コラム:ご存知ですか?海外ドラマ用語辞典 - 第7回
2020年6月9日更新
ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの業界用語を通じて、ドラマ制作の内部事情を明かします。
【米ドラマのカテゴリー】リミテッドシリーズ、ミニシリーズ、イベントシリーズの違いとは?
【今回の業界用語】
シリーズ(series):継続を前提として制作される番組
リミテッドシリーズ(limited series):エピソード数が限定された番組(延長されることもたまにある)ミニシリーズ(miniseries)、イベントシリーズ(event series)などと呼ばれることもある。
アメリカ映画に詳しくなりたいと思ったら、アカデミー賞受賞作品を辿っていくのはなかなか賢い方法だ。レンタルビデオや動画配信サービスのライブラリーはまさに玉石混交で、ある程度の知識がなかったり、自分の好みが分かっていない人はハズレを引いてしまうリスクが高い。90年以上の歴史と権威を誇るアカデミー賞の受賞作というフィルターで絞り込めば、好きな作品に出会える確率はぐっと高くなる。「市民ケーン」「2001年宇宙の旅」「レイジング・ブル」「プライベート・ライアン」といった名作が選ばれていなかったり――ヒッチコック作品に関しては信じられないことにゼロだ――時代の試練に耐えられなかった作品も少なくないが、手当たり次第に見るよりずっと効率がいい。
同様に、アメリカのテレビドラマに興味を持ったなら、米テレビ界最高の権威であるエミー賞受賞作品を辿っていくのが正解だ。ただし、エミー賞の作品賞は複数あるので注意が必要である。たとえば2019年は、「ゲーム・オブ・スローンズ」(ドラマシリーズ部門)、「Fleabag フリーバッグ」(コメディシリーズ部門)、「チェルノブイリ」(リミテッドシリーズ部門)3作品がドラマの作品賞を受賞している。エミー賞においては、ドラマが細かくカテゴリー分けされているためだ。
「シリーズ」とは、継続を前提として作られたテレビドラマのことで、アメリカの大半のテレビドラマがこれに当たる。いったんドラマが人気を博すと、人気が持続するかぎり、テレビ局は放送継続を望む。あとは、制作陣や出演者と契約条件が折り合うかどうかだけだ。1年間あたりのエピソード数はネットワーク局のドラマなら22~24話、ケーブル局やストリーミングだと8~13話が一般的だ。なお、1年間に放送されるエピソードの集まりをシーズンと呼ぶ。たとえば、「NCIS ネイビー犯罪捜査班」は17シーズンの放送を終えたばかりである。
シリーズのなかで、ドラマチックな要素が多ければドラマシリーズ部門、コメディ要素が強ければコメディシリーズ部門にカテゴライズされることになる。
では、リミテッドシリーズとはなんだろうか? リミテッドとは「限られた」という意味なので、「有限のシリーズ」となる。可能な限り続くことを目指す「シリーズ」に対して、「リミテッドシリーズ」は1シーズンで完結する。全5話の「チェルノブイリ」はまさにこれにあたる。
「TRUE DETECTIVE トゥルー・ディテクティブ」や「FARGO ファーゴ」や「アメリカン・ホラー・ストーリー」など、同じ世界観を維持しながら、シーズンごとに異なる物語が描かれるアンソロジーシリーズも、エミー賞ではリミテッドシリーズ部門に入る。
ややこしいことに、テレビ局は「ミニシリーズ」という名称を使うこともある。文字通り「小さな」シリーズなので、リミテッドシリーズと同様1シーズンで完結するドラマだ。ただし、「リミテッド」が完結することを伝えているだけなのに対し、「ミニ」はエピソード数が少ないことを示唆している。つまり、どちらも1シーズンで完結するにしても、エピソード数を比較すると、「ミニシリーズ<リミテッドシリーズ」という関係が成りたちそうだ。
さらにややこしいのは、「リミテッドシリーズ」のなかには、継続するものがあることだ。ニコール・キッドマンやリース・ウィザースプーンら豪華キャストで知られる「ビッグ・リトル・ライズ セレブママたちの憂うつ」は、当初ミニシリーズとして宣伝されていたにも関わらず、シーズン2に突入した。“終わる、終わる詐欺”のようだが、当初は1シーズンで完結の予定だったといわれている。だが、評判が良かったことに加えて、同番組を放送する米HBOの新オーナーとなった米通信大手AT&Tの要請により、番組の制作本数を増やさなくてはいけなくなった背景がありそうだ。
また、1シーズンで完結するドラマが「イベントシリーズ」と宣伝されることもある。「特別シリーズ」という意味だが、実質的にはミニシリーズやリミテッドシリーズと変わらない。イベント感を出して、視聴者の関心を惹こうとするマーケティング用語だ。
なお、忙しい人には、エピソード数が少ないミニシリーズ/リミテッドシリーズ/イベントシリーズのほうから鑑賞することをおすすめします。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi