コラム:下から目線のハリウッド - 第50回
2025年4月4日更新

Netflix史上最大のスマッシュヒット!全話ワンカットで描かれる衝撃のクライムドラマ「アドレセンス」を見逃すな!
「沈黙 サイレンス」「ゴースト・イン・ザ・シェル」などハリウッド映画の制作に一番下っ端からたずさわった映画プロデューサー・三谷匠衡と、「ライトな映画好き」オトバンク代表取締役の久保田裕也が、ハリウッドを中心とした映画業界の裏側を、「下から目線」で語り尽くすPodcast番組「下から目線のハリウッド ~映画業界の舞台ウラ全部話します~」の内容からピックアップします。
今回は、公開されてからあっという間に数千万回再生!Netflixオリジナルドラマ作品「アドレセンス」の魅力について解説していきます!
三谷:先日、Netflixオリジナルドラマ作品「アドレセンス」を一気見しました。全4話というちょうど良い分量と、視聴者を釘付けにする様々な工夫、予想を裏切る展開に、見終わった瞬間にもう一度見たくなったほどだったのですが、今回は、この話題作の魅力について語りたいと思います。普段作品レビューはしないのですが、今回は特別に。

(C)2024 Netflix, Inc.
久保田:これは有名?みんな知っているのかな。
三谷:これ、今めちゃくちゃ見られてますね。なんならNetflix史上、最も短い期間でトップクラスの再生数を記録した作品の一つとなっています。おそらく2025年の一発目のスマッシュヒットといえる作品ですね。3月13日に公開されてからわずか3週間で、Netflix史上で最も再生されたシリーズに名前を連ねました。
久保田:すごいな!ピコ太郎のPPAPみたいな感じ?
三谷:そうですね。ジャスティン・ビーバーに見つかる前…というよりもう見つかりたての状態といえます。
久保田:すごいじゃん!どんな内容なんですか?
三谷:Netflix作品ページには「ある少女の命を奪った犯人を追う警察。殺人の疑いで逮捕されたのはわずか13歳の少年だったという。」と説明されています。いわゆるクライムドラマですね。犯罪が起こって、それがどうして起きたのか、犯人は誰で、どんな理由があったのか、というのを解き明かしていく話です。
久保田:なるほど。この内容のどこがどうすごいの?
三谷:まず、このドラマの最大の特徴でもあるんですが、4話ともすべてワンテイクで撮影しているというところです。
久保田:演劇やライブ配信だったらワンカットにならざるを得ないですけど、そうじゃないのにワンカットで全部収めているの?
三谷:そうなんです。
久保田:「金八先生」第5シリーズの最終回、あのシーンってたしかワンカットなんですよ。でも20分もないと思う。「アドレセンス」って、1話1時間くらいあるでしょ?すごいね。
三谷:1時間という長さをワンテイクで撮るのもすごいのですが、このワンテイクの中で、場面がしっかりと切り替わるんですよ。演劇だと暗転がありますが、ここでは暗転すらないという。このカメラワークがピカイチで、教室のなかで動いてたカメラが、窓から屋外に出て、空を飛んでいくシーンがあって、本当にびっくりしました。
久保田:そんなこと、技術的に可能なのか?
三谷:カメラの気持ちになってみると、これめちゃくちゃ面白いですよ。いったいどういう技術で撮影しているのか想像がつかないくらいです。
久保田:カメラの気持ちになるってどういうことですか?三谷くん疲れてる? (笑)。
三谷:いえいえ(笑)。過去には「1917 命をかけた伝令」や「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」が全編ワンショットで話題を集めましたが。ドラマシリーズでこの構成は過去に類を見ません。

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久保田:映画やドラマって、通常、カットが入って場面が切り替わって、どこか一安心できるけれど、これは緊張感がすごそうだね。疲れそう。
三谷:まさにそうなんですよ。息をつく暇を与えないというか、同じ緊張感のまま最初から最後まで続くんですよね。でもそんな緊張感があっても、物語に没入できてしまうので、これはおそらくプリプロダクションでの準備が、とにかく練りに練られただろうことは、想像に難くないですね。素晴らしいです。本当に技術的な偉業だと思います。(※注釈/プリプロダクション:撮影に入る前に行う準備作業のこと)
久保田:撮り直しはしてしていないのかな。カメラを回してから時間が経った後にセリフを間違えたりとか…。
三谷:そういうことが起きてしまいそうじゃないですか、だからカメラが切り替わらない場面を見ていてハラハラするのですが、それが一切無い。役者陣もあっぱれですね。
久保田:仮にちょっとしたミスがあっても、それをミスだと感じさせない撮影の進行と役者の演技力が、そこにあるんでしょうね。
三谷:そうだと思います。ここがもうひとつの大きな特徴なのですが、演技力。このシリーズで主演のジェイミー役を務めているオーエン・クーパーさんは、それはもう素晴らしい演技を見せてくれるのですが、なんと映画・ドラマ・テレビ初出演らしいんです。怪物級の演技で、天才子役といっても過言ではないです。
久保田:トレーラーを観ましたが、彼の演技、戸惑ってる表情、興奮してる表情、何か企んでるような表情…これだけでも光っていると思ったんですよね。この子初主演なんだ!

(C)2024 Netflix, Inc.
三谷:まさに、その感情の演技の行き来がすごいんです。特に、彼が主軸となる第3話がおすすめです。最高です。これはいいもの見たなって、本当にたまらないです。この一言に尽きます。
久保田:変態のおじさんみたい(笑)。
三谷:そして、ジェイミーの父親役で出演しているスティーブン・グレアムさん。この人もまたすごい。演技もさることながら、実は「アドレセンス」の企画を立ち上げ、コンセプトを作ったうちのひとりなんです。
久保田:その人もトレーラーで観た。父親の苦しみを演技で表現していたね。

(C)2024 Netflix, Inc.
三谷:はい。この作品は、今いまの時代だからこそ扱うべき題材、「思春期の男女が抱える問題や悩み」をテーマにしています。いまのSNSが人間関係の中心をつくる社会で、傷つきやすい少年少女が、どのような影響をうけ、苦しむのか?ここで描かれる「男性らしさ」の固定的なイメージが、いかに人を傷つけ、考え方を歪めていくのか。極端にいえば、「非モテ童貞」と言われるような人たちにみられる、ちょっと歪んだ男女感みたいなものが、どのように心を蝕んで行くのか?ということなどが描かれています。
久保田:なるほどね。
三谷:物語の大事なポイントとして、作中にInstagramが出てくるんですよ。そのInstagramが学校の生徒たちの力関係にどう影響しているのかも描かれていて、非常に現代的だなと感じました。
久保田:日本でも同じような話、よく聞くよね。絶対評価じゃなくて、みんなと比べられるから、どんどん病んでいくみたいな。しかも、いじめとかじゃなくても、誰かが何気なく言った言葉が、思わぬところで誰かを傷つけたり。それがSNSで拡散されて、どんどん話が大きくなったりして。本当に怖いですよね。
三谷:そうですよね。だからそういういろんな問題を、今の10代は抱えてるんだよっていう話をドラマで展開していくわけですけど、それを当人たちではなく、親の目線からも描くんですよね。だから見ていてつらくなってくるんですよね。だって、もしいつか自分の子どもが何かに巻き込まれたりしたらどうする?という想像をかきたてる話で、切実な問題ですよね。
久保田:その描写をしながら、その子らの世代の目線でも物語が進んでいくわけでしょ?そこに視聴者の、ちょうどヒットしてるような年齢層のような父親の世代目線が入ってるわけですよね。
三谷:そうですね。
久保田:これはつらいですねえ。年頃の思春期のお子さんを持ってる方は、つらいけど見ちゃうだろうね。
三谷:そうですよね。世界的に受け入れられているのは、まさにそういう共通の悩みや苦しみを抱えてるからだと思うんですよね。だから他人事ではないというか、思ったよりも身近にそういう問題があるんだろうなっていうのを感じさせる。
久保田:それで全世界で今、急激にぐっとヒットしているんですね。
三谷:そうですね。ということで今回、本当にすごいものを見ました。ワンカットの撮影技術とオーエン・クーパーの演技だけでも見る価値がある作品だと思いますので、興味のある方は、Netflixでぜひ見てください。
久保田:スピード感的には3月13日公開されて、2週間ぐらいで急激に来てるんで、あと2週間ぐらいじゃないですか?周りに「もう見たよ」ってマウントをとれるのは。
三谷:そうですね。マウントをとれる期間はあと、1〜2週間ですかね。もしこれが株だったら、もう今、買った方がいいです。
久保田:株だったらね(笑)。
三谷:そういえば、花粉症で鼻づまりがひどかったのですが、「アドレセンス」について語ったら、鼻が通った気がします。
久保田:すごい!まさにオーエン・クーパー効果ですよ!
この回の音声はPodcastで配信中の『下から目線のハリウッド』(S11-#12 早くも2025年No.1?Netflix『アドレセンス』のすごさ)でお聴きいただけます。
筆者紹介

三谷匠衡(みたに・かねひら)。映画プロデューサー。1988年ウィーン生まれ。東京大学文学部卒業後、ハリウッドに渡り、ジョージ・ルーカスらを輩出した南カリフォルニア大学の大学院映画学部にてMFA(Master of Fine Arts:美術学修士)を取得。遠藤周作の小説をマーティン・スコセッシ監督が映画化した「沈黙 サイレンス」。日本のマンガ「攻殻機動隊」を原作とし、スカーレット・ヨハンソンやビートたけしらが出演した「ゴースト・イン・ザ・シェル」など、ハリウッド映画の製作クルーを経て、現在は日本原作のハリウッド映画化事業に取り組んでいる。また、最新映画や映画業界を“ビジネス視点”で語るPodcast番組「下から目線のハリウッド」を定期配信中。
Twitter:@shitahari