コラム:大高宏雄の映画カルテ 興行の表と裏 - 第5回
2013年3月26日更新
3月11日が過ぎて、すでに2週間以上が経つ。この2年、2011年が大きな落ち込みを見せ、12年は幾分持ち直した映画興行は、13年に入り、今のところは順調な成績を維持している。このほど、邦画、洋画の大手、中堅配給会社13社の1~2月の累計興収が、279億8395万5203円と確定した。この成績は昨年の1~2月累計と比較し、122.7%の水準を維持した。ちなみに、興行大手のTOHOシネマズ(567スクリーン)では、この2月だけで、興収が37億2360万2566円を記録して、昨年の30.2%増という好調さだった。順調とは、そうした意味である。
昨年と比較して、ある変化が表れていることが、はっきりと見て取れる。洋画に、少し復調の兆しが見えてきたのである。これは、単純にうれしい。そのように、個人的な感情を思わず述べたくなるほど、それは久しくないことだった。その予兆は、昨年の年末にあったと言えようか。「007 スカイフォール」が、大ヒットに近いスタートを見せたのである。といっても、ここで一つの注釈がいるだろう。
洋画のアクションものの場合、スタートが大ヒット、あるいはヒットしているような成績であっても、とたんに失速して予想を大幅に下回る最終成績となってしまうことが多々あったからだ。幸いというのか、「007 スカイフォール」は、その轍をそれほど踏むことはなく、最終的に27億3000万円まで数字を伸ばした。この成績は、90年以降の007シリーズの最高成績でもあった。
この“流れ”は、同じ正月映画の「レ・ミゼラブル」にも波及した。というより、波及したかのように見えた。41億円を超えた時点で歴代ミュージカル映画の最高興収を記録した本作は、3月14日に55億円を超えた。最終で57億円前後が見込まれる。芸術性が高く、ドラマもしっかりしており、音楽面の効果も申し分のないミュージカル映画が、ここまで成績を伸ばしたのは、おそらく極めて日本的な”光景”だったかもしれない。うがった見方をすれば、これは近年の洋画低迷の理由を逆照射したとも言えるのではないか。
つまり、物量、CG主体のハリウッド娯楽大作に飽き飽きした日本の観客は、結果として洋画に少なからず幻滅してきた経緯があった。当然だろう。洋画は内容的に同じことの繰り返しのなかで送り出される感じが強くなり、目の肥えた日本の観客からすれば、満足度が高くなるわけがないからである。「レ・ミゼラブル」は、そうした作品ではないから、関心の度合いを非常に高くし、満足度を高めた。それが、逆照射だというのだ。
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「テッド」の大ヒットが、これに続いた。3月17日の時点で、興収40億円を超えた。この大ヒットは、当然ながら「レ・ミゼラブル」の興行とは全く違う。後者の場合、ハリウッドの良心、本物感覚、迫力に日本の人々が引き寄せられたのに対して、前者は言ってみれば、ハリウッドの“茶目っ気”が、日本のとくに若い層に親近感をもたらしたのであろう。コメディ枠ではあるのだが、ユーモア感覚の違いが、日本ではいつもネックとなる米製コメディの独自性が消え、代わりにキャラクターの色が強烈ににじみ出たのである。
「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」は、19億円を超えて健闘。アクションものの「アウトロー」は、いささか失速気味であったが11億5000万円前後、「ダイ・ハード ラスト・デイ」が20億円少しといったあたりで推移しそうである。「フライト」も、11億円前後は期待できそうだ(いずれも、最終興収見込み)。「ダイ・ハード ラスト・デイ」などは明らかに足りないが、久しぶりに洋画の興行に活気が出ている感じはある。では、このような洋画の“流れ”には、いったい何が起きているのか。