コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第11回
2014年6月26日更新
日本のアニメが大健闘 アヌシー国際アニメーション映画祭で3作が受賞
6月はアニメ映画祭として世界最大、最長の歴史を誇るアヌシー国際アニメーション映画祭の時期だ。ここ数年の状況を見ると、日本のアニメがますます注目を集めているのが伺える。第54回目を迎えた今年は最優秀(審査員クリスタル)賞と観客賞がアレ・アブレル監督のブラジル映画「O Menino e o Mundo」にわたったものの、日本の3作品が賞に絡む健闘ぶりだった。またオープニングを飾った「かぐや姫の物語」の高畑勲に、名誉クリスタル賞が授与された。
コンペティションの受賞作は、審査員特別賞に西久保瑞穂の「ジョバンニの島」、短編を対象にしたカナルプリュス・クリエイティブ・エイド賞に、今年のベルリン映画祭にも出品された水江未来の「WONDER」、そしてネピアのティッシュをモチーフにした新井風愉の短編「Tissue Animals」が、コマーシャル部門の最高賞であるクリスタル賞を受賞した。
「ジョバンニの島」はフランスですでに5月28日に劇場公開され、パリとその近郊だけでも20館で上映された。アニメ作品としては小規模ではあるものの、批評家の評価は高い。ちなみに日本映画としては最大規模の宮崎駿の「風立ちぬ」はパリとその近郊で57館、是枝裕和の「そして父になる」も実写作品としては多い42館。通常は20館に満たないのが日本映画のアベレージだ。全国紙のル・モンドは、「歴史的な苦い体験が、ときに汎神論的な自然礼賛の叙情とイマジネーションに彩られながら、すべてが調和的に、ノスタルジックでエモーショナルなトーンで語られる」と評価。映画雑誌のポジティブも、「シンプルで独特のグラフィック、雪に覆われた素晴らしい情景。すべてが美しい光とパステル調の色彩で描かれた、夢幻的なメロドラマ」と形容した。
ただ少し残念なのは、フランス語字幕を付けた日本語版を上映する館が少なく、フランス語吹き替え版がほとんどであること。これは子供連れのファミリー層を対象にしているゆえんだが、フランスではまだまだティーン以上は字幕付きオリジナル版を見たがる傾向が強いだけに、かえって不利になったのではないかと思う。本作の内容は幼い兄弟を主人公にしているとはいえ、歴史的背景の複雑さや戦争の悲劇的な側面があまり児童向けとは言えないからだ。そのせいか、興行的には尻つぼみの印象がある。むしろファミリー向けアニメというイメージを払拭し、ふだん外国映画を見慣れているような大人の観客に訴求した方が良かったのではないか。
「かぐや姫の物語」は今年のカンヌ映画祭の監督週間部門でも披露されたものの、監督がカンヌを訪れなかったこともあり、むしろアヌシーで注目されていた。受賞について監督は、「こんな賞を頂けて光栄な一方で、自分も年を取ったことを認識させられます(笑)。アヌシーの観客はアニメにとても詳しい。そんな場所でオープニング作品として上映されることは名誉であるとともに、どう受け止められるのかとても関心がありました」と語った。たしかにピクサーやディズニーのアニメを見慣れている西洋の観客からすると、まるで水彩画のように簡略化された本作のビジュアル・スタイルは違和感があるかもしれない。だがそれこそがオリジナリティとして高い評価を受けたことは間違いない。週刊誌のテレラマは、「結果はただただ素晴らしい。まるで突然絵画が動き出したかのようだ。斬新さ、詩情、協調的な色彩が本作をユニークでとても日本的な、“版画アニメ”と言えるようなものにしている」と絶賛した。
本作も6月28日にフランスで劇場公開になったばかり。「竹取物語」については一般的にほとんど知られてはいないものの、ジブリ映画として大きく宣伝されているだけに、どれだけ興収が伸びるか期待がかかるところだ。いずれにしろ新旧取り混ぜた監督たちが次々に紹介される現在の土壌は、日本のアニメのオリジナリティと、それに対する海外の観客の期待値を物語っていると言えるだろう。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato