コラム:下から目線のハリウッド - 第10回
2021年5月28日更新
PG-12にR指定? Fワードの取り扱いは? 「レーティング」はどう決まるのか!
「沈黙 サイレンス」「ゴースト・イン・ザ・シェル」などハリウッド映画の制作に一番下っ端からたずさわった映画プロデューサー・三谷匠衡と、「ライトな映画好き」オトバンク代表取締役の久保田裕也が、ハリウッドを中心とした映画業界の裏側を、「下から目線」で語り尽くすPodcast番組「下から目線のハリウッド ~映画業界の舞台ウラ全部話します~」の内容からピックアップします。
今回のテーマは、「鬼滅の刃」の全米公開時も話題になった「PG-12」や「R指定」など、映画の「レーティング」にまつわる話をお届け。どんな基準で制限がかかるのか、日米での基準の違いはどうなっているのかを解説します!
三谷:今回は、いわゆる「レーティング」についてのお話をしようかと思うんですが、普段、レーティングって意識することありますか?
久保田:「これはR-15ですよ」って言われたら、暴力描写があったり、性描写激しいのかなって思うけど、「PG-12」は、観た結果よくわからないことが多いですよね。あれは何なんですか?
三谷:ですよね。まず、レーティングというのは、映画を観るにあたって、年齢で制限を設けている制度のことなんですが、じつは国によって基準が違ってるんですよね。
久保田:そうなんだ。
三谷:日本の場合、たとえば、「PG-12」というのは、「12歳以下の子は、親と一緒にみてくださいね」みたいなことで。親の判断で、子どもに見せたくないものは「見ちゃダメ」って言ってくださいねってことなんですね。つまり、個人の裁量に任せるという基準になるんです。
久保田:「PG」ってどういう意味なんですか?
三谷:「ペアレンタル・ガイダンス」の略です。親のガイドが必要ですよということですね。
久保田:あー、なるほど!
三谷:最近だと「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が、アメリカで公開されて大ヒットになってるんですが、日本だと「PG-12」での公開で、アメリカだと「R指定」公開なんですよ。
久保田:え、なんで!?
三谷:「鬼滅の刃」って戦闘シーンのクオリティが高いぶん、描写もキツめというか。血がバーっと出たりするじゃないですか。
久保田:それでR指定なの!? アメリカってもっとやばい映画あるじゃん!
三谷:まあ、そうなんですけど(笑)。
久保田:そのジャッジって団体とかがしてるの?
三谷:アメリカのレーティング機関は「全米映画協会」――「MPA(Motion Picture Association)」っていう略称なんですけど。日本でいう映倫(映画倫理機構)と同じような役目を果たしています。
三谷:で、日本のレーティングにはどんな区分があるのかというと、「G」「PG-12」「R-15」「R-18」という4つの区分があります。アメリカの場合はそれが5つになっていて、「G」「PG」「PG-13」「R指定」「NC-17」となっています。
久保田:なんかいっぱいありますね。
三谷:そうですね。まずは日本のレーティングからいきましょうか。「G」は、「ゼネラル・オーディエンス」、つまり、「誰でも観ていいですよ」という映画です。
久保田:全年齢対象ってことか。
三谷:そうです。で、次は「PG-12」。さっきも言いましたが、親御さんの裁量で判断してくださいねってやつです。
久保田:はいはい。
三谷:続いて「R-15」。Rは、「リストリクテッド(Restricted=観賞制限)」の略で、R-15は、PG-12よりも表現や描写の刺激が強いので、15歳未満はその作品のシアターへの入場や鑑賞が禁止ですよ、という意味になります。
久保田:Rが「リストリクテッド」っていうのは知ってました。なんせ「R-18」には造詣深いですから(笑)。
三谷:深そう(笑)。で、その「R-18」は、暴力だったり性的なシーンがあったり、麻薬とか覚せい剤を使うシーンがあるとか、より刺激が強い作品にかけられる制限です。
久保田:ここまでが、日本のレーティングですね。
三谷:はい。で、アメリカの場合なんですが、「G」と「PG」が同列に12歳以下に対する基準としてあって、その上に「PG-13」というのがあります。日本の「PG-12」と同じような意味ですね。
久保田:13ってこれはまた刻みますね。
三谷:で、アメリカの場合、次が「R指定」になっていまして、17歳未満は必ず親の付き添いが必要。ただ、親が一緒にいれば観てOKという基準になってまいす。
久保田:へえ~。アメリカはもう一個上がありましたよね?
三谷:そうです。それが「NC-17」というもので――。
久保田:ノーコンテスト?
三谷:そう遠くはないかも。実際は「No one 17 and under admitted」の略で、「17歳未満は誰も観てはいけない」というものなんですが、この指定を受けると興行的にもかなり厳しくなるので、ある意味ノーコンテストかもしれないです(笑)。
久保田:それは日本でいうと18禁みたいなやつ?
三谷:そうですね。それがアメリカだと17歳になっているわけです。残虐な描写だったりとか、ちょっと過激な性描写があったり、あとはちょっとヘアーが出たらアウト、みたいなとかもありますね。
久保田:あ~、じゃあちゃんと手入れしておかないとダメですね。
三谷:ヘアーが無ければいいって、そういう話なのかなぁ(笑)。
久保田:だから、アキラ100%さんはセーフってことですよね、ノーヘアーだから。
三谷:たしかに(笑)。
三谷:と、まぁそんな区分がありまして、暴力描写、性的描写、あとはドラッグなんかの反社会的な描写がNGというところで、割と基準はハッキリしているんですが、アメリカならではのNGとして「言葉遣い」があるんです。
久保田:発音が悪いってこと?
三谷:英語の発音が悪いと、たしかにアメリカの映画では起用されにくいのは確かにありますけれど、そうではなくて「shit」や「fuck」とかですね。
久保田:あ~、いわゆる「Fワード」というやつですね。
三谷:それですね。ファッ…クシミリ(facsimile=模写伝送、いわゆるFAX)みたいな(笑)。
久保田:はいはい。ファッ…カルティ・オブ・ロ―(Faculty of Law=法学部)みたいな(笑)。
三谷:で、今のくだりでこの番組はR指定になります。
久保田:嘘だよ! だってこれは字面じゃん! ファッ…クシミリはFAXだよ!?
三谷:じつは、アメリカの基準の中で、「PG13」から「R指定」になる基準が、「ファックの数」なんですよ。
久保田:え、マジで?
三谷:マジです。PG-13は、1ファックまでOKなんですね。
久保田:それはそういう描写じゃなくて、フレーズなの?
三谷:フレーズで、もう言葉として。1ファックまでセーフ。2ファックでR指定。
久保田:3ファックはアウト? ゲームチェンジ?
三谷:そうそう、もう「退場!」みたいな(笑)。
久保田:えー、そうなんだぁ…。
三谷:そうなんですよ。実際の話では「ハミルトン」というミュージカル映画があるんですが、それがねファックを3つ使っていたので、「PG-13」にするために、ファックを2つ削らなければいけなかったということがあったんですよ。
久保田:それは大変だ。よくテニスプレイヤーが「ファック!」って言うとまずいから、「ファー!」みたいに、そのワードは言ってませんよ、みたいなことするけど、それは映画ではアリなんですか?
三谷:そう、それはアリなんですよ! たとえば、「ファック」の代わりに「ファッジ」って言ったりするんですよね。
久保田:ほとんどもう、小学生の言い訳じゃん。
三谷:そうですね(笑)。難しいのは「ファック」も副詞的に使うと「程度がはなはだしい」みたいな意味になるんですよね。「Fuckin great!(ファッキングレイト)」と言ったら、「すげぇ!」みたいなニュアンスで。
久保田:それもR指定になるんですよね?
三谷:そこちょっと曖昧かもしれないです。場合によっては逃れるかもしれないですね。で、そんな基準があるレーティングは、いつどのタイミングで決められるのかという話なんですけど。映画が完成から公開までに出てくるときもありますし、予告編を出す時点でレーティング審査が進むときもあって、わりとまちまちだったりします。
久保田:決まったタイミングじゃないんだ。
三谷:一応、「ピクチャーロック」という、映像はこれ以上編集しませんよ、という段階になったときに見せるという感じではあります。
久保田:なるほどなるほど。
三谷:あと、じつは「PG-13」というのはもともと存在しなかったんですよ。
久保田:いつできたの?
三谷:「PG」と「R指定」しかない時代がずっとあったんですが、きっかけはスティーブン・スピルバーグ監督の「レイダース 失われたアーク《聖櫃》」だったと言われています。
久保田:何があったんですか?
三谷:「レイダース」は、そのままいくと「R指定」がついちゃうような状況だったんです。でも、より広い間口でお客さんに届けるために、スピルバーグ監督がMPAと交渉して「新しいカテゴリーをつくってほしい」と言って、新たに設けられたと言われているんです。
久保田:さすがスピルバーグ、パワーあるなぁ。でも、そこまでしてもR指定は避けたかったんだね。
三谷:そうなんです。レーティングって集客にすごく影響するところなんですよ。観られる人も減るし、宣伝もしにくくなってくるんですよね。そういうこともあって、今、間口の広い映画はだいたい「PG-13」になっていますね。
久保田:映画製作者からすると「R指定」がつくとヤダって感じ?
三谷:そうですね、売上がだいぶ減ってしまうので厳しいかなと。ただ、やっぱりストーリーのバランスもあるじゃないですか。たとえば、PG-13の「ジョーカー」って観たくないじゃないですか。
久保田:そうね。激しいからこそ魅力的みたいなところがあるもんね。
三谷:ただ「ジョーカー」はやっぱりすごくて、R指定作品で初めて、興行収入で1000億円の大台に乗った作品なんですよ。観客層が狭いなかでワンビリオンダラーになったのは快挙です。
久保田:逆に「このジャンルで、R指定がついた」とかで話題になって当たるケースはあったりするんですか?
三谷:R指定のコメディが流行ったことがありました。「ハングオーバー!」はそうだと思うんですけど。それまでのコメディは家族全員にウケるみたいなものだったんですけれど、「ハングオーバー!」は麻薬も出てくるし、「ファック」も言いまくるし。それが逆に面白いみたいなことで、間口が広がったりしましたね。
久保田:なるほどね~。そろそろお時間ですけど、今回の下ハリは完全にR指定だったということで。
三谷:そうですね、前半でかなりファックを連発したので。
久保田:今も言っちゃってるしね(笑)。もし、クレームがある方は、ファッ…クシミリでお寄せいただければ。
三谷:今どき、FAXですか(笑)。
この回の音声はPodcastで配信中の『下から目線のハリウッド』(#44 PG-12にR指定? Fワードの取り扱いは? 映画の「レーティング」はどう決まるのか!?)でお聴きいただけます。
筆者紹介
三谷匠衡(みたに・かねひら)。映画プロデューサー。1988年ウィーン生まれ。東京大学文学部卒業後、ハリウッドに渡り、ジョージ・ルーカスらを輩出した南カリフォルニア大学の大学院映画学部にてMFA(Master of Fine Arts:美術学修士)を取得。遠藤周作の小説をマーティン・スコセッシ監督が映画化した「沈黙 サイレンス」。日本のマンガ「攻殻機動隊」を原作とし、スカーレット・ヨハンソンやビートたけしらが出演した「ゴースト・イン・ザ・シェル」など、ハリウッド映画の製作クルーを経て、現在は日本原作のハリウッド映画化事業に取り組んでいる。また、最新映画や映画業界を“ビジネス視点”で語るPodcast番組「下から目線のハリウッド」を定期配信中。
Twitter:@shitahari