのかと納得した。

俳優陣も実に素晴らしい演技をしており、
特に夏帆と光石研の存在感はハンパない。
ちょっとしか出ていない橋本愛も良かったし、
最近いたるところで見かける吉岡睦雄も笑えた。

私も我が街の映画館である『宮崎キネマ館』さんが
大好きで、これからも足げく通い応援していこうと思う。

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ひでちゃぴん