めくらやなぎと眠る女

劇場公開日:

めくらやなぎと眠る女

解説

音楽家・アニメーション作家のピエール・フォルデスが監督・脚本を手がけ、村上春樹の6つの短編小説「かえるくん、東京を救う」「バースデイ・ガール」「かいつぶり」「ねじまき鳥と火曜日の女たち」「UFOが釧路に降りる」「めくらやなぎと、眠る女」を翻案して描いたアニメーション映画。

2011年、東日本大震災から5日後の東京。テレビで震災の被害を伝えるニュースを見続けたキョウコは、夫・小村に置き手紙を残して姿を消す。妻の突然の失踪に呆然とする小村は、ひょんなことから中身の知れない小箱を、ある女性に届けるため北海道へ向かうことになる。同じ頃、小村の同僚・片桐が帰宅すると2本脚で立ってしゃべる巨大なカエルが待ち受けていた。「かえるくん」と名乗るその生き物は、次の地震から東京を救うために片桐のもとにやってきたという。大地震の余波は遠い記憶や夢に姿を変えながら、小村やキョウコ、片桐の心に忍び込んでいく。

フォルデス監督が「ライブ・アニメーション」と名づける実写撮影をベースにした制作技法により、村上作品の不思議で生々しいリアリティを再現。アヌシー国際アニメーション映画祭2022で審査員特別賞、第1回新潟国際アニメーション映画祭でグランプリを受賞した。日本語版は「淵に立つ」の深田晃司が演出、俳優の磯村勇斗、玄理らが声優を担当した。

2022年製作/109分/PG12/フランス・ルクセンブルク・カナダ・オランダ合作
原題または英題:Saules Aveugles, Femme Endormie
配給:ユーロスペース、インターフィルム、ニューディアー
劇場公開日:2024年7月26日

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(C)2022 Cinema Defacto - Miyu Prodcutions - Doghouse Films - 9402-9238 Quebec inc. (micro_scope - Prodcutions l’unite centrale) - An Origianl Pictures - Studio Ma - Arte France Cinema - Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

映画レビュー

4.5村上春樹とアニメーション、相性良し

2024年8月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

村上春樹の短編作品のいくつかを再構成して一本の物語へと仕立て直している。舞台は震災後の日本で、震災ニュースを延々と見続ける妻が突然失踪し失意の中にいる男と、その同僚である日突然巨大なカエルに自身を止めて東京を救えと言われる冴えない男を中心に、シュールで不可思議な人間模様を描く作品だ。村上春樹のシュール系の短編はアニメーションとこんなに相性いいのかと思わされた。ゆらゆらと不確かな実存に悩む人々の物語と言えるが、その不確かさがアニメーションという固定的な形状を持たなくて良い媒体で、映像として巧みに表現されていて面白い。
やっぱり「かえるくん、東京を救う」のエピソードは面白い。奇妙なカエルが突然目の前に現れて喋り出すだけでもシュールだが、そのシュールさに違和感も何も感じさせないのは、このアートスタイルだからか。
白昼夢を見ているかのような、奇妙な感覚に心地よさを感じさせる作品だ。
こういう企画は日本のアニメではなかなか成立できない。そういう意味でも貴重。

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杉本穂高

4.0異なる言語文化と表現の不確かなキャッチボール

2024年7月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

楽しい

知的

村上春樹作品の一愛読者として、近年映画化のペースが上がっていることは単純に喜ばしい。作家自身が映画「風の歌を聴け」の出来に失望して以来映像化のオファーのほとんどを断っていると何かで読んだ記憶があるが、年齢とともに映像化に寛容になってきたのだろうか。2018年の「ハナレイ・ベイ」と「バーニング」、2021年の「ドライブ・マイ・カー」、そして村上作品初のアニメ映画化が本作「めくらやなぎと眠る女」だ。

監督・脚本のピエール・フォルデスは、1990年代に映画音楽やCM曲の作曲家としてキャリアをスタートさせ、その後ドローイングやアニメ・実写の短編をいくつか発表してきた(自身のサイトpierrefoldes.comで過去の作品群や、「めくらやなぎと眠る女」のスケッチなども公開しているので、興味がある方はぜひ)。

フォルデス監督は米国出身だがパリで育ち音楽もフランスで学んだので、仏語・英語のバイリンガルと察せられる。本作の制作過程もなかなかユニークで、まずカナダで英語話者のカナダ人俳優たちを用いて実写撮影・録音し、その映像をベースにアニメーションを制作。このアニメ映像に合わせてフランス語の台詞を収録したものが公式のフランス映画になり、さらに深田晃司監督が演出した日本語版(翻訳協力は柴田元幸)が作られた、という流れだ。

言語と表現形式の変遷に注目すると、日本語の小説の翻訳から英語の脚本が書かれ、英語話者が演じた実写映像からアニメーションが制作され、さらに台詞をフランス語で収録した公式版、日本語で収録したバージョンがそれぞれ作られた。文化的背景の異なる日本語圏、英語圏、仏語圏の表現者たちがいわば作品をキャッチボールしたわけで、翻訳の過程で生じるわずかな表現のズレが映画そのものの奇妙な不確かさにつながっているように感じられ、それが個人的には楽しめるポイントの1つでもあった。

フォルデス監督のキャラクター造形からは、欧米の白人の目には東アジアの黄色人種がこんな風に見えているんだなというのが伝わってくる。これも文化を行き来した作品の妙味だろう。小村の風貌は、原作(「UFOが釧路に降りる」)ではハンサムでほっそりとした長身の設定だが、アニメの作画では村上春樹本人に寄せた気がする。

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高森 郁哉

4.0白昼夢にも似た夢と現の越境感が独特の余韻を残す

2024年7月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

以前、ある監督から「長編の村上文学は許可が下りにくい。短編小説の方がまだ可能性がある」と聞いたことがある。ただし、短編には短編で、長編とは違う特殊な持ち味があるため、結局のところ映画作家には斬新なアプローチが必要となるという。本作はまさにその言葉を裏付ける一筋縄ではいかない一作だ。6本の短編小説を緩やかに融合させている時点でかなり大胆というか恐れ知らずだが、もともと実写で撮られた映像をアニメーションへと変化させる過程で生じた、さながら白昼夢のような夢と現との越境感が独特な印象を刻む。極めて実験的、尚且つ出口のなかなか見えない作品であるため、見る者を選ぶ作品ではあるものの、小説でも映像でも変わらず「かえるくん」が愛らしく、一方、小説「かいつぶり」を基にした「長くて暗いトンネルをひたすら歩く」というイメージが、それそのものというよりは、主役らの心理模様として機能しているのが効果的で余韻を残す。

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牛津厚信

3.5To Be a Ghost in this Vision Called World

2024年6月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

This lucid French-directed anime is a talky musing on the descent into middle age life, a revisit to Linklater's Waking Life with the psycho-spiritual elements of a Miyazaki film. It was actually shot and animated similarly to the former, and instead of one character visiting different dreams, it's an anthology film based on Murakami's short stories. A welcome reflection on life's mundanity.

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Dan Knighton