コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第15回
2014年10月23日更新
没後30周年フランソワ・トリュフォー展がパリで開催
ヌーべルバーグを代表する巨匠にして恋愛映画の達人、フランソワ・トリュフォー。日本では「大人は判ってくれない」に始まるジャン=ピエール・レオ演じるアントワーヌ・ドワネルのキャラクター・シリーズが親しまれてきたのはよく知られるところ。自身も大の映画狂だった彼は、1968年にある雑誌の寄稿でこう記している。「僕が知っていることは全部映画から、映画を通して学んだ。映画によって人生がなんたるかがわかった。そして映画は――その歴史、その過去、その現在はシネマテークで学ぶものだ!」そんな彼の没後30周年を記念して、パリのシネマテークでトリュフォー展が開催されている。
会場は、「幼少~思春期」「批評家時代」「ヌーべルバーグ」「アントワーヌ・ドワネルと感情教育」「愛の情熱」「子供時代を写すこと」といったテーマに沿って、ほぼ時代順に展示されている。書くことが好きだったトリュフォーだけに、展示は個人的なレター、撮影日記などドキュメントが多いものの、視覚的にも楽しめるような工夫もされている。たとえば「逃げ去る恋」で使われたタイプライターや、カトリーヌ・ドヌーブが「終電車」で着用したドレスなどの小道具、「大人は判ってくれない」や「夜霧の恋人たち」のポスター、さまざまな作品の抜粋映像など。ジャン・コクトーが1960年にトリュフォーに送ったイラスト入りのレターや、巨匠リチャード・アベドンが1971年に撮ったトリュフォーとレオの2ショット写真もある。さらにトリュフォーが敬愛するアルフレッド・ヒッチコックが、アメリカン・フィルム・インスティテュートから功労賞を授与された際のトリュフォーの演説場面の抜粋(彼が冗談を言っても終始仏頂面で聞いているヒッチコックが可笑しい)や、「未知との遭遇」で俳優としてトリュフォーを起用したスティーブン・スピルバーグのインタビュー映像、日本のポスターや山田宏一氏の著書を飾ったコーナーもある。
シネマテークならではのユニークな企画が、最後の部屋で上映されている短編だ。これはトリュフォーを直接には知らない現代の若手俳優たちがどのように彼を認識しているかを、女流監督アクセル・ロペールがスケッチ風に描いたもので、バンサン・マケーニュ、アデル・エネル、バンサン・ラコストなど、今フランスで赤丸急上昇中のメンツが出演している。たんに回顧展になるのではなく、トリュフォーやヌーべルバーグの影響がいかに現代の映画人たちに影響を与えているか、ということを伺わせて面白い。
一般公開前の内覧にはジャン=ピエール・レオをはじめ多くの著名人が訪れた他、メディアでも話題となった。さまざまな記事のなかでも印象的だったのは、イザベル・アジャーニがテレラマ誌に「アデルの恋の物語」のなれそめを語ったものだ。当時19歳の駆け出し女優だった彼女を発見したトリュフォーは、アジャーニが「この役には自分は強すぎて向いていない」と及び腰だったにもかからず熱烈に口説き、彼女が所属していたコメディ・フランセーズと対立。結果的に離脱させてまでキャスティングした。撮影中は熱烈なラブレターを送り、後にそれがアジャーニの母親に見つかって激昂されたとか。女優との恋の遍歴で知られるトリュフォーらしい逸話である。
11月末まではトリュフォー映画の特集上映も併せて開催中。週末ともなれば子供連れの来場者も加わり、かなりの賑わいを見せている。ゆかりの地、シネマテークでの反響に、きっと天国のトリュフォーも喜んでいるに違いない。(佐藤久理子)
La Cinémathèque française(http://www.cinematheque.fr)
フランソワ・トリュフォー展/2015年1月25日まで
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato